2014年5月16日に開催された、オンライン旅行業界の国際会議「WIT Japan2014」。パネルディスカッション「Global Scale&Home Power」では、世界と国内の大手オンライン旅行業界のトップが参加した。今回のレポートは、このディスカッションの中で国内の大手オンライントラベルエージェント(OTA)4社の経営陣の発言に注目。他社をけん制しつつ、各トップはオンライン旅行業界のキーファクターについての現状と展望を語った。そこで垣間見えたのは、4社4様の特性と、さらなる成長への意欲と自信だ。
【国内OTAの登壇者】
- 楽天 山本考信氏(執行役員 トラベル事業部長)
- 一休 榊淳氏(取締役 宿泊事業本部長)
- i.JTB 今井敏行氏(代表取締役社長)
- リクルートライフスタイル 宮本賢一郎氏(執行役員)
【進行】
- イェオ・シュウ・フーン氏(アジア太平洋地域における旅行産業関係の編集者・コメンテーター)
- 柴田啓氏(ベンチャー・リパブリック CEO)
▼2ケタ成長で伸びる国内オンライン旅行市場、今後もさらなる拡大へ
楽天・山本氏「一番良いサービスであるために、トップでありたいと思う」
i.JTB・今井氏「2020年までに取扱額4000億円(精算済みの額)」
リクルート・宮本氏「楽天に近しい成長をし続けたいと思っている」
一休・榊氏「小さい池で大きな魚になりたい」
パネルディスカッションは、各社の取扱状況から開始された。まずMCの柴田氏が焦点を当てたのは楽天。2013年の流通総額547億円の伸び率(前年比15.2%増)が「日本のオンライン旅行業界の成長と比べてどの程度か」との質問に対して、山本氏は「オンライントラベルの本来の潜在力に対して、私たちはまだパーフェクトな仕事ができていない」と、さらなる成長が可能であるとの見方を示した。
リクルートは今秋とも噂される株式上場を控えてか、実績値の公表や言及が少なかったものの、「楽天の数値を上回っているかどうか」とのMCの問いに、「楽天に近しい成長をし続けたいと思っている」と現状を示唆した。
i.JTBは、2012年の取扱額の伸び率が30%増、2013年が26%増、2014年は現在まで21~22%で推移しており、今井氏は、「今年は取扱額(精算済みの額)2000億円の見込み。中期経営計画よりは少し早まっている」と好調さをアピール。MCが「このペースで楽天やじゃらん.netを超えるのはいつになるか」と踏み込むと、「楽天と同じ見方にすると半分くらいか」と規模感を示し、「2020年にはインバウンドの500億円を含め4000億円としたい。もし実現すれば(楽天の)7、8割くらいになるのでは」と展望した。
一休は、商品である高級ホテル市場が好調のため、超高級ホテルのレートは15%ほど上昇しており、一休での在庫は減少しているものの売上はその伸びに近いという。MCの「それでハッピーなのか」との問いに、榊氏は「大きくなるのは無理だと思っているが、小さい池で大きい魚になりたい」と回答。「2007年から2012年までは利益成長できなかった経験をしている。今後は2ケタ成長を続けていきたい」と語った。
▼日本のオンライン市場は飽和状態?
海外展開やタイアップなどで各社が狙う、さらなる成長
楽天・山本氏 「アジアで楽天ポイントのようなシステム展開」
i.JTB・今井氏 「オンライン市場は国内でも成長する余地はある」
一休・榊氏 「国内と同じ感覚で海外販売をするのがささやかな望み」
リクルート・宮本氏 「国内旅行の需要創造に挑戦し続けなくてはいけない」
MCのフーン氏は各社の取扱状況について「良い成長率だが、日本の市場が飽和状態にあると感じることはないか」と、国内以外でのビジネス展開に話の水を向けた。すでに海外展開とインバウンドを行なう楽天・山本氏は、「トラベル分野だけではなく、その他のサービスを含めて楽天スーパーポイントのようなエコノミー(経済)システムを作りたいと思っている」と、アジアでの楽天ポイント展開を示唆。楽天として各国へ規制緩和を求めているという。
リクルートは楽天とは異なり、インドネシアの「PegiPegi(ペギペギ).com」など、現地企業と協業し、各国のブランドで海外展開をしている。宮本氏は「トランザクション、売り上げともに伸びていて手ごたえを感じているところ。ローカライズ化の方針を今後も追及していく」と好調さをアピールする。
i.JTBの今井氏は「日本市場が2020年までにも減少するという見方は正しい」とした上で、「現在の全旅行市場に占めるオンライン旅行のシェアは40%。それを60%に高められれば、国内でも成長する余地はある」との展望を示した。i.JTBではインバウンドは視野に入れているものの海外展開は「自前ではなくエクスペディアとのタイアップという方法を取る」との方針だ。
