日本のオンライン旅行6社トップが語る実績と戦略、海外勢や業界外の脅威とは? -WIT Japan2015レポート

軒並み2ケタ増の成長を遂げる日本のオンライン旅行会社(OTA)だが、拡大基調は海外でも同様だ。このなかで欧米のプライスラインとエクスペディアの2強は、買収戦略でますます巨大化。その流れは中国、アジアにも及び、日本でのシェア拡大も進んでいる。この状況下で日本のOTA各社はどのような展開をしていくのか。

2015年6月5日に開催されたオンライン旅行業界の国際会議「WIT Japan2015」で行われた日本市場に関するセッションでは、国内のオンライン旅行業界をリードする6社の経営陣の競演が実現。互いに牽制しつつ発表した2014年の実績と今後の戦略・方針からは、多様に花開く未来の業界絵図がうかがえた。また、グローバル企業に対する見解にも注目したい。


登壇者(50音順)
  • i.JTB 代表取締役社長 今井敏行氏
  • 一休 代表取締役社長 森正文氏
  • エイチ・アイ・エス 執行役員 高野清氏
  • ヤフー ショッピングカンパニー トラベルサービスマネージャー 西田裕志氏
  • 楽天 執行役員 トラベル事業長 山本考伸氏
  • リクルートライフスタイル執行役員 宮本賢一郎氏
モデレーター
  • WIT創設者 イェオ・シュウ・フーン氏
  • ベンチャーリパブリック 代表取締役社長 柴田啓氏

 

▼オンライン専業4社の拮抗 ~ 実績と戦略

 

【一休】 モバイル予約比率40%、訪問者数は20%の伸び

一休の実績を見ると、モバイル予約比率40%に目がいく。これは、楽天のトラベル事業が約30%、旅行以外のEコマース全体で44%(2014年度決算)を踏まえても高い数値だ。

一休(会場スライドより)

しかし、森氏が自己評価したのは訪問者数20%増の成長率で、「母数が拡大している中で成長し続けている」とアピール。一休では高級ホテルと排他的契約を結び、マンダリンオリエンタル東京では8月の1か月で1億円以上、ザ・リッツカールトン京都で平均客室単価(ADR)で10万円を売り上げた。こうした種のホテル予約を行う顧客層を同社では400万人抱えており、今後は「宿泊施設とレストランの両サイトを持っているのは我々のみ。ここを強化する」との方針だ。


【リクルート・じゃらん】 5年で約2倍に拡大、アクティビティ予約に期待

じゃらんを運営するリクルートライフスタイルは前年比27%増の6890億円で、5年前の約2倍に拡大。「順調な推移で非常によい1年だった」(宮本氏)と評価する。その他は非公表で、モバイル比率も「半分に達していない」に留めた。今後も従来の需要や地域の魅力を作り出す方針を継続し、7月に開始する旅先でのアクティビティ予約も「マーケットの活性化に繋がる」とアピールする。

リクルート(会場のスライドより)

【楽天トラベル】 モバイル予約は30%前後、2ケタ成長も「もっと伸ばす」

楽天の国内の予約流通総額は16.9%増だが、「じゃらん、一休の方が伸びているのにこれで喜んではいけない」と山本氏。「マーケットが成長している中ではもっと伸ばすことができる」とさらに上を見る。シュウ・フーン氏がインバウンドの著しい増加(69.7%増)を指摘しつつ、競合相手を聞くと「ブッキングドットコムの成長率を見てから喜びたい」と、海外OTAの名をあげた。

楽天(会場スライドより)

【Yahoo!トラベル】  モバイル予約は20%、新たな訪日市場へのチャレンジ

ヤフーは、トラフィックが月1億600万PV、モバイル予約比率が20%。トラフィックはメタサーチを除いたOTA事業に限ると少ないとし、そのため「伸び率で見れば我々が一番大きいのでは」(西田氏)とも述べた。取扱いは現状すべて国内のみだが、基調講演でヤフー執行役員の小澤氏がインバウンドに取り組む方針を明言。西田氏も今後は「すべてにおいてスピードをあげていく」とし、訪日FITを取り込む考えを示した。

