エクスペディアのBtoB戦略を聞いてきた ―旅行会社リアル店舗の“エクスペディア化”計画が進行中

今年で日本進出9年目を迎えたエクスペディア・ジャパンは、BtoCの分野で存在感を高めつつ、BtoBの分野でも旅行会社などパートナーとの関係性を強めてきた。ふたつのベクトルを持つ同社のアプローチは、何を意味しているのかーー?

エクスペディアのBtoBビジネスが、旅行会社のリアル店舗との協業を図るなど新たな展開を見せている。エクスペディア・ジャパンに、その背景と取組みを聞いた。


(写真右:エクスペディア法人営業マネージャー李承俊氏/左:ディスカバー・ザ・ワールド・マーケティングの佐々木麗氏)


▼BtoB向けに「クマの手」

オフラインへのリーチで新たな旅行会社との連携も

オンラインホテル予約のエクスペディアが目指すのは、もちろん旅行者からの直接予約だ。しかし、取扱い宿泊施設が増加し、在庫が十分あるサイトは、以前から多くの世界の旅行会社でホテル手配ツールとして利用されていた。

そこで、2002年に新たに旅行会社に販売手数料としてコミッションを戻すビジネスモデル(TPPA: Travel Agency Affiliate Program)を確立。まず、イタリアでサービスを開始した。

日本では、2011年に“クマの手”という名称で、旅行会社へのサービス提供を開始。現在のところ、日本では約1400社がこのサービスを利用している。エクスペディア・ジャパンでは、このサービスを強化すべく2014年9月には“クマの手”事業で専任者を配置した。


WS000115専任者に任命された法人営業マネージャー李承俊氏(写真右)は、外部営業委託先のディスカバー・ザ・ワールド・マーケティングとともに旅行会社へのアプローチを強化している。「旅行会社の店頭でも、“エクスペディアで予約してほしい”という旅行者の声は多い」と、このビジネスの需要の高さを強調する。

旅行者が、旅行会社でエクスペディアを指名するという行動は、エクスペディア・ジャパンとして継続してきた精力的なブランディングやPR活動の賜物だろう。テレビCMやオンライン広告だけでなく、自社のSNSやメール、ブログなどを通して旅行者にリーチを広げてきた。同社キャラクターの”エクスベア”も一役、日本人に好まれる「ゆるキャラ」的な役割を果たしている。



IMG_7578こうしたBtoC戦略の中で際立ってきたブランド効果は、特に地方で大きいという。パートナー・マーケティング&ビジネス・ディベロップメント責任者の藤本敬介氏(写真右)は、“クマの手”を利用する旅行会社の店舗で「お客さまを誘引するツールになっている(藤本氏)」と手応えを感じている。

そして、「エクスペディアを全面に出したいと希望する旅行会社店舗の声がある(李氏)」ほど。これが、冒頭に記した旅行会社店舗との新たな展開だ。李氏は、実際に、とある地方都市で、エクスペディアのロゴや販促グッズを活用して、店舗を「エクスペディア化」する計画も進行中であることも明かした。


IMG_7574同社マーケテイング・ディレクター北アジアの木村奈津子氏(写真右)は、リアルな予約の中でも日本市場では「旅行会社の店舗で対面販売の割合が多く、そのニーズが高い」と認識。市場に合わせた手法といえる“クマの手”で、同社の取扱い全体の「シェアを伸ばしていきたい」と存在意義を説明する。

日本でもオンラインによる旅行予約は全体の35%程度まで高まっているが、逆の見方をすれば、まだ約65%がオンラインを利用していない。リアルな予約(旅行会社や宿泊施設への電話など)が行われていることになる。

藤本氏は、「ITリテラシーはシニア層でも高くなってきているが、オンラインでのクレジットカード決済にはまだ抵抗がある人が多い」と説明。店頭での対面による決済で安心感を得る市場は依然として大きいようだ。



▼BtoC、BtoBで変わらないサービス

小規模な旅行会社が競争力を高める可能性

BtoBの“クマの手”が提供するサービスは、BtoCのサービスと変わらない。価格もプロダクトも同じ。キャンペーンなども共有しているほか、エクスペディアの特長である最低価格保証も適用される。BtoB専用のコールセンターを設け、BtoCと同じサポートも提供している。違いは、コミッションバックのシステムと予約確認書に予約を入れた旅行会社の名前が入ることぐらいだという。

BtoCと同様に、「予約の手間を減らすことが旅行会社にとっての大きなメリット(藤本氏)」だ。“クマの手”の由来は、「猫の手も借りたい多忙な旅行会社にエクスペディア・ジャパンのキャラクターであるエクスベア(クマ)が手を貸します」から来ている。


IMG_7603地方の旅行会社への利用促進活動を重視しているディスカバー・ザ・ワールド・マーケティングの佐々木麗氏(写真右)は「クマの手は特に小規模な旅行会社が競争力を高めていくうえで有効なツール」と感じているという。現在、クマの手を利用している店舗は東京、大阪、名古屋に多いものの、ほぼ全都道府県に点在している。

予約はレジャー旅行者だけでなく、業務渡航も多い。李氏は「エクスペディアの豊富な在庫数は、急な出張にも対応できる」と自信を表す一方、「よりシンプルで、より速い予約の環境づくりを進めていきたい」とサービスの向上にも意欲を示す。今年中には、店舗からの要望が多い仮予約システムを新たにローンチする計画だ。


▼進むマルチデバイス化

UI同一化でビジネスでも、さらに使いやすく

IMG_7582エクスペディア・ジャパンは2014年、売上、トラフィックとも対前年比25〜30%増と順調に業績を伸ばしている。さらにコンバージョンを高めるために、サイト刷新計画も進めているところ。

BtoCの日本人ユーザーの利用動向については、アプリなどを提供していることもあり、検索や情報収集はモバイル化が進んでいる。モバイルのトラフィックは、約半分にまで高まっているという。しかし、購買になると、その率は20%以下に下がり、コンバージョンはまだPCの方が高い状況だ。

同社は、こうしたユーザーの動向を見ながら、マルチデバイス化やパーソナライズ化などに積極的。すべてのプラットフォームを同じユーザー・インターフェイス(UI)にするページへの切り替えを順次進めている。

これは、BtoBでも同様で、ビジネス利用でも進むモバイル化に対応。旅行会社スタッフの使い勝手をさらに高めていきたい考えだ。店頭ではPCの利用が多いが、「お客さまとの商談のなかで、タブレットの利用価値は高い」(李氏)ことから、UIの同一化への期待は大きい。

エクスペディアが目指すのは、ホテル予約で豊富な在庫から簡単に安く購入してもらうこと。「BtoBでもBtoCでも基本的に販売戦略は変わらない(藤本氏)」。テクノロジーが進化しても、旅行会社の対面販売に確実な市場があり続けることを考えれば、オンラインのエクスペディアとオフラインの旅行会社の協業は、双方にとってメリットが大きいことといえるだろう。

  • 聞き手:トラベルボイス編集部 山岡 薫
  • 記事:トラベルライター 山田 友樹

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