“オリーブの島”として知られる小豆島。近年、それだけでなく観光の軸としているのが“アート”だ。そして、それが今、観光における住民力に結びついている。
*右写真は『葺田パヴィリオン』を清掃する小豆島の人々。
小豆島へのフェリーが発着する坂手港には、光輝く球体にドラゴンが鎮座して雄叫びを上げる。京都を拠点に活躍するアーティスト、ヤノベケンジによる作品『THE STAR ANGER』 だ。港の建物には同じくヤノベケンジと絵師の岡村美紀による壮大な壁画『小豆島縁起絵巻』が描かれ、オリーブに象徴されるユートピア小豆島を印象づける。また土庄港にもオリーブの月冠をイメージした『太陽の贈り物』が輝き、島を訪れる人を迎える。
これらは、瀬戸内海の島々を舞台にした現代美術の祭典として、国内外で話題を呼ぶ瀬戸内国際芸術祭(2013年開催の第2回)で、小豆島の島内の様々なエリアで展示された作品の一つ。旧来の小豆島の豊かな自然や食文化に加えて、このアートの舞台になったことが、島の誇りとなり、継続的に島の観光の基軸になろうとしている。
瀬戸内国際芸術祭2013 の舞台であった福田にある「福武ハウス」は、引き続き企画展やワークショップを通して、「アジア・アート・プラットフォーム」を目指している。2014年は、タイのアーティストを招聘しての「アジア現代美術展2014」が開催され、展示と関連するタイと台湾の料理を地元の食材を使って提供する「福田アジア食堂」といった活動も行われた。
福武ハウスを訪れると、建物の外で地元の老若男女が集まって、懸命に作品にかかる枯れ葉の掃除をしていた。「どこから来たん?」と気さくに声をかけてきた男性は、「これは、有名な建築家の西沢立衛先生の作品なんですよ」と作品『葺田パヴィリオン』や福武ハウスの話を誇らしげにしてくれた。その言葉の端々には、アートを見に来る人々への心からの歓迎も感じられる。この清掃は「週末に作品を見に来てくれる人に気持ちよく過ごしてもらいたい」という住民の自発的な活動だという。
2014年夏に、集落に点在する空き家を現代アートで再生させようと、1930年代まで郵便局として使われていた建物で行われた、福田「家プロジェクト きょく」と呼ばれるアート空間を展開したのは、台湾の若手アーティスト。台湾から高松空港にはチャイナエアラインの直行便があって、小豆島もその存在をアピールしており、アーティストの参加は台湾側からの出資で来てもらった。そのアート活動の一つであるポストカードには、サポートをして来た地域の人々がイラストで描かれており、アーティストと地元との交流もうかがえる。
塩田幸雄小豆島町長は「瀬戸内国際芸術祭への参加は、世界的なアーティストやクリエイターに小豆島の良さを知ってもらい、世界に発信してもらうこと、そして住民にそのことを誇りに思ってもらうことに成功しました。しかし、芸術祭は3年に1度のイベント。その時だけでなく、どう今後に生かすかが私の仕事だと思っています。瀬戸内海の他島と連携して、瀬戸内アート・ゾーンとしてアジアやヨーロッパへのアピールを意識しており、今年は、福田地区の福武ハウスをアジアのアーティストの継続的な活動の場にして、タイと台湾のアーティストの作品を展示したのです」と語る。
この継続的活動は、他島からのクリエイターや若者も引きつけており、アートだけではない広がりも見せ始めた。島の“小さな社会実験”の場として同じく芸術祭で建てられた『Umaki camp』 の施工に携わって、そのまま小豆島町に移住してしまった若者もいる。
今はその運営をまかされ、シニア向けのセルフ健康チェックのスペースを作ったり、様々な学びのイベントを開催している。塩田町長は「小豆島町は人口1万5千人ですが、2013年は年間で120人の移住者を迎えました。中にはレストランを開かれた方もいて、オリーブオイルを使ったレシピを考えていただいたり、島にとっても新たな刺激と魅力を生み出しています」という。
アーティストやクリエイターを積極的に迎え入れ、小豆島の魅力を世界に発信してもらう。そして、そのことが住民にも伝わって誇りとなり、さらに外からの人を迎える上でのおもてなしの精神の礎になるという、いい循環が形になってきている。確かにここかしこで感じる島を挙げてのおもてなしの気風こそ、小豆島を訪れた人に心地よさと癒しを醸す観光資源のように思えた。