ヤフー(会場スライドより)

▼2大総合旅行会社の攻勢 ~実績と戦略

 

【JTB】 店頭とのオムニチャネル化実現へ、オンライン決済が大きな伸び

オンライン分野に限れば後を追う立場であったJTBとH.I.S.。しかし、i.JTBの今井氏は自社の強みを述べる中で「唯一、後塵を拝していたウェブも伸びた。訪日も団体も店頭販売もあり、オールチャネルであること」と自信を示す。JTBは、2015年4月から新メンバープログラムを開始し、従来の店舗や電話窓口の「JTBトラベルポイント」とウェブ予約の「JTB INFO CREW」を共通化。近い将来のオムニチャネル化実現へ推進しているところだ。

i.JTB(会場スライドより)

i.JTBの公表値は、店頭等を含むJTB全体(個人旅行)とオンラインの販売額の推移。全体の取扱額1兆2000億円には大きな変化はないが、オンライン販売比率は2006年の5、6%程度から2014年には16%程度に成長。「特にこの2年間で急激にオンライン決済が増えた」といい、2020年には28%以上30%弱になると予想する。


【HIS】 テレビCM効果、パッケージツアーのモバイル予約が突出

一方、H.I.S.のオンライン予約の取扱比率は、人数ベースで22%、販売ベースで15%。ただし、オンラインのBtoBを含めると、人数は30%程度、販売額は21%程度に上昇する。ユニークなのは、モバイル比率(海外のみ)。エアオン11%に対し、パッケージツアーが33%と大きい。これについて高野氏は、「テレビCMの影響が強い」と説明した。

H.I.S.(会場スライドより)

両社の今後の展開ではグループの強みを活用し、リアルとオンラインを融合させようという点がOTA専業と異なるところ。例えば今井氏は優先事項として「CRM戦略」をあげた。4月から店舗とオンラインのポイント制度を一本化しており、「2016年中にはネットで探した商品について店頭で案内を受けてから申し込んだり、店頭で相談した商品を持ち帰って自宅でネット購入ができるサイトを作りたい」と、OtoOを加速する方針だ。

H.I.S.の場合は、「まだサービスが完全に繋がっていない」(高野氏)というが、「例えばタイからの訪日旅行では、現地店舗やサイトで旅行を販売し、フライトはアジアアトランティックエアラインズを利用。日本ではハウステンボスなどでの観光やホテル、店舗での観光案内や行動支援アプリの販売もできる」と、グループ全体で顧客のトラベルジャーニー関わる構想を語った。


▼インバウンドのチャンス、海外OTAの脅威はマーケティング力

セッションでは柴田氏が、日本と世界のOTAビジネスにおけるコミッションの違いに水を向けた。世界の手数料は15~20%と高いが、日本では7~9%程度と低い。さらにヤフーの0%も出現した。

右から)一休代表取締役社長/森正文氏、ヤフー・ショッピングカンパニー・トラベルサービスマネージャー/西田裕志氏、i.JTB代表取締役社長/今井敏行氏、エイチ・アイ・エス執行役員/高野清氏、楽天執行役員トラベル事業長/山本考伸氏、リクルートライフスタイル執行役員/宮本賢一郎氏、(モデレーター:右・ベンチャーリパブリックCEO/柴田啓氏、左・WIT創設者イェオ・シュウ・フーン氏)

iJTBの今井氏は日本の手数料率が低下した背景を述べつつも、「急激に環境が変わっている」と指摘。「想像以上にインバウンドが増えてホテルの稼働率が急上昇した。その結果、売るものがなくなっている現象が起こっている」と述べ、「そうなるとホテル側は、貴重な在庫は手数料が高くても確実に販売してADRが上がるところと組みたいと思うはず。だから、手数料の引き上げをお願いできる状況にあると思う」と、インバウンドの増加が変化を促すとの見方を示した。

