お寺や神社への支払いは非課税、宝物殿は? -旅行業と消費税(1)

旅行・観光ビジネスで役立つ税知識 <第2回>

<国内旅行編> 

こんにちは。税理士の菊池美奈です。

今回ご紹介したいのは旅行ビジネスと消費税について。2014年4月の税率アップを前に、運用に迷われている方も多いのではないでしょうか。旅行業においては、取引形態が他の業種に比べてバラエティに富んでいて、「課税」「免税」「非課税」「不課税」といった消費税のすべての取引が交錯しており、消費税の扱いがとても複雑になっています。旅行会社にとっては、この消費税の取り扱いを正しく行うことが、会社経営の観点からも重要です。今回は旅行業と消費税の基本をご紹介します。


▼消費税の基本的な考え方 -課税?免税?取引が交錯する旅行業

平成25年度の税収予算額は、46兆8000億円となっていますが、そのうち消費税が占めるのは10兆円超。所得税の13兆9000億円に次ぐ税収の柱となっています。法人税が8兆7000億円ですから、それを超える、まさに日本の基幹税目です。旅行業における、消費税の取扱をご説明する前に、消費税の基本的な考え方をご紹介しましょう。

消費税というと、一般の消費者が負担するような印象がありますが、一般の消費者は間接的に負担していて、納税義務者は会社や事業主になります。例えばA社が、1050円(本体1000円、消費税50円)の商品を販売していたとします。A社は、その商品をB社から840円(本体800円、消費税40円)で仕入れていました(仕入以外の経費は、考慮しないとします。)A社が支払う消費税は、売上げにかかる消費税50円から、仕入にかかる消費税40円を差引いた10円になります。A社の儲けは、1050円-840円-10円=200円になります。

仮に消費税が8%になったとします。A社は商品を1080円(本体1000円、消費税80円)に値上げしました。仕入先のB社も卸値を864円(本体800円、消費税64円)に値上げしました。A社の支払う消費税は、80円-64円=16円。A社の儲けは、1080円-864円-16円=200円となり、消費税率が変わる前と同じです。一般消費者は、1050円が1080円に値上げしたので、30円を負担することになり、家計が圧迫されます。

ここでC社が同じ商品を、1060円(本体981円、消費税79円)で販売したとします。仕入先は、A社と同じB社で、卸値は864円だったとします。そうすると、C社の納める消費税は、79円-64円=15円、C社の儲けは、1060円-864円-15円=181円になります。C社の儲けは200円から181円になるので19円減ります。でも消費者は、1080円で販売しているA社より安いC社で購入するようになり、C社はA社の顧客を奪い儲けを増やせるかもしれません。

このように、消費税は売値の一部を構成し、消費者や会社・事業主の間でバランスがとれるところで負担しているものと考えられます。


<ここがポイント!> 利益確保目的の請け会社に対する値下げ要求はNG

上記の事例で、C社が大企業で、自社の利益を確保するために、B社の卸値864円を値下げすることを要求することが考えられますが、この行為は「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(平成25年6月5日成立)により禁じられています。

<国内旅行の消費税>

前頁でも書きましたが、旅行業においては、「課税」「免税」「非課税」「不課税」といった消費税のすべての取引が交錯しており、消費税の扱いがとても複雑になっています。消費税を正しく扱わないと、会社の経営にも影響するほどの金額になる場合もありますので、注意が必要です。


▼募集型企画旅行は課税売上 -全額が消費税の対象に

旅行会社の取扱商品は様々あり、その消費税の扱いは異なります。まず、自社で主催する国内旅行(募集型企画旅行)がありますが、これは旅行業者と旅行者のサービス提供の請負契約となりますので、原則的に全額が売上げです。国内旅行なので、全額が消費税の対象になります。これを「課税売上」と言います。ホテルやバス会社などへの支払が伴うと思いますが、これも国内なのでその料金には消費税は含まれています。これを課税仕入と言います。会社が消費税を計算するときは、課税売上げから課税仕入れを差引いて計算します。

例えば、旅行代金10万5000円、ホテル代5万2500円、鉄道代4万2000円だったとします。一般的な募集型企画旅行の場合は、課税売上げ10万5000円、課税仕入れ5万2500円+4万2000円=9万4500円となり、消費税は、5000円-(2500+2000)=500円。会社の利益は、10万5000円-(5万2500円+4万2000円)-500円=1万円になります。

▼手配旅行は差額が「売上げ」に -仕入れは預り金扱い

国内の手配旅行や、自社募集型企画旅行と称していても実質が手配旅行のものがあります。これらの場合には、旅行代金全体からホテル代などを差引いた残額のみを会社の売上として認識します。上記の例では、お客さまから受け取った10万5000円のうち、ホテル代5万2500円と鉄道代4万2000円は預り金として経理します。ホテルや鉄道会社に支払いした時は、預っていたものを支払ったという経理方法になります。旅行会社が納める消費税は、5000円-2500円-2000円=500円になります。会社の儲けは、-(5万2500円+4万2000円)-500円=1万円になります。ホテル代、鉄道代は、預り金なので消費税は関係ありません。


<ここがポイント!> 寺社仏閣への拝観料は非課税仕入、宝物殿は課税仕入れ

国内の募集型企画旅行では、ツアーで神社仏閣などの見学を組み込むことがあると思います。この場合の拝観料や入場料は、旅行業者にとっては課税仕入れになるのでしょうか?消費税の対象は「国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等」=事業主などが商売で販売やサービスを行うことです。神社仏閣の拝観料は、一般的には入場料というより、宗教上の「お賽銭」「喜捨金」としての性格のもので、神社等では課税売上としていません。したがって、旅行会社でも課税仕入れにはなりません。ただ、神社仏閣の宝物殿などは、宗教上の拝観料と異なり、美術館や博物館の入場料・入館料と同様の扱いで、課税仕入れになります。

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