カタールの首都ドーハ(前編)
10年ぶりの変わる街並み、変わらない人と文化
ドーハを訪れるのはかれこれ10年ぶりだ。現地在住の友人たちにそのことを告げると、彼らは笑って「10年も過ぎてしまえば、いままで一度も来ていないのと同じだよ」と口をそろえた。ドーハはこの10年でまったく別の街に生まれ変わったから、と。
ナジワとサジャド──ふたりの友人の案内で街を歩いてみて、その変貌ぶりに私も目をみはった。2008年に完成した中東随一の規模というイスラムアートミュージアムへ足を運び、対岸に建ち並ぶ高層ビル群を眺める。私が知っていた10年前のドーハとは、とても同じ街とは思えない。ナジワがいちいち足を止めては「撮影しなくていい?」と私にほほ笑みかける。レバノン出身の女性編集者だ。
「ドーハはまだまだ変わるよ」と、ナジワの横でサジャドがうなずいて言った。「私がイラクからドーハに移り住んだ1999年は、まだまったくといっていいほど何もなかった。ミスター・アキモトも10年ぶりの再訪なら、びっくりするのも無理はないさ」
カタールの旅を終えた人から、以前は「退屈な街だった」「あの国に行ってもやることがない」といった感想を私もよく聞いた。見るべきものが何もない、というのは私も初めてのときに感じたことだ。けれど、いまは違う。世界3位の埋蔵量を誇る液化天然ガス(LNG)などの恵まれた天然資源を背景に、この10年でインフラが整備され、大規模なホテルや観光施設の新設・改修が進められてきた。2022年のサッカーW杯の開催地に決定して以降は投資がさらに加速している。
その象徴が、現空港の約4キロ東に建設中の新しいドーハ国際空港だ。総敷地面積は2,200ヘクタールを超え、年間5,000万人の旅客に対応。完成すればドーハ最大の建物となるメインターミナルは総面積35ヘクタール──「収容力はフルサイズのサッカー場50個分になる」という関係者の説明も、実際に建物内を視察してみて納得した。新空港がオープンする2015年以降は、ここを起点に世界中の観光客がドーハを観光するようになるだろう。
さて、新しい顔がある一方で、ドーハには古い顔もある。日が暮れてからは、ふたりの友人はアラブらしい雰囲気がただようスーク・ワキーフに私を連れていってくれた。ここは夜10時を過ぎても、人の流れが絶えない。サジャドおすすめのイラク料理レストランで、アラブ料理に舌鼓を打つ。その宴の席で、翌日の予定はまだ決まっていないという私に彼らがすすめてくれたのが、外国からの旅行者にいま人気急上昇中という砂漠のサファリツアーだった。──以下、後編で──
- 作家/航空ジャーナリスト 秋本俊二
- 取材協力:カタール航空