「relux」運営のロコ・パートナーズ
篠塚CEOインタビュー
オンライン旅行サービスの繚乱時代において成長するサイトのひとつが高級旅館専門予約サイト「relux(リラックス)」だ。運営するロコ・パートナーズの代表取締役、篠塚孝哉氏(写真右)は「旅行業のど真ん中でやっていくことしか考えていない」として、取扱い旅館や対象市場を拡大しようとしている。篠塚氏に「relux」で目指すビジネス展開について聞いた。
「relux」は、昨年のWIT Japan2013でグランプリを受賞。ITに傾斜した従来の旅行業とは違った業態かと思いきや、その核となるのは従来の旅行会社の武器であった企画・提案力だ。そして、篠塚氏の原動力の根拠には「日本のおもてなしのレベルは世界に比べてダントツに高い。日本の観光を世界に出したい」という、日本の観光に対する強い自信と信頼がある。
▼「どれを選べばいいかわからない」を解決
厳選した宿のおすすめの1プランだけを提案
篠塚氏は、2007年に新卒採用でリクルートに入社。じゃらんnet事業部に配属され、その後2011年9月にロコ・パートナーズ起業、2013年4月に「relux」をオープンした。そのサービスの構想基盤は、前職のリクルート時代の経験にあるという。「じゃらんnetにいた当時は友人が旅行をするときに必ず、お勧めの宿を聞かれていました。旅行サイトが多くてどれを選べばいいかわからないし、宿のクチコミは飲食店ほど行く回数が多くないので信頼できないというのです」。
そこで友人の予算や希望エリアなどの条件を聞き、篠塚氏が3つの候補を選んでアドバイスをした。すると、ほとんどの人がその中から決めたという。これをサービス化したのがreluxだ。「本当にお勧めできるところだけを集めて、『ここに載っているものは大丈夫、信頼できる』と思われるサイトがあればメリットがある」と考えた。
そうして運営者側が「厳選した宿」、その宿で最適な「1つのプラン」、そのプランでの「最低保証価格」を特徴に、高級旅館だけを提案する「relux」がスタート。5つの基準で厳選した宿にセールス担当者が直交渉し、reluxだけの特典を入れ込んだオリジナルプランを作る。プランを1つに絞るのは、「宿を決めてからも(プランを決めるのは)大変な労力がある」と考えるからだ。
現在の契約施設数は200施設、会員数は5万人。30歳~35歳がボリュームゾーンだが、実際の予約は40歳前後で大企業の部長・課長クラス、中小企業の経営者、医師、会計士などが多い。当初は会員を審査制にしていたが、契約施設数が100軒になった2013年12月、多くの需要に対応できると踏んで会員資格をオープンにした。ファン数12万人を誇るFacebookや無料アプリからの流入も多く、女性の会員も全体の40%に拡大したという。
▼ユーザー目線でラインナップを決定、満足度の高い宿を優先
満足度は総合評価、「期待値」を調整する機能も視野
最も重視していることの一つは、発見と体験。「reluxで行くと旅行体験が良くなるようなプランを作り、他のサイトでは埋もれてしまう小さい宿も絶対に発見できることに重きを置いています」。旅慣れた人に「こんな宿もあったんだ」と驚かれることも多く、例えば茨城県大洗の「里海邸」は全8室の小規模の宿だが、reluxでは毎月トップ10に入っているという。一般的なサイトの検索結果やパンフレットの掲載順は、掲載料の金額や販売客室数などで決まるため、ラインナップは固定的になる。篠塚氏は、「(そこには)ユーザー目線の概念がなく、クライアント満足になっていますが、そこは壊していきたい領域。まだまだ知られていない良い宿を支援できるサービスにしたい」と意気込む。そのためreluxでは掲載料を設定せず、利用者の満足度の高い宿を優先的に上位に出る仕組みを設けた。
しかし課題もある。満足度は人の好みにも左右されるため、すべての利用者が満足することはない。高級旅館とはいえ幅が広く、1泊5万円の宿に慣れている人が2万円の宿を利用した際に、「reluxに載っている宿なのにこのクラスなのか」という感想を抱くこともあるという。そこで、価格や満足度を総合的に評価し、ミシュランのようにランク付けするような、期待値を調整する機能を取り入れていくことを考えている。
