2016年1月から社会保障・税番号制度「マイナンバー制度」がスタートする。前回の記事では「知っておきたい4つのポイント」を紹介した。今回の記事では、日本旅行業協会(JATA)が緊急開催したセミナーで、野村総合研究所制度戦略研究室長の梅屋真一郎氏が強く勧めた「今すぐ取り組むべきこと」をまとめた。梅谷氏は「対応は今すぐ」と強調。基本情報とともに、把握しておきたい。
梅谷氏の説明によると、今回の制度は日本の法人すべてが関係するものの、産業別の対策傾向があるわけではない。大きく関係するのは雇用関係の傾向で作成する書類や提出経路が違ってくること。企業にとっては正社員・契約社員・パート・アルバイトの従業員はもちろんのこと、支払調書が発生する請負などの個人事業主への対応も発生する。
旅行・観光ビジネスでは、訪日分野で日本在住の外国人に委託する業務、現地ガイド、旅行サイトに掲載する記事の原稿を依頼したライターへの支払いなど様々なケースが想定され、事前にフローを検討しておくことが必要だ。
【取り組むべきこと1】 従業員への周知徹底
個人番号は、今年10月には通知カードで配布される。国民1人に1枚、送られるもので、住民票の住所に送られるので住所変更をしていない人は注意が必要だ。実際に税や各種社会保障の書類に番号を書くようになるのは来年から。これは企業の責務になるため、特に会社の規模が大きな場合は、従業員、扶養家族など収集する件数が膨大になるため早目に収集したほうがよい。
梅谷氏は、「夏頃、10月にカードが届くまでに受け取ること・紛失しないことを従業員全員に周知徹底したほうがいい」と呼びかけた。
【取り組むべきこと2】 企業組織内の体制づくりと理解
マイナンバー制度で企業が対応しなければならない書類は、入社・退社・身上関係変更・組織異動・求職・復職・社会保険算定・証明・納税代行・給与支払い・労災給付申請・保険給付申請などなど。これだけ膨大な書類を処理・管理し、本人確認などのフローを実施していくうえで、梅谷氏は「外部リソースを活用するのも手」と話す。しかし、「丸投げでは成り立たない(梅谷氏)」。
なぜなら、マイナンバーの事務や個人番号の収集を他社に委託することは認められているものの、企業側の監督義務があるからだ。委託先を適正に選択すること、しっかりとした契約を結ぶこと(契約に含む条件はガイドラインに含まれている)、状況把握(報告を受ける)をすることを満たす必要ある。梅谷氏は、「これなしに漏えいした場合は、委託者(企業側)も罪に問われる可能性がある。」と注意を喚起した。
ただし、今回の制度は対象がすべての企業と個人が対象になり、一斉に制度がスタートするため、外部リソースも足りなくなる可能性がある。早めの対応が必要だ。
外部の力を借りる、借りないはどちらにせよ、梅谷氏が力説した体制づくりのうえで把握しておきたいことをまとめてみた。梅谷氏が説明した、まず着手すべき点は以下の3点だ。
経営者による番号制度の理解・企業活動が受ける影響の理解
今後の企業活動に影響が大きいことから、トップダウンで全社的な対応を実施できるように。
企業横断的なタスクフォースの結成(全従業員が関係する)
社内手続き上、関係部署が横断的になるため、強調した対策に当たる必要がある。人事、厚生、総務、社内システム、教育、各事業所など関連する広範囲な部署の対策チーム結成が不可欠。
影響把握と対策工程表の作成
短い期間で様々な対策を同時並行で講じる必要が出てくるので、今後の影響の洗い出し、工程表づくりが不可欠。
こうした体制づくりを盤石にしたうえで、さらにやるべきことは多い。事務関係のルール決定では、個人番号の安全管理のルールを設定(入社時と退職時の管理が重要)や企業が番号を収集すべき事項、収集してはならない事項の把握(目的外の利用禁止があるため)することが必須。また、雇用関係以外で支払いが発生する場合の番号取得のルール(本人確認・情報安全管理)など情報管理の仕組みづくりも重要となる。
こうしたことから、梅谷氏は、このマイナンバーへの対策は「企業が最優先でおなわなければならないこと」として予算・体制面で検討を開始することを強く勧めた。各事案ごとの運用的な例外や補足などが多数ある制度のため、必ずガイドラインなどを確認して進めていきたい。
(トラベルボイス編集部:山岡薫)