感情認識ロボット「Pepper」は観光分野で活用できるのか?

Pepperと対峙する初めての体験にテンションが上がる

ソフトバンクが先日発表した世界初の感情認識ロボット「Pepper」。2014年6月28日に開催されたガジェットの文化祭「Engadget Fes 2014」では、デモや操作体験の場を提供されており、観光分野で活用される可能性を探った。(取材・文:山田紀子)


※IT分野での「ガジェット」とは、目新しい人目を引くような道具や気の利いた面白い小物、携帯用の電子機器などのこと。単体で動作するものを指すことが多く、例えば、デジタルカメラやスマートフォン、タブレット、ウェアラブルPCもその範疇。

▼Pepperでできること、そ

の実力は?

トライアルメニューは3つ。5分でできる簡単なもの

Pepperを観光分野で活用できるのかーー。それを探るために、まずはPepperで何ができるのかを試すため、簡単な操作やアプリ開発体験ができるというTouch & Tryコーナーへ。持ち時間は1人当たり5分間。A~C(右の写真を参照)の3つのコースから体験するものを選ぶ。

「観光・旅行分野で活用できる可能性が高いのはどれですか?」と問うと、担当してくれたソフトバンクモバイルMD本部事業推進統括部新事業開発室の村山龍太郎さんは、「感情認識ロボなので、Bの感情認識体験コースはどうでしょう?表情を見て、いい笑顔の時に写真撮影をすることもできますよ」とのこと。

早速、Pepperに「写真を撮ってください」と話しかけてニコッとしてみせると、「アナタノ笑顔ハ86点デス」と、中途半端な判定・・・。「表情を変えると反応が変わりますよ」というので、むっと顔をしかめてみると「驚イテイマスネ」と、不機嫌な表情に対する言葉ではなかったけれど確かに変化を読み取った。では、驚いた顔をするとどう判定するかと試したら「アナタノ笑顔は90点デス」と、今日の笑顔の最高点が出た。


PepperのOSは「NAOqi」

残念ながらデモ機はカメラを搭載しておらず、Pepperによる撮影自体は体験できなかった。せっかくなのでと記念撮影をしたところで、タイムオーバー。

その後、別のPepperに「握手してください」と話しかけてみると、「聞コエナカッタノデモウ一度イッテクダサイ」とか「アナタハ幸セデスカ?」と返答されてしまった。Pepperが音声を拾えるタイミングに呼びかけて、その通りに認識してもらえなければ、希望するアクションをしてもらえない。やっと意思が通じて握ったその指の感触が、ロボットなのに意外にしなやかだったのが印象的だった。



▼もし、旅行・観光分野で活用できるとすれば?

屋内で人を喜ばせる業務に、人の興味度合に反応して案内が可能

人間と同じような関節があり、パフォーマンスでも指先まで滑らかな動き

感情を読み取ることで、少し人間に近づいたといえるロボット、Pepper。実際に旅行・観光の場面に登場することがあり得るだろうか。

ソフトバンクモバイル新プロジェクト統括部兼MD本部事業推進統括部担当部長の林要さんに話を聞くと、「現在、pepperでしようとしていることは、単に目の前にいる人を喜ばせようとしているだけです」との回答。開発段階で観光・旅行での活用を想定してはいないが、可能性として「屋外では想定外。屋内ではできるかも」という。

そこで、観光での活用を筆者なりに想定し「例えば美術館や博物館など、観光アトラクションでの利用は考えやすいと思うのですが」と聞いてみると、「順路があって何かを伝えるような、例えば音声案内の貸出サービスなど、現在も自動化されているところは活用できると思います」とのこと。

「Pepperなら人が興味を持っていると感じたら、その部分を深掘りして案内することができる。つまらなそうだと感じたら、早々に切り上げて次に案内することもできるのでは」と林さん。お客様の“食いつき”が良かった内容のデータを集めることができるのも、自動音声案内にはない利点だ。

ここで先ほどの感情認識体験を思い出し、「Pepperなら、そのガイドを聞いて、いい表情になったお客様の写真を自然に撮影することができるのでは?」と聞いてみると、「いい雰囲気を察知して撮影し、ツアーの最後にタブレットで画像を見せて選んでいただくこともできますね」と、実用性はさておき、可能性は考えられそうだ。


