ホテルコンサルタントの堀口洋明です。前回は「宿泊料金は人気の度合い=需要に応じて予約の責任者が決める」と紹介させて頂きました。一方で宿泊料金の一つに「正規料金」があります。今回はこの「正規料金の今」をご紹介したいと思います。
▼需要に合わせて料金を変える方法が主流
正規料金がないほうが、「特別な日」の売上げを大きくできる
正規料金は簡単に言うと名前の通り「割引前の本来の料金」で、以前は「企業契約だと30%引き」など割引の基準になる料金でもありました。
この正規料金はどうやって決めるかというと、ハッキリした公式がありません。
業界の中で聞く事があるのはこんなところでしょうか。
- A 客室面積 1平米 に対して 1,000円
- B 一部屋当りの投資額の 1/1000
A.は下記のケースからご判断いただけそうです。
- 三井ガーデンホテル銀座プレミア :プレミアダブル 31.0平米 45,370円(2名利用室料のみ:じゃらんネット正規料金プラン) 1,464円/平米
- ダイワロイネットホテル京都八条口 :モデレートシング 18平米 14,800円(1名利用室料のみ:じゃらんネット正規料金プラン) 822円/平米
- ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド :ラグジュアリーフロア モデレート ダブル 66平米 56,000円(2名利用室料のみ:オフィシャルサイトより) 848円/平米
- ホテルメトロポリタン :スタンダードツイン 23平米 24,000円(1室利用室料のみ:オフィシャルサイトより) 1,043円/平米
- ホテルニューオータニ大阪 :デラックスダブル 30平米 46,000円(1室利用室料のみの休前日料金:オフィシャルサイトより) 1,533円/平米
B.は九州を中心としたビジネスホテルチェーン「アメイズ」の穴見社長がテレビ番組「がっちりマンデー」の中で仰っていた公式です。このホテルチェーンは格安料金を目玉にしており正規料金のみの販売となっているようです。
そして実際には、競争相手となりそうなホテルの正規料金が参考になっているケースが多いようです。
基準となる料金、本来の料金という事であれば重要度は高いはずです。
しかし、なぜはっきりとした公式がないかというと、前回も触れた通り「人気の度合い=需要に合わせて料金を変える」方法が現在は主流で、正規料金で販売する事はほとんどないからです。
私がコンサルティングを行う際には「最低でも通常価格(客室平均単価)の130%以上が必要」としています。
しかも海外では正規料金そのものがないホテルが増えてきており、国内でもインターナショナルホテルチェーンを中心に同様のホテルが出てきています。旅行会社などから正規料金の回答を求められる日本ではまだ少数派ですが、オフィシャルサイトに正規料金の表示がなくなってきているなど、徐々に海外と同様の方向に進んできていくように思います。
なぜこのような動きが広まっているのか、理由は「正規料金がない方が特別な日に、より売り上げを大きくできるから」です。
▼世界の流れは「正規料金」をなくす方向へ
「社会通念」と「企業方針」で決まる宿泊価格
ホテルの料金は「需要」に応じて決まります。需要に対して供給(客室数)が少ないのであれば、「希少価値」が高まります。花火大会の日、コンサートの日、どうしてもその日でなければならないお客様の中には「ある程度高くてもいいから泊まりたい」と思う方もいらっしゃるのです。
例えば100室のホテルで花火大会がある日に、20,000円の予算で100人が泊まりたい、30,000円の予算で80人が泊まりたい、40,000円の予算で50人が泊まりたい・・・という状況だとすると、高い予算を持つお客様からお部屋を提供すれば、40,000円×50人 + 30,000円×50人 = 3,500,000円 これがホテル側の売り上げになります。
ところが、正規料金があると結果は異なります。いくら「もっと高くてもいいから泊まりたい」というお客様がいらっしゃったとしても、正規料金以上に高く販売する訳にはいきません。上記のケースで正規料金が30,000円だとすると、30,000円×100人 = 3,000,000円 が売り上げの上限です。
特別な日の売り上げをより伸ばす為に、正規料金をなくす方向に進んでいるのが世界的な傾向なのです。
※ 自動販売機など希望小売価格より高く販売されている商品も多々ありますので、希望小売価格より高く売る事はあくまでも「社会通念上」消費者の不信を招くという事かと思います。
- 定価:書籍など再販価格を定めているものに対する価格(値引きや価格変更不可)
- 希望小売価格:小売業者以外の者が供給する商品について設定した販売参考小売価格
※ 高い価格にしてでも希望する人がいつでも買える様にするべきか、価格は抑えるが買えるタイミングが売り出し時点に限定される事を受け入れるべきか、この議論はホテルの宿泊料金だけでなく、コンサートチケットなどにも見られます。現時点では規制する法律もなく「企業方針」という事になろうかと思います。
▼行き過ぎ・強気すぎる宿泊料が招いた反発の事例
しかし行き過ぎた価格というのは消費者の反発も招きます。
2014年5月2日のウォールストリートジャーナルに気になる記事が掲載されました。
『需要と供給をめぐる地元ホテル業界の動きについてバフェット氏が発したコメントが、物議を醸している。バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイは今週末にオマハで年次株主総会を開く。バフェット氏は、この時期に地元のホテルが設定した宿泊料金について「価格のつり上げだ」とかみついた。〜中略〜
総会が開かれる週末には、多くのホテルが料金を2倍、3倍引き上げ、中には1泊1000ドル(約10万円)取るところもある。オマハ観光コンベンションビューローの統計によると、ホテル稼働率は年平均で約59%だが、バークシャーの株主総会前後2日間にはこれが96%まで跳ね上がるという。』
強気な料金の問題は、中国・海南島でも起きています。
2010年2月の春節に通常料金の7倍(!)程度で旅行会社が販売したところ、あまりの高価格に集客できず大きな損失を被ったそうです。同年10月の国慶節では行政機関が価格に介入した事も報道されています。
いずれにしてもお客様に取っては、実際の支払い価格(実勢価格)の方が重要だと思われますので、日本のホテル業界の中でも正規料金の重要度は今後も低下していき、将来的にはなくなってしまうだろうと予測しています。
正規料金の今
- 正規料金(だけ)で販売することは稀
- 正規料金がないホテルも増えてきている
- 行き過ぎた価格で反発を招いた事例がある