「ホテルが満室で予約できない」は本当か? ー宿泊施設ができる対応を考える【コラム】

ホテルコンサルタントの堀口です。

このところメディアで取り上げられる、宿泊施設の「予約が取れなくなっている」状況。

先日もこんなテレビ番組が放送されていました。

6月6日の福岡でも同様の取り上げられ方でした。

 

今の日本は宿泊予約が取れない?

確かに、外国人旅行者の増加により首都圏を中心に宿泊施設の稼働率は大きく伸びました。新聞記事からも全国各地で稼働率が好調な様子が伝わってきます。

客室の埋まり具合を示す数値である客室稼働率の月平均が80%を超え出すと、満室になる日が出てきます。宿泊施設の立地などによっても異なりますが、都市立地であれば稼働率85%を超えると満室になる日が週に3日間は出てくると思って良いでしょう。

このように、確かに満室を記録する日が増加した宿泊施設が増えてきています。


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本当に満室になっているか?

しかし、稼働率が100%になることと「予約が取りにくくなる」ことは必ずしも同じではありません。そして、客室稼働率は毎日が100%ではないのです。

実際に報道で宿泊予約100%と報じられた6月6日の福岡で、その日に宿泊予約サイトで空室を検索した時の状況が下の写真です。


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事前報道では満室だったにもかかわらず、いくつもの宿泊施設で空きがありました。

「予約が取れなくなった」と報道されると、お客様も「予約が取れない」という感覚を強くします。このままでは国内の宿泊需要に悪影響を与えるのではないか、と懸念しています。

出張利用のお客様は、電話会議を増やしていくかもしれません。レジャー利用のお客様は、まだ混み合っていない地域に選ぶかもしれません。


宿泊施設側の予約管理に問題があるのでは?

もちろん、これだけ宿泊需要が増えれば実際に予約が取れない日もあるでしょうが、ここで考えていただきたいのは、

「宿泊施設側の販売方法がこの状況を悪い方向に後押ししていないか」という問題なのです。

どうしてこの状況になるかというと、

お客様が予約をしたいタイミングで宿泊施設側は販売を停止しているが、その後キャンセルが出るなどして販売を再開している、というのが原因ではないでしょうか。

ビジネス需要では、予約のピークは14~7日前が中心です。

この時期に販売停止しているのに、その後キャンセルが出ることで上記のような問題が生じるのです。つまりは

「キャンセルを予測できていない」ことが問題の本質と言って良いでしょう。

では、直前にキャンセルが出るのはどのような場合があるのでしょうか。

  • パターン① 団体予約の減少を予測できていない
  • パターン② 個人予約の減少を予測できていない
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団体予約の減少を予測できていない

日本では、団体管理のレベニュー・マネジメント(RM)のノウハウが十分に普及していません。

団体は商談の進み具合に応じて減少するリスクがあり、RMでは今現在どのリスク段階にあるのかを示すために「団体予約区分」を設けています。

団体予約区分

状態

リスク

仮予約優先的に客室を抑えている段階減少リスク 大~小
催行確定利用が決まった段階減少リスク 小
最終決定利用する部屋数まで決まった状態減少リスク なし

※日本の商習慣に合うよう、弊社亜欧堂で予約区分名を修正しています。

団体の減少予測が苦手なホテルは、団体予約区分を管理していないか、Wash率(客室数の減少率)を把握できていないかのどちらかでしょう。

団体予約区分を管理できていれば、「最終決定」状態まで進んだ団体はそれ以上減らないと判断でき、「催行確定」状態の団体は多少減少のリスクがあると判断できます。

であれば、まだ販売を停止する状態ではないと考えるべきです。

ただし、予約区分「最終決定」の根拠の「ネームリストの入手」は、締め切りを1週間前とする宿泊施設が多く、かつその締め切り通りにいかない(前日にネームリストがやっと入手できる、ということも)のが問題です。

そこで、「どの程度減少するか」を考えるべきで、その指針がWash率です。Wash率は主に団体の種類によって異なりますが、概ね10%程度です。もちろん団体ごとに減少の傾向は異なります。

「この団体はまだ部屋を必要としている」「集客状況が思わしくないようだ」といった個別の情報を旅行会社や幹事の方から集めることで、減少予測の精度を上げることができます。


個人予約の減少を予測できていない

団体と同じく個人予約も減少します。個人予約も傾向が把握できれば、その分多めに販売して客室稼働率の結果を100%にすることも可能です。

実際にリゾートホテルではこのような手法が取られているのですが、これまで日本の都市立地の宿泊施設では「直前でキャンセルがあっても新規予約で穴埋めされるため、減少を気にする必要がなかった」状態でした。ところが、今は直前でのキャンセル数が増え、新規予約での穴埋めができなくなりつつあり、以前とは異なる予約傾向なのです。

ブッキングペースが可視化できる「ブッキングカーブ」で予約の傾向を把握できている宿泊施設はそれほど多くなく、「なんとなく直前で減るのは感じているけど、具体的にどの程度の数減るかはわからない」という状態です。

となると、解決策は大きく2つ。

  1. ブッキングペースから減少傾向を数値化して把握する
  2. そもそも「減少しないようにする」

1. がRM的なアプローチです。「毎週水曜