外務省の「在外邦人の安全対策強化に係る検討チーム」は2015年5月26日、岸田文雄外務大臣にチーム内で検討した、在外邦人の安全対策強化のための施策と方策を取りまとめた提言書を提出した。検討チームは、シリアで発生した邦人殺害テロ事件を発端に岸田外務大臣の指示で設置されたもの。3月に発生したチュニジアの銃撃テロ事件も踏まえた議論がされたという。
在外邦人の安全対策に関しては海外旅行業務に関わる部分が多く、消費者の旅行に対する心理にも影響する場合がある。特に今回の提言書に書かれた中長期的施策には、企画旅行の催行判断が各社で分かれる渡航情報の「渡航の是非を検討してください」について、「不要不急の渡航は止めてください」と、“必要でなく、急ぎではない”渡航を止めるよう、断定的な表現への変更を提案している。
この提言書に書かれている内容は、現時点で実施決定がされていないものの特に優先順位が高い案件として位置づけたものだというが、特に旅行業者として注目したいポイントをいくつか抜粋した。全文は最下部の外務省のリンクページから参照のこと。
1.「危険情報」の表現変更
情報収集と分析体制を抜本的に強化し、効果的に活用・発信する施策の一環として「渡航情報」の見直しが盛り込まれた。名称を「海外安全情報」と改称し、このうち「危険情報」は各レベルの記述を分かりやすく、より直接的な表現とすることを目的に、従来の「渡航の是非を検討してください」は「不要不急の渡航は止めてください」、それ以上のレベルで記述されている「渡航の延期をお勧めします」は、「渡航は止めてください」と改める。
▼従来
- 「十分注意してください」
- 「渡航の是非を検討してください」
- 「渡航の延期をお勧めします」
- 「退避を勧告します。渡航は延期してください」
▼変更案
- 「十分注意してください」
- 「不要不急の渡航は止めてください」
- 「渡航は止めてください」
- 「退避を勧告します。渡航は止めてください」
2.「感染症危険情報」もレベルに反映
「感染症危険情報」は従来、危険度を明確にレベル分けをしていなかったが、今後は4つのカテゴリーで明示化。「危険情報」のレベルに反映させ、感染症特有の注意喚起を状況に応じて付記する。
3.旅行会社の海外旅行申込みサイトとの連携
情報発信スキームの改善・強化の一環として、海外安全ホームページ上の掲載情報はLINEやFACEBOOKなどSNSやインターネットのポータルサイトを積極的に活用。インターネットでの海外旅行手続きも多いため、安全情報を閲覧しなければ手続きが完了しないような仕組みを、旅行業者に呼びかける。
スマートフォンの活用では海外安全ホームページのスマホ対応(実施済み)に続き、今後はスマホ用の「海外安全アプリ(仮称)」を開発。海外安全情報や海外旅行登録システム「たびレジ」に登録した個人情報をストックし、海外の渡航時に渡航先と渡航期間のみの登録で、「たびレジ」の登録や渡航先に関連する情報確認を可能にできるものを目指す。たびレジ」は3年をめどに累計150万人の登録を目標とし、旅行会社の海外旅行申込みサイトとの連携実現を図る。
4.ツーリズムEXPOジャパンにブース出展
海外渡航をする国民の意識向上を目的に、発信コンテンツの充実・拡充を図る。この一環で、ツーリズムEXPOジャパンにブース出展し、情報発信や意識向上のためのイベントを開催。また、旅行ガイドブックにも「海外安全ホームページ」や「たびレジ」のリンク先の掲載について、協力を依頼する。
5.海外安全コールセンター設置、海外旅行の安全相談も
現在、海外で事件や事故に遭遇した邦人には、深夜や休日などの閉館時は在外公館で専門業者が対応。外務省では当番制の当直で対応しているが、迅速な初期対応や専門性に限界があるとし、外務省でも専門業者への外部委託による「外務省海外安全コールセンター(仮称)」を設置し、24時間体制で対応できるように検討する。あわせて、海外旅行の安全相談にも対応することが望ましいとし、これにより、緊急時のサービス拡充ときめ細かい相談対応を可能とする。
参考記事>>
外務省、海外に滞在・渡航する日本人の安全対策で携帯・スマホ対応強化、5つの施策を発表(2015年 2月 6日)