ANAの新しい制服が誕生するまでの道のりを担当者に聞いてきた

【秋本俊二のエアライン・レポート】

新しい制服と、これからのANA
CS推進部の小沢ちあきさんと語る〔上〕

明るいグレーを基調に、背中には鮮やかなブルーのライン。全日空(NH)の新しい制服がデビューして1カ月半が経過した。10年ぶりにリニューアルされたこの制服は、いかにして生まれたか? ブランディングに込められた社員たちの思いは? プロジェクトをリードしてきたCS&プロダクト・サービス室の小沢ちあきさんに改めて話をうかがった。上・下の2回に分けてお届けする。

※写真は小沢ちあきさん。1995年入社後、客室乗務員として経験を重ね、2013年4月よりCS&プロダクト・サービス室へ。制服リニューアル・プロジェクトではリード役を務めた。現在はCS推進セミナーの主幹業務に携わりながら、現役CAとしても乗務を続ける。

▼客室乗務員の経験を経て新制服リニューアル・プロジェクトを担当 ――常に必要なのは "

顧客満足の追及"

―― 客室乗務員約8000人、空港係員約5000人の計1万3000人が2015年2月1日から新しい制服で仕事を始めました。まずはホッと一息、といったところですか?

小沢氏: いいえ、まだまだ(笑)。飛行機も同じですが、制服も納品されてからいろいろ微調整が必要になりますので。これから長い時間をかけて取り組みます。

新制服は明るいグレーでイメージチェンジ

―― 新制服が発表されたのは昨年4月で、着用開始までは10カ月あったわけですよね。その間にも、いくつかの変更などはあったのですか?

小沢氏: 色やデザインは発表時のものと変えていませんが、細かな調整はありました。ポケットの深さとか、ですね。

―― 小沢さんはもともとファッションの専門家、というのではないのでしょう?

小沢氏: ぜんぜん違いますよ(笑)。客室乗務員としてずっと飛んでいました。現在のCS&プロダクト・サービス室に来たのが2013年4月で、地上でのスタッフ業務はこれが初めてです。もちろんいまも客室乗務員であり、飛びながらの仕事ですが。

―― 客室乗務員として広報部などに所属している人もいるし、そういう現場での経験を生かして地上での支援業務につくというのは、いいことですよね。

小沢氏: そう思います。とくにCS推進室は顧客満足を追求する部署なので、お客さま視点がとても大事になります。

―― 制服のリニューアル・プロジェクトは小沢さんが現部署に来る少し前、2012年12月から始まっていたのですよね。たしかANAが創立60周年を迎えるのを機に発表された。

小沢氏: はい。前任者がすでにいて、引き継ぎを受けました。2013年4月1日に着任して、4月2日からニューヨークのデザイナーのところに出張に行け、と(笑)。

―― さっそくこき使われた(笑)。

小沢氏: 右も左もわからないまま、とにかく飛行機に乗って。

―― デザイナーをプラバル・グルン(Prabal Gurung)氏に──というのはもう決まっていたのですか?

小沢氏: はい。私が着任した時には決まっていました。それで、新しい制服はこうしたいというANAのコンセプトや意向をデザイナーに伝えるのが私の最初の役割でした。デザイナーを正式に発表をしたのはその少しあと、2013年5月です。

空港係員も2月1日から新制服を着用

▼プロジェクトメンバーが現場の声も反映 ――職域を超えて社内が1

つの気持ちに

―― 制服をリニューアルする場合、旧デザインをある程度踏襲する方法と、ガラッと変えてしまうやり方があります。今回はガラッと変わりました。小沢さん本人にも「変えてやるぞ」という意気込みがあったわけですか?

小沢氏: そうですね。私だけではないですが。十数名のプロジェクトメンバーとみんなで話し合った結果、大きく変えようという意見でまとまりました。

―― 最初のプロジェクトメンバーは、15人でしたっけ。どんな人たちが集まったのですか?

小沢氏: それが、フタを開けてみてびっくり。私以外、ほとんどのメンバーが男性で。しかも、みんな部長クラスの年配の人ばかり。

―― 新しい制服をつくろうっていうのに、それ、マズくないですか?(笑)

小沢氏: 私も「あれ!?」って思いました(笑)。ですが、それぞれの部長さんたちの後ろには何千人という客室乗務員や空港係員がいて、プロジェクト会議ではちゃんと部門内の意見を吸い上げて持ってきてくれる。現場の女性たちの声もきちんと届くので、まったく問題はありませんでした。

―― 小沢さんはプロジェクトのまとめ役というか、リードしていく立場だったのですよね。15人だって、意見をまとめるのはかなり大変なのでは?

小沢氏: 最初はまず「どんなふうにしていこうか」というコンセプトづくりから始まったのですが、一部の人の考えが大きく違って説得が大変だったとかいうのは、いま振り返ってみるとなかったですね。みんな、持っていた思いはいっしょだったのかなって思います。

▼新デザインのコンセプトは「安心」「信頼」にアジア的なエレガントさを加味

コーポレートカラーのブルーを背中に

――空港ロビーを客室乗務員たちが同じ制服でキャリーバッグをころがして歩いていたり、カウンターで空港係員が並んで業務していたり。そういう姿を一般の人たちが目にするのは、大きな広告効果につながると思います。ある意味、何千万円という費用をかけてCMを打つのとはまた違った、直接的な効果があって。

小沢氏: 一番のフロントラインで、お客さまが直接目にするわけですからね。

―― 各社ともそれは同じで、だからこそ制服にはそれぞれに個性を打ち出しています。他社の制服も研究されたのですか?

小沢氏: 世界中の航空会社の制服を資料として研究しました。制服って、本当にいろいろなんだなと思います。民族衣装的なデザインもあれば、カチッとしたキャリア的なもの、ほかにふわっとしてエレガントな制服も少なくありません。

―― 民族衣装をモチーフにしたのはアジア系に多いですね。それに比べて、アメリカ系は制服然としている。エレガント系というと、たとえばエールフランス航空などがそうかな。

小沢氏: 中国の会社にも、エレガントなものがありますね。そういう分類の中で、ANAはこれまで、どちらかというとキャリアテイストのカチッとしたデザインでした。それを新しい制服では、エレガントなものにしたいと。女性らしさも感じてもらえるような。

どんな質問にも気さくに答えてくれた小沢さん

―― アメリカ系がカチッとしたデザインを好むのは、なぜか? 興味があって調べてみたら、彼らはサービス要員としてよりも保安要員としての役割を客室乗務員に求めていることがわかりました。その点が、民族衣装を着せて可愛らしいサービス要員というイメージを打ち出しているアジア系とは違う。お客さんに何かを注意するときに、ガードマンのような制服のほうが言うことを聞いてくれるというんです。なるほどな、と思いました。ANAも同じアジアなのだから、もう少し可愛いユニフォームをという意見もあるなかで、やっぱり保安要員としての役割を重視しているんだなと私は思ってきました。

小沢氏: そうですね。おっしゃるとおりです。私たちも今回のプロジェクトで最初にコンセプトを決めるとき、社内だけで考えるのではなく、お客さまにアンケート調査をしました。その中で多かった意見の一つが、航空会社の制服に求めるのは「安心」と「信頼感」であると。そんな中にも、エレガントさを盛り込みたいと思って完成させたのが、今回の新制服です。

──以下、次号へ──

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)や『ボーイング787まるごと解説』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)など著書多数。

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