ホテルコンサルタントの堀口洋明です。
宿泊産業・観光業の発展と現在の法律の関係を考えさせられる動きが続いています。
2014年6月26日に別所直哉氏(ヤフー株式会社執行役員社長室長)が
「旅館業法の怪」という記事を「Yahoo!ニュース 個人コーナー」に投稿しました(Yahoo!ニュース 個人コーナーは各分野の専門家や有識者が個人として意見や提案を寄稿しているコーナーだそうです)。
その記事の概要はこんな感じです。
- 軽井沢にある別荘の(所有者が使わない)遊休期間を「賃貸借契約」で貸し出しをしようとした
- 観光庁から仕組みについての問い合わせが入った
- 観光庁は旅行業法についての問題はないが、旅館業法上は問題があるかもしれないと告げてきた
- 旅館業法の所管である厚生労働省の指示を受けた長野県が調査に乗り出した
- 県は名目に拘らず宿泊料を徴収して宿泊させるのは旅館業に該当、旅館業の届出が必要と判断した
- しかしその別荘が存在している地域は旅館業の許可が認められない地域であった
- 国体などの開催県で行われている「民泊」との整合性はどう考えるべきか
- 個人が所有している部屋を有料で宿泊希望者に貸すAirbnbとの整合性はどう考えるべきか
米国で登場した個人宅の宿泊マッチングサイト「エアー・ビー・アンド・ビー(Airbnb)」が存在感を増し(米調査会社CBインサイトによると4月の企業評価額は約1兆円で、部屋数でホテル業界首位のインターコンチネンタル・ホテルズ・グループの時価総額を上回る:6/17 日本経済新聞より)、ホテルや旅館以外の宿泊ビジネスが注目を集めている時期的な事もあってか、別所氏の記事は広く拡散していきました。
ところが、別所氏が取り上げた「ある不動産会社のサービス」は実はヤフーが取り組んでいた自社サービスだったという事が明らかになり、自社への利益誘導を狙った記事ではないかと批判する記事も公開されました。
こういった経緯により、この記事の賛否が拡散しているようです。
さて自社への利益誘導云々の話はおいておくとして、宿泊産業という点から見ると、この別所氏の記事が出る以前から広い意味での宿泊産業に関する現行法のあり方は疑問が持たれているところです。
1948年に制定された旅館業法は、他の法律と同じく現在の環境に合っているかという点で疑問が多々あります。
>>> 旅館業法概要
例えば旅館業法では宿泊の定義を「寝具を使用して前各項の施設(ホテル、旅館、簡易宿所と下宿)を利用することをいう」としています。
そうなると、漫画喫茶は終電を逃した人達にとって「朝まで仮眠できる場所」ですからある意味宿泊産業の競争相手なのですが、寝具も使わないしホテル・旅館・簡易宿所・下宿という「旅館業」でもないから対象外という事になります。更に「短期の賃貸借契約」で不動産を宿泊目的で貸し出すAirbnbの様なサービスは、「旅館業法の怪」の記事にもあるようにかなりグレーだと言えます。
現時点では政府は「国家戦略特区」で旅館業法の緩和を行う方針です。
旅館業法施行令では「宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他これに類する設備を有すること」との記載があり、「自動チェックイン機」が導入できない理由となっています。ビジネスホテルで見られるのは「自動精算機」で、フロント担当者による「面接」を伴う宿泊台帳(レジストレーションカード)記入の後、精算業務だけを機械で行っている訳です。
簡易宿所ではフロント設備は不要ですが、客室に鍵を設けようとすると「出入口及び窓は、鍵をかけることができるものであること」という「ホテル」としての基準が適用されるため、お客様のプライバシーを守りつつ飛行機のように自動チェックインで宿泊できる・・・というホテルは実現不可能という事になります。
ちなみに、マリオットが提供している「モバイルチェックイン・チェックアウト」のサービスも、この法律の影響か日本は対象外となっています。スターウッドが展開中のバーチャルキーも同様です。インターコンチネンタルやヒルトンと言ったインターナショナルホテルチェーンはほぼ同様のサービスを提供しようとしています。
「宿泊する権利」がオークションで売買されていますが、これも現行の旅行業法ではNGです。実際に2011年の長野県諏訪湖の花火大会で宿泊する権利を販売した男が旅行業法違反で逮捕されています。
しかし海外では予約したホテルの部屋を売買できる「roomer」というサービスも登場していたりします。宿泊する権利の売買が宿泊産業にとってプラスかマイナスかもまた議論があるようですが、いずれにしても現行法下では違法になります。
人口減少により内需が減少する日本では、外需獲得の手段として観光産業に期待が高まっています。であれば、観光を振興するために必要な法改正も積極的に検討していくべきでしょう。