アジア域内の相互旅行が鍵を握る時代に
日韓台3マーケット徹底比較
このほど開催された2013年「JATA国際観光フォーラム」。セッション2では「成長から成熟へ 日本人海外旅行マーケットの真価を問う」と題して、旅行市場で相互関係が深い韓国・台湾を比較、相違点を検証して日本の強みを浮き彫りにするパネルディスカッションが行われた。
今回のレポートでは、フォーラムで語られた各々のマーケット・トレンド、比較を紹介する。相違点から課題を抽出するまでには至らなかったものの、今後それぞれのマーケットが成長するためには、イン・アウト双方向での拡大が不可欠であることが繰り返し強調された。
【パネリスト】
- 太平洋アジア観光協会 (PATA) ジョン・コルドフスキー 氏
- 韓国旅行業協会 (KATA) 会長 梁武承 氏
- 台湾LION GROUP 董事長 王文傑 氏
【モデレーター】
- 日本交通公社主席研究員 黒須 宏志氏
▼業界予測1:2030年の海外旅行者数は18億人に
中産階級が旅行マーケットを支える時代がやって来る
PATAのジョン・コルドフスキー氏は、国連世界観光機関(UNWTO)が発表した予測をもとに、2030年には全世界の海外旅行者数は18億人規模に達すると発表した。中でも、中産階級が激増するアジアからの旅行者数が著しく増加し、アジア域内への旅行がそのメインになるという。
また、PATAが発表した今後5年の旅行者数推移予測では、日・台・韓相互の渡航状況は、イン・アウトとも緩やかな伸びを示すとした一方、それぞれからミャンマー、スリランカ、ブータンなど、今はまだマイナーなデスティネーションへの渡航者数が大幅に増加すると予測した。
同氏は、激変するマーケット環境の波に乗って自国の旅行業を育てるためには、情報を積極的に入手して綿密なマーケティングを行い、効果的な資源分配をすることが重要であると強調した。
▼業界予測2:日本、インバウンドに大きな伸びしろ
消費マインド向上でアウトバウンドも成長の余地あり
台・韓と比較すると日本のアウトバウンド旅行は、平均旅行日数が短いものの1泊当たりの消費額が高く、また北米・ヨーロッパなどロング方面の比率が高いことが特徴となっている。黒須氏はこれを「マーケットが既に成熟しているため」と説明。その上で今後の渡航状況については、シニアマーケットの継続的な拡大や、若年層の旅行離れに歯止めがかかったこと(法務省統計)、これまでマイナス傾向であったレジャー支出の意識がここ数年でプラスに転じていること(レジャー白書)などを根拠に、「日本人の消費マインドは明らかに上がっており、さらに伸びる可能性がある」と、前向きな姿勢を示した。
なお、インバウンド市場の展望について言及はなかったが、コルドフスキー氏が言うとおり、近い将来アジアのインバウンド需要が爆発的に伸びるのであれば、ターゲットに応じたマーケティング戦略の構築や、環境整備が急務であるといえるだろう。
▼韓国、台湾市場の分析
【韓国市場】
イン・アウトともに2年で倍増
未婚女性「ゴールドミス」に熱い視線
2000年にはインバウンド、アウトバンドともに年間500万人規模だった韓国マーケットは、2012年インバウンド1373万人、アウトバウンド1114万人と、どちらも2倍以上の成長を遂げている。
梁武承KATA会長は、韓国で注目されている旅行の販売チャネルとして、TVショッピングを挙げた。商品のセールスポイントや旅行先のタイムリーな情報を、映像を通じて紹介し、購買意欲を掻き立てるのがその特徴。マーケット全体でのシェアはまだ1ケタ台と低いものの、放送後の反響は大きく、1時間の放送で約4000件の問い合わせがあることもあるという。
さらに、同国で脚光を浴びているセグメントとして、30~45歳の未婚女性層「ゴールドミス」を紹介。可処分所得のほとんどを自分の為に費やし、旅行への支出を惜しまないこの層には、今後も業界各社が重点的なプロモーションを展開していくという。
政治問題による訪韓旅行者は「危機的状況」
均衡をとるために業界の知恵が必要
同氏は、政治問題が大きな枷となっている日韓の渡航状況についても言及した。日本から韓国への渡航者数は、2013年上期で前年同期比26%減と危機的状況。韓国から日本への旅行者数は上期の段階では前年同期比38%増と2ケタ成長まで戻っていたものの、8月に福島原発の汚染水問題が発覚してからは、如実に減少しているという。このことに触れ、「互いに均衡が取れた安定したマーケットを取り戻すために、両国の業界関係者が知恵をしぼる必要がある」と訴えた。
【台湾市場】
イン・アウトともに堅調、活発で安定した市場
訪日旅行は増加と高額商品傾向に
2012年のアウトバウンド旅行1024万人(前年比6.84%増)、インバウンド旅行約731万人(前年比20.11%増)と、イン・アウト双方堅調な伸びを示す台湾。年間の海外渡航者数は全人口の44%にもおよび、日本の15%、韓国の27%を大きく上回る。
ライオングループ王文傑董事長は、この理由を「台湾では旅行が基本的なライフ・スタイル・ニーズとして広く定着しているため」と説明した。また、世代別の海外渡航者数では30代がもっとも多く、40代、50代と続く。これについては、「幅広い世代のニーズが多いことが、台湾マーケットが活発で安定していることを示す」としつつ、「将来的には日本のように、シニア需要に偏ることが予想されるので、その準備が必要」と述べる。
日本への渡航者数も順調に推移しており、2013年8月の時点で、既に前年1年間の渡航者数を上回っている状態。同氏は、背景に日本のオープンスカイ政策と円安効果があることを前提に、「台湾ではテーマ性を持つ旅が好まれるので、グルメ、温泉、文化、ショッピングなど、さまざまなテーマを提供できる日本に強みがある」という。さらに、廉価ツアーの需要に偏っている韓国と比較して、「日本は、自治体や企業が台湾マーケットを徹底的にリサーチし、ニーズに合わせた商品を提供していることが奏功し、高額商品の販売に結びついている」と語った。
>>> 【レポート】世界のトップが期待する日本の観光業 -JATA国際観光フォーラムより(1)