▼リアル旅行会社とOTAのハイブリットモデルへ
オンラインで完結するOTAだが、基本的な考え方はサイトビジネスよりも旅行業そのもの。専任コンシェルジュも擁し、問合せにも対応する。「リアルの旅行会社とOTAのハイブリッドモデルは意識しています。双方の良い点を併せ持ったサービスにしていきたい」という方針だ。
そんな立ち位置から、現在の旅行業はどのように見えているか。篠塚氏は「人は必ずどこかに泊まり、その場所を紹介するという代理店の存在はプラットフォームとして残ると思います。しかしその流れはテクノロジーの進化によって宿泊する際の選択、手段、場所が変わり始め、ひとつの転換点にあります」と指摘する。
これまでの旅行会社は(商品・情報を)集めることが重要だった。しかし、情報・商品が溢れるようになった現在は、それをピックアップする「relux」が生まれ、さらには「airbnb」という宿泊場所を根本的に変えたサービスも出てきた。
また、オンラインでは「少し前のフェーズではメタサーチが流行っていました。現在も価格比較のトレンドはありますが、それすらも手間だとして出てきたのが、そのサイトだけで完結する我々のようなキュレーション型」とし、「これが世界的に起きている旅行業界のエコシステムの変化だと思います」と展望する。
ここでreluxの強みとするのは、旅行業界歴の長いスタッフと、テクノロジーに強いスタッフが多いこと。「この強みを掛け算して生み出すモバイルアプリやウェブサイトは、どこよりも使いやすいと自負しており、この辺りでも勝機を見出していきたい」と自信を示す。
▼2017年度に株式公開目指す
日本の旅館を世界へ、10言語で多言語展開に拡大
2014年6月現在、会員数も流通総額も毎月50%増で成長。カード会社や福利厚生サービスの会員向けサービスでも連携し、販売チャネルも増えている。来年度中には会員数50万人、通期の流通総額も現在の10倍まで伸ばしたい考えだという。さらに、篠塚CEOは「2017年度の株式公開(IPO)を視野に、複数の企業と話を進めている」。
取扱商品や対象市場も広げる。「目指しているのは、超高級ではなく超満足」とし、7月には「relux東京」として、シティホテルの取扱を開始。大阪、福岡版も行なう。2015年度中には1泊1万円クラスの宿も始める予定だ。
さらに8月を目途にサイトの多言語展開を10言語に拡大し、そこからインバウンドを開始。「インバウンドに成功した国内のオンライン旅行サイトはまだないので、難しいところだと認識しています。我々のやり方で勝てるのか、見ていきたい」と挑む。
勝機はどこか。篠塚氏はこれまでのボトルネックとして2つの課題を指摘。一つは、海外の旅行者が日本の旅行会社を使う理由。これには「日本へ旅行をするなら、本当に良い日本の宿を知り、日本人が利用している旅行会社を使った方が良いというブランディングを打ち出していきます」。キュレーションメディアでもある価値と、簡単に予約ができるテクノロジーを活用すれば、一定の支持が得られるとみる。
もう一つは、販路提携の課題だ。手数料率20%も珍しくないという海外のオンライン旅行サイトに比べ、1ケタ台と低い日本のOTAはここで苦戦をしていたが、reluxは15%と高い。「交渉の余地があり、他社よりも優位に進められる」ともくろむ。
「日本の観光は世界に誇るべきものがあり、旅館は日本文化の集大成みたいなもの」と篠塚氏。「大手旅行会社が扱わない旅館がまだまだ相当数あります。当然、海外の大手予約サイトにもありません。我々がハブになってアピールできれば、旅館が世界に広まるチャンスになるのです」。
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- 聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫
- 記事:観光ITレポーター 山田紀子