今井氏

今井氏の発言を受け、シュウ・フーン氏は「手数料の低さも日本参入の障壁になっていたようだが、インバウンドの増加で海外OTAの進出が促進される可能性があると考えられる。この点は脅威に感じるか」と議論を展開。

これに対し、リクルートの宮本氏は「インバウンドの増加による海外OTAの躍進は各方面から聞くが、全体の稼働率が上がり、各地域が恩恵を受けることは悪いことではない」とコメント。「我々としては継続的なコスト削減などの努力をしながら、新しい産業を開発することでマーケットの成長期待に応えていく」と、自助努力で対応する考えを示した。

また、H.I.S.高野氏は「手数料がサービスに反映されていれば脅威になるが、消費者には見れば関係がない。それよりも海外OTAが優れているのはマーケティング力。日本以外の市場で培ったノウハウ、データに基づき、勝てる部分を見つけるのが早い」と、コミッション以外での脅威を語った。


▼旅行の枠を超えた脅威、 ~グーグルやアマゾンをどう見るか

さらに、シュウ・フーン氏はインターネットの“モンスター”と呼ばれるグーグルやアマゾン、フェイスブックなどについて「脅威と感じるか」との見解も求めた。

一休の森氏は「数年後はグーグルがかなりの部分を持っていくだろう。もし自分がグーグルのCEOなら、プライスラインやエクスペディアを買収するか自分たちでやるべきかを分析し、数年後に行動すると思う」とコメント。また、ヤフーの西田氏は、「我々と同じ強みを持っているという意味で、グーグルが脅威」と、広告メディアとしての立場で回答した。

森氏

i.JTBの今井氏も「やっぱりポータルサイトのグーグルが怖い」と言及。「数年前はグーグルマップに乗るだけだったのに、今ではグーグルサーチで検索しても比較されるようになっている。それも知らないうちに」とグーグルを牽制した。

H.I.S.の高野氏はさらに別の視点で、モンスターの脅威を指摘。「トラベルよりもグーグル・ナウ、イェルプ、アマゾンローカルのように、日常生活に旅行を溶け込ませる部分。旅行の周辺企業がアプリで日常に溶け込ませようとしているのとは逆で、ユーザーが旅行に切り替える必要なしにタッチできる点は気になる」という。

一方、楽天の山本氏は「グーグルは少し怖いけれど、やはりシンプルにブッキングドットコムが脅威」と、モンスター群よりも直接的なライバルを再度あげた。「OTAの存在意義は、以前は安全に予約できるトランザクショナルプラットフォームだったが、今は各利用者の目的に適したホテルはどこかというナレッジを積み重ね、リコメンドする部分が求められている。しかし、グーグルはそれをしていない」と理由を説明。

「そういう点で、カスタマーレビューやレイティングフィードバックなどを有しているのは、世界ではブッキングドットコムが1番だと思っている」と述べた。クチコミサイトと異なる点も、宿泊のビッグデータを持っていることだとする。

実はセッションの中の「自社の強み」を語る部分で、楽天は「宿泊施設との関係性・相互理解」とし、最優先事項として「強みである宿泊施設の情報などのコンテンツをさらに深化させる」と話した。「特にインバウンドで海外OTAに立ち向かうのは、日本のビジネスホテルや旅館を一番知っている我々だと自負している。単に部屋を売るのではなく、経験を売ることにフォーカスしていく」と、海外OTAを強く意識した方針を語っている。

国内OTAのもう一つの雄、リクルートの宮本氏も「我々ならではの介在価値を追求することが重要」と述べた。規模で迫る海外OTAや新興サービスに対抗するために、オンラインの世界でも存在意義、介在価値を磨く重要性が急速に増している。

*昨年のWIT Japanでの同セッション記事>>>

取材・記事:山田紀子

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