▼ソフトバンク店頭での活用事例、待ち時間を「楽しく」する役割

「楽しい」ガジェットを旅行・観光ビジネスでも取リ込むアイディアを

吉本興業が開発に参画しただけにネタは豊富。「卓球デ東京五輪メザシマス!!」とエア卓球を始めたpepper

pepperを6店舗に配置するソフトバンクでは現在、どのように活用しているのか。林さんに聞くとその役割はもっぱら、お客様の待ち時間を楽しくすること。興味を持った人がPepperで遊ぶことができ、時間になるとパフォーマンスショーも行なう。しかし、店頭でお客様への案内はしない。この部分は人間にはかなわないからだという。

なぜ人間の代わりにならないのか。「人の察知する能力はものすごいものがありますが、コンピューターは一つ一つ条件を聞き出して対応していくしかありません」と林さん。

それがどれくらい違うのか、わかりやすく説明してくれた例が電話の自動応答だ。メッセージの途中で操作はできても、条件を絞り込んで目的の部署へつなぐ行程は変わらない。人間の案内の方がスムーズなのは、その部分を察知することでその行程を端折ることができるからだという。

ただし、「Pepperは疲れを知らず、ずっと人を楽しませることができます。人に代わるというより、人が今までいなかったところで手助けできると考えています。将来的に、人が余分な仕事だと思っているところが負担できればいいかな」と展望する。

Pepperを活かすためのアプリケーション開発はこれから始まる。問い合わせの多い業種は、小売り関係のほか、教育関係、案内業務のある企業など。残念ながら旅行・観光関係はメディアを含めてコンタクトがない状況だという。

業種を問わない「アプリケーションディベロッパー」も開発に参戦する。日本の成長戦略の一つである観光分野はビジネスになると考える開発者もいるだろう。コンピューターは人の代わりにはならないというが、コンピューターを活用するアプリケーションの開発者が、旅行会社の役割や価値を考慮せずにその代わりを考えたらどうなるのか。新しいガジェット、IT技術を現代の当然のインフラと考え、旅行・観光業界も積極的に取り組むべき時に来ているような気がした。



【旅行・観光分野で活用の可能性が感じられる新たなガジェットたち】

Engadget Fes 2014ではPepperのほかにも、さまざまなガジェットが展示・公開されていた。今回はそのうち、筆者が旅行・観光分野で活用の可能性を感じた2つを紹介したい。

  • Double Robotics「Double」

バッテリーは最大8時間。WiFiが届く範囲で平ら(段差は1.2センチ程度まで)なエリアならどこまでも移動できる

アメリカのDouble Roboticsが開発したコミュニケーションツール。「自走式テレビ電話ロボ」と紹介されることもあるように、WiFiでDoubleの画面と手持ちのiPadやiPhoneなどと繋ぎ、遠隔地から操作してDoubleを移動させ、目的の相手と話をすることができる。

すでに昨年夏に実用化されており、日本では今年2月にBRULÉが販売。工場内のコミュニケーションやオフィスでの会議などでの使用のほか、入院などで登校ができない生徒のために用意する学校もある。デパートが外国語対応のためにDoubleを配置することを検討したという。

BRULÉ「Double」
  • Intel「Real Sense」

かざしてPCに取り込んだ絵本のページに手が映り込んでいる。この手を動かして上部の男の子をくすぐると、男の子が動く

次世代のユーザーインターフェース技術。Real Senseではキーボードやマウスを使わず、パネルにも触れることなく、手の動きや音声認識などでコンピューター操作ができる。

具体的には3Dカメラに手をかざすと画面に手が写り込み、画面内のコマンドを手で触るように操作ができるというもの。この機能に連動した絵本のページを画面に取り込むと、画面の中でその絵本に手が入り込み、その絵の内容をいじることもできる。

2014年下期以降には3Dカメラを搭載したタブレットなどの製品が、PCメーカーから販売される予定。現在、2回目となるアプリ開発コンテストを実施中だ。

Intel Real Sense
  • 取材・山田紀子(記者/観光ITレポーター)

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