星野佳路氏インタビュー、世界のホテルが直面する2つの変化と「Airbnb」の影響とは?

今年100周年を迎えた星野リゾート。軽井沢の老舗旅館からホテル運営会社へ大変容を遂げた同社はいよいよ来年、初の海外運営ホテルを開業し、日本発のホテル運営会社として世界に打って出ようとしている。

世界に名だたるホテル運営会社との競争、そしてエアビーアンドビー(Airbnb)など新しいテクノロジーで生まれたグローバルビジネスが参入するなか、どのような展開を目指していくのかーー?代表の星野佳路氏に、世界のホテルが直面する変化と、そこに対応していく考え方を聞いた。そこには日本の観光産業の課題も読み取ることができる。


▼世界のホテル運営、1つ目の変化は“コモディティ化”

星野リゾートの強みを売る大きなチャンス

星野氏はホテル運営の世界で、2つの変化を指摘する。

一つはホテル運営会社のコモディティ化(商品の特性がなくなり、企業が競争優位を持続できない状態)。競合他社への転職なのに、ヒルトンのマネージャーを務めた人物が翌日にはハイアットのディレクターとして働いているようなことが珍しくない状況に、世界のホテルオーナーや投資家たちが「ブランド認知度や予約ネットワークはあっても、ホテル運営に専門性は必要ないのではないか」と気づきはじめた。これが最終的にどう影響するのか、注目しているという。

この変化は「星野リゾートにとって大きなチャンス」と見る。「運営会社に頼らず、自分たちで運営しようと考えるオーナーもでてきている。そこに我々の独特な運営方法を、受入れてもらえる可能性がある」からだ。

その「一番の強み」は、マルチタスキング。スタッフ全員が全ての業務スキルを有するからこそ、顧客満足も生産性も向上し、投資全体のリターンも上がる。この仕組みが日本旅館から出てきた星野リゾートの特徴で、「ホテル会社から転職してきても、すぐに仕事はできない。最初は抵抗感があるくらい運営の内容が違う。これをビジネスモデルとして投資家に伝えられるようになったことが、我々の強み」と意気込む。

2015年に開業する初の海外ホテル「星のやバリ」も、「星のや軽井沢」と同じ運営方法とする。バリの現地スタッフにも、マルチタスクを課す。海外と日本人の意識は異なるように思えるが、星野氏によると働く意欲や仕事に対するモチベーションは変わらず、「来島した観光客にバリが素晴らしい場所だと思ってほしいという気持ちも強い。日本の地方と同様の感覚で、同じ仕組みで良いと思っている」と説明する。


▼2つ目の変化は“シェアリングエコノミーの台頭”

エアビーアンドビー(Airbnb)の普及がもたらすホテル業界の変化

ウーバーのトップページ

もう一つの変化は、新しいテクノロジーによって生まれた共有型経済「シェアリングエコノミー」の台頭。ハイヤーの配車サービス「ウーバー(Uber)」や、旅行・宿泊関連では個人宅の空き部屋を旅行者に貸すマッチングサービス「エアビーアンドビー(Airbnb)」が欧米を中心に火がつき、日本でも始動している。

シェアリングエコノミーが海外で合法化されつつある状況について星野氏は、「法規制と同じ目的」と捉えている。行政の規制・監視は消費者の安全や利便性、快適性といった消費者保護が目的だが、シェアリングエコノミーが推進される背景にも、市場活性化や雇用・投資の創出、利用者満足など消費者ベネフィットを重視する部分があるという。

そのため、「海外で起こっていることの方が、優位性がある。そこに抵抗していると再び日本のホテル業界が世界に行くチャンスを逸する可能性がある」と警鐘を鳴らす。

さらにこの変化が、「これだけの脅威は過去になかった。インターネットがホテル業界に変化を促すと言われてきたが、このことだったと思っている」ほど、大きなインパクトをもたらすと展望する。


hoshino-0465星野氏がいう脅威とは、Airbnbそのものではない。Airbnbの発展により、さらなる競争力を付けることを余儀なくされた巨大ホテルグループの大きな変革だ。

「UberやAirbnbが迫ってきている。もっと大きい需要になった時、どういう変化をもたらすかはまだ想像できていないが、一つ言えるのは世界のホテルグループは生き残るため、新しい環境に適用した新しいホテルの形に生まれ変わる」とし、その姿は「現在からは想像できないくらいの競争力を持ち、Airbnbをはるかに超えた消費者に近いポジションにある」と考える。そして「競争にさらされて必死に努力する世界の企業に比べ、(日本国内で)我々が後れをとることの方が非常に問題だ」と強調する。

星野氏はこうも語る。「厳しい競争の中で苦しみながら新しいものを発見しようという環境に彼らがいることは、ある意味うらやましい。日本は変化が遅いといわれているが、私がコントロールできることではなく、そこに会社の将来を頼りたくはない。そうであれば、自分が出ていくしかない。海外の競争環境に身を置いて変化を体感し、対抗する手段を見出していく。そうしないと目標とする“世界のホテル運営会社”になることはできないと思っている」。


▼世界で認められる日本の製品と同様に

日本のホテルを広める

「世界の中でホテル運営会社としての一角を掴みたい」。これが、星野氏の最終的な目標だ。世界の都市へ展開し、世界でトヨタ車が走り、キヤノンのカメラが使われているように、日本のもてなしが受けられるようなホテルを提供している姿が、星野氏が描く未来だ。

海外では、まずは日本らしさを表現しながら世界に評価されるブランド「星のや」で展開する。2015年開業のバリ以外は発表していないものの、中国を中心にアジア圏で動いており、2、3年のうちには立ち上がってくると期待している。2015年はバリのほか富士や金沢など、改築を含む開業ラッシュになる。大都市型のフラッグシップとなる「星のや東京」をオープンする2016年、そして2017年には海外案件も出していきたい考えだ。

*星野氏へのインタビュー、2回目の記事は「観光産業の改革」について。近日公開の予定。

  • 聞き手/トラベルボイス編集部:山岡薫
  • 文/山田紀子

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