一方、一休の榊氏はアウト/インバウンドへ展開する意思を示し、まずは7月から海外ホテルの販売を開始することに言及。ただし、「既存顧客に国内のホテルと同じ感覚で海外販売ができれば、というのがささやかな望み」と、独自路線を強調した。インバウンドはアライアンスでの展開を検討している。
なお、リクルートの宮本氏はじゃらん.netでは、市場活性化を重視していることを説明。若者の旅行離れに問題意識を持ち、例えば19歳に対してスキーリフト代金を無料にする「ユキマジ」を、全国のスキー場や宿泊施設と一緒に3年連続で実施。昨年は52万人の利用実績があった。「若者が旅行の楽しみ、地域の面白さを体感することに積極的に投資し、トータルとして高い成長を志向していきたい」と、国内市場の対策をしていることも明かした。
▼オンライン販売の強みとなるポイントサービス、
リクルートポイントがPontaと統合、「楽天vs リクルート」
楽天・山本氏「脅威というよりも刺激的」
来年春、リクルートはPontaサービスとの統合を予定しており、Ponta経済圏にじゃらん.netが入ることになる。WIT Japan 2014の冒頭ではレクチャーとしてリクルートライフスタイル代表取締役社長の北村吉弘氏が、ポイントプログラムを活用した観光O2O(オフラインtoオンライン)施策を説明。昨年にはリクルートライフスタイルが運営する計12サイトを「リクルートポイント」として集約しており、ポイント基盤を活用したビジネス展開を加速している。
リクルートの戦略に対して、楽天・山本氏は「Pontaとの協業が脅威かといわれれば、刺激的に感じている」としつつ、「どちらが便利かという以前に、楽天スーパーポイントの方が楽しく使えるサービスだと自負している。仮にPontaが良いと言われれば楽天スーパーポイントの方が良いといわれるように努力していくのみ」と、ライフスタイルに絡めてより楽しく使えるサービスを目指す考えを強調した。
山本氏は、MC柴田氏がパネルディスカッションの冒頭で発した「オンライン旅行業界でどのようにトップであり続けられると思っているか。楽天のポイント経済圏がこの成長を作っているのか」の問いに対しても、「一番良いサービスであるために、トップであり続けたい。各社が良いサービスを提供している中で、楽天スーパーポイントは(楽天が)さらにきれるために必要」との認識を語った。楽天ではグループシナジーの最大化を目的に、2014年4月1日に楽天トラベルを吸収合併し、楽天のトラベル事業部となっている。
なお、プライスライン・グループのシニアバイスプレジデントのエイドリアン・カリー氏も、傘下のAgoda.comのポイントサービスについて言及。「成長のための必要なキーである」との認識を示した。「ユーザーが正しい選択ができ、予約時のみならず、宿泊時にもユーザーの体験を良いものにしようと考えている」と、単なる金銭代わりではなく、感情に訴えるサービスであるとし、「適正に使えば需要を創出するマーケティングツールになる」とも語った。
- じゃらん「Jマジ!20」、Jリーグのクラブ拡充で若者の旅行需要を喚起
- 「雪マジ!」、全国173ゲレンデで19歳のリフト券が無料、今年で3年目
- 観光地O2Oを展開するリクルート、沖縄と箱根でも開始、熱海に加え今後も加速
▼Yahoo! トラベルの宿泊施設の手数料無料化は脅威になるのか?
楽天・山本氏 「手数料無料化のやり方が大きな脅威になるとは見ていない」
i.JTB・今井氏 「現在の一定の手数料は十分頂く価値がある」
ホテルの手数料無料化に踏み切ったYahoo! トラベル。MCのフーン氏は「楽天と同じくショッピングモールを有するが、一方は検索エンジンで大きなトラフィックを抱えている」と指摘。
これに対し、楽天・山本氏は「脅威かと聞かれたらそういう部分もあると思う」とした上で、楽天は宿泊施設に対して消費者にリーチするためのコンサルテーションも含むマーケティングプラットフォームでもあることを説明。「手数料がないならサービス価値を下げざるを得なくなる。今のところ、手数料を頂かない戦略が大きな脅威になるとは見ていない」と述べ、「これは他のOTAさんも同じ価値観を持って、その対価として手数料を頂いていると思う」と強調した。
i.JTBの今井氏は、現在の国内ホテルがビジネスホテルを含め稼動率が上がっている状況を踏まえ、「もし供給過多であれば手数料を無料にすることもあり得るが、宿泊施設はレベニューを求めている。平均客室単価(ADR)を上げて販売する手伝いができるならば、一定の手数料は十分頂く価値がある。そういう意味ではあまり怖くない」と、自信を示した。
参考記事>>>
(トラベルボイス編集部)