危機管理のプロが語る、海外出張・渡航時の安全対策のポイント 

【レポート】海外出張・渡航時の危機管理セミナー

海外に旅行やビジネスで滞在するとき、誰もが犯罪、交通事故、暴動やテロなど様々な危険に巻き込まれる可能性がある。さらに、近年は渡航先の宗教・文化・風習等の理解不足による無用なトラブルも発生。こうしたことを避けるために、旅行業で働く人々はどう対応したらよいのだろうか――。

今回は、一般社団法人 海外邦人安全協会(JOSA)が開催した「海外出張・渡航時の危機管理セミナー」から、海外に旅行者を送り出す旅行・観光ビジネスに関わる人なら知っておきたい安全対策についてレポートする。セミナーは、元ソニー(株)海外安全対策室で専任担当者として7年間、海外店で危機管理に従事した経験をもつJOSA理事の上野悌二氏が登壇。海外出張・渡航時の安全対策・危機管理のポイントを紹介した。


▼多面的に情報収集をする重要性

JOSA理事・上野悌二氏

上野氏は、まず海外での危機管理にあたり「リスクは必ず発生する前提」に立ち、リスク発生時の被害を最小にするために日頃から備える姿勢の重要性を訴えた。そのポイントとして、まずは「情報収集」を指摘。そして、その情報は「多面的に収集するべき」としていくつかの事例を示した。

まずは、外務省が発表する情報がある。


外務省領事局海外邦人安全課は、毎年「海外邦人援護統計」を発表しており、2012年の海外における事件・事故の総援護件数は1万8219件で前年比6.59%増。内訳の中で最も多いのは要件は「犯罪被害」で5457件、そのうち「窃盗被害」が4456件だ。また、各国での状況も記されており、こうした状況把握で海外渡航の際に注意するポイントを把握できるという。事前に対策を視野にいれておくことで、危険を回避することができる。
また、日本政府・省庁からの発出される情報にあわせて、各国・機関の発信する情報も参考にすべきだという。外務省は「海外安全ホームページ」で、各国の状況や渡航に関する是非をつたえているが、現地滞在中に重大事が発生し緊急避難が必要とされる場合には、外務省情報に加えて現地の米国大使館、英国大使館のホームページも参考にしたい。フランス語が分かる人はフランス大使館情報も参考にするといいという。

東日本大震災の発生直後の対応は、日本人の記憶に新しいところだろう。アメリカ大使館は、原発から80キロ圏内の在日アメリカ人に対してシェルターに入ることを進め、フランス大使館は直ちに日本からの退避勧告を行い、臨時便で自国民を脱出させようとした。日本政府は、「安全である」と言い続けていた時のことだ。

上野氏が推薦する情報サイトは以下のとおり。

▼現地の状況を事前に把握、タブーには要注意

海外で安全に過ごすために重要な点として、上野氏は「渡航先を知る」ことをあげた。治安情勢からの危険だけでなく、習慣、宗教、文化、タブーなどを知らないことで発生するトラブルも多いからだ。

【誘拐、テロからの回避】


旅行者や出張者が誘拐されることは稀であったが、最近は例外ではない。現地滞在中にテロの犠牲者となるケースも増えている。特に誘拐事件は、南東アジアに増加傾向があるといい、中南米などは最も注意すべきエリアだ。世界では暗殺も含めると年間約3万件の誘拐が起きているといい、一部では人身売買につながることもある。誘拐犯は、誘拐する対象者リストを企業・個人の面から作成しており、簡単に誘拐できそうな人から狙われ、いつ自身がリストの次に名前が連なるかわからない。また、近年は旅行者が誘拐されることも増えているという。

また、テロの発生にも傾向があり、米英が支援する国でのテロではアメリカ・イギリス系の施設はターゲットとされやすい。欧米人が集まるクラブやディスコも同様だ。こうしたことから身を守るために、上野氏は以下をあげた。

  • 単独、夜間の外出は避ける
  • 欧米人の集まる場所、イスラエル関連施設はテロのターゲットとされるので注意
  • 治安の悪い地域では公共交通機関を利用しない
  • 空港でのチェックイン後は速やかに通関、出発ゲートへ
  • ホテルの部屋は6階以上、ロビーから遠い場所を選ぶ

【宗教、タブー】

海外を訪れる上で、事前に知っておきたいのが宗教や習慣の違いからくるタブーだ。日本人にとっての常識が、相手国では非常識になることも多く、大きなトラブルになることも多い。上野氏は、特に「宗教を知って行動することは重要」と語る。一例を以下に紹介する。
  • 風呂:親子での入浴は性的虐待とみなされ拘束される(アメリカ)
  • 留守番:子どもだけでの留守番は児童虐待在となる(アメリカ)
  • しつけ:子供に対する過度なしつけ(体罰)、しかり方は児童虐待とみなされる(アメリカ)
  • 夫婦喧嘩:過度な夫婦喧嘩はDVとみなされ身柄拘束もあり得る
  • イスラム社会:女性が肌を露出する服装は厳禁
  • 左手:インドでは左手は不浄の手で、物の受け渡しはしない

(まとめ)


上野氏は当日トラベルボイスのインタビューに答え、比較的安全な日本に住む日本人は「企業・個人ともに危険に鈍感」と指摘。そのうえで、こうした対策をとっていたとしても危機は起きるもので、そうした際に必要なことは「経験」だという。危機管理の担当者、日本から海外に旅行者を送り出す旅行ビジネスに携わる人々には、適切な情報提供や安全への対応ができる「情報」と「経験」が求められている。

一般社団法人 海外邦人安全協会(JOSA)は、年間を通して定期的に海外の安全確保をテーマにセミナーを実施している。これは同法人社員や海外展開をする日本企業や団体を対象に、海外安全情報提供の一環として行っているもの。こうしたセミナーの活用し、社内で共有することも、ひとつの情報収集といえるだろう。


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