日本旅行業協会(JATA)は、外務省と観光庁とともに「安心・安全な旅」の実現にむけて消費者や旅行会社への呼びかけを強化する。外務省の緊急時に在外公館などから情報提供が受けられる海外旅行登録システム「たびレジ」普及への協力や、緊急事態発生時の情報収集や情報共有を行う官民連携の体制を構築する。 *写真:JATA事務局長の越智良典氏
このほど開催された記者会見で、事務局長の越智良典氏は、近年の海外旅行における事故・トラブルが2000年代にはいってから「テロ」「感染症」「自然災害」の3つのリスクを抱えていることを指摘。これまでも外務省との連携や現地調査団などで的確な情報を収集することに努めてきたが、さらに新たな仕組み作りを行うことを明らかにした。観光庁、外務省とともに情報を一元化していくことを目指しているという。
外務省では、シリアで発生した邦人殺害テロ事件を発端に、3月に発生したチュニジアの銃撃テロ事件も踏まえた議論が行われ、在外邦人の安全対策強化のための施策と方策を取りまとめたところ。4つの段階で発出される危険情報の表現をより直接的なものに変更する案などがあるが、越智事務局長は「それぞれのレベルで、ツアー催行についての基準を設けるような準備をしている。“渡航是非の検討”のレベルでは、具体的な対策、危険回避措置などの対策をとる指導をしていく」方針だという。
外務省領事局海外邦人安全課邦人援護官 伯耆田修氏(写真右)は、各国でテロが発生する近年の傾向を、「巻き込まれるかもしれない、ではなく、(日本人が)標的になる次元に変化してきた。」「どこでもテロが発生しうる環境」と警鐘を鳴らす。こうした中、緊急時に在外公館などから情報提供が受けられる海外旅行登録システム「たびレジ」を普及させることで緊急対応を迅速化させたい考えだ。
「たびレジ」は、スタートして約1年で登録者が約20万人。3年後までに延べ150万人まで増やしていきたい方針。伯耆田氏は「短期滞在者(海外旅行者)の安否確認が一番難しい」と語り、その重要性を強調。今後、成田空港にブースを作って、登録ができるような準備を進めていることを明らかにした。
この「たびレジ」の認知度は、まだ高いものとは言えない。越智事務局長は、旅行会社でも知らないスタッフが多い状況を指摘。JATAとしては、会員各社への認知向上を務めるとともに、OTAのネット予約の決済画面やツアー出発前に旅行者に呼びかける具体策をとって協力していく方針だという。
▼JATAの旅行安全マネジメントとは?
JATAは、7月1日を「旅の安全の日」に制定。会員旅行会社が事故対応の模擬訓練を実施したり、旅行者に安全な旅をするための啓蒙活動を推進してきた。2013年末に観光庁に提出した提言書「観光危機管理における組織的マネジメントのあり方」をもとにした、「旅行安全マネジメント」は大きく以下の3つのポイントで構成されている。
- 安全管理責任者の任命、任命率の向上
- 「旅の安全の日」制定
- 旅行安全マネジメント自主点検リストの活用
安全管理責任者については、昨年までに104社(第1種82社、第2種6社、第3種16社)が任命済み。また、緊急連絡体制の確認や滞在者数の確認などで103社が模擬訓練を実施した。2015年度の模擬訓練では110~120社の参加を見込んでいるという。
JATA海外旅行推進部担当副部長の村井秀彰氏(写真右)は、1年半が経過した推進活動で「業界全体の危機意識の感度は上がってきている」と評価。事故発生時の報告で外務省や観光庁に連携する重要性を改めて強調した。トラベルボイス編集部:山岡薫