2016年1月から社会保障・税番号制度「マイナンバー制度」がスタートする。施行まで残すところ約8か月。まだ先と考えている読者の方も多いのではないだろうか?しかし、野村総合研究所制度戦略研究室長の梅屋真一郎氏は「対策は今すぐ始めたほうがいい」と話す。なぜなら、個人情報の管理以上に罰則・規制の多いマイナンバーの取扱いを一つ間違えれば「企業のリスクになる(梅谷氏)」からだ。
このほど日本旅行業協会(JATA)は、緊急で会員各社を対象にしたセミナーを実施。冒頭の梅谷氏のコメント「対応は今すぐ」は、そのセミナーで強く強調された。今回は、そこで語られた新たな制度の企業側の視点からポイントをまとめた。このセミナーは旅行会社から約200名の参加があり、JATAが開催するセミナーのなかでも特に注目度が高いものだった。
【知っておきたいポイント1】 そもそも、マイナンバー制度とは?
まず、マイナンバー制度について。トラベルボイスでも好評のコラムニスト税理士・菊池先生がまとめてくれた。
2015年1月1日から始まる「マイナンバー制度」は、私達1人1人に12桁の番号が与えられ、税や社会保障の手続きの際には、その番号を記載するようになります。今年の10月に住民票のある市町村から、番号が通知されます。この番号は、原則として一生使うものなので、大事に保管してください。
マイナンバーが使用されるのは、当面は、税・社会保障・災害対策に限られています。社会保障分野では、年金の加入や給付を受ける際、就職や退職したときの雇用保険の手続き、雇用保険の給付、ハローワークでの事務、医療保険の保険料徴収、生活保護の事務等で利用されます。税の分野では、源泉徴収票、確定申告書や各種届出書等に記載されます。災害対策分野では、被災者への生活再建支援金の支給の事務等で利用されます。
会社員であれば、年末調整の書類や、年金・健康保険の書類などにマイナンバーを記載するので、会社から番号の提示を求められるでしょう。会社や事業主は、社員からマイナンバーの提示を受けたら、厳重に番号を管理しなくてはなりません。管理方法については、厳密な規定があるので、事前に準備が必要になります。
まとめると、「日本国内に住む個人と法人すべてに振られる個人番号。社会保険や税金の手続きに必要になり、厳密な既定のもとに管理しなければいけないもの。」ということ。セミナーでは梅谷氏が、番号の付与対象には外国籍の人、留学生も含まれることを解説した。
【知っておきたいポイント2】 記載は企業の責任、違反には大きな罰則
それぞれに割り振られた番号は、氏名や住所と同様に書類への記載が法定の記載事項となる。それは、雇用主である企業の義務となる一方、書類以外で利用すること(目的外の利用)は法律違反になる。そこには厳罰が規定されているため、記事冒頭で紹介した「企業のリスク」となるという。
特に情報漏えいでは、直接の違反者とその事業主体の両方を罰する両罰規定や民間企業等への立入検査権限も認められている。保管義務のある書類は入社・退社・身上関係変更・組織異動・求職・復職・社会保険算定・証明・納税代行・給与支払い・労災給付申請・保険給付申請などなど300種類にのぼるといわれ、「個人情報を超えた管理が必要(梅谷氏)」だ。
【知っておきたいポイント3】 「個人情報を超えた管理」が必要
マイナンバーの管理をする事業者のために、特定個人情報保護委員会はガイドラインを規定している(2014年12月公表)。これは、事業者のすべき安全管理対策が策定したもので、梅谷氏はガイドラインにのっとっていないと法令違反になるため人事・総務などの担当者レベルだけでなく「企業の経営者にも読んでもらいたい」と力説する。
まず、番号を含む個人情報は特定個人情報となる。従来との違いは、件数の制約がなく、1件から義務は発生すること。源泉徴収票、扶養控除関係、社会保険書類、など毎年行う扶養控除異動申告書の収集などでは、提出時に封書にする、提出場所の指定、提出経路の明確化など安全管理が必要になる。
また、個人番号は、目的外で勝手に集めたり利用したり保管することは法律に反することになる。入社・退社・身上関係変更・組織異動・求職・復職・社会保険算定・証明・納税代行・給与支払い・労災給付申請・保険給付申請などなど、たくさんのシチュエーションで様々な書類のやり取りをするので要注意だ。
例えば、企業が本人確認のために住民票の提出を求めると、そこには個人番号が含まれることも発生する。そのため、集める際には個人番号をマスキングするなどの注意をしてから収集するなど細かいルール作りや対応が必要だ。
【知っておきたいポイント4】 番号の提出は本人で「本人確認」が必要
企業が従業員から番号を収集するときは、通地カードを収集することになる。その提出は、本人からに限られる。これは、第3者提供が禁止されていることによるもので、提出時には免許証など身分確認ができる書類で本人確認が義務付けられている。梅谷氏は「企業の義務は「確認」すること」という点を強調し、本人確認をした事実の記録を取ることが重要であることも補足した。
集めた後の保管はどうだろう。在職中は、保管することも可能だが、退職時には同時に確実に記録した番号は廃棄する必要がある。一方、給与所得者の扶養控除など申告書の法廷保存期間は7年と定められており、それを経過した段階で抹消しなければならない。こうした廃棄・末梢の際は書類、データ、バックアップともにすべて廃棄が必要で、年度毎に期日管理するなどの対応が必要になってくる。
梅谷氏はこうしたことから「書類保管・事務すべてに見直しが必要」と訴えた。マイナンバーを含む個人情報を故意に漏えいすると「4年以下の懲役・200万円以下罰金」など、懲役刑を含む罰則が厳格に定められており、企業と従業員も双方が罪に問われるようになるという。
なお、漏えいの被害者になった場合(盗難、不正利用されることが予測される場合)はマイナンバーを個人が新らたに市区町村に請求することができる。また、マイナンバーの本人確認は扶養家族の場合、会社側が行う必要はない。家族である従業員が行っているという位置づけで、家族分の番号は従業員が書くことでよいという。ただし、国民年金3号被保険者の配偶者は届け出だけは、対象者が本人確認のうえ提出するなど例外も少なからずあるようで、ひとつひとつの確認が必要だ。
梅谷氏は「マイナンバーを守ることは従業員と会社を守ること。」と何度も力説。ここでまとめたのは、梅谷氏による基本情報で、各事案ごとの運用的な例外や補足なども数多く存在する。早いタイミングで、必ず特定個人情報保護委員会はガイドラインなどを確認するようにしたい。
次回記事では「今すぐ取り組むべき2つのこと」を紹介する。
(トラベルボイス編集部:山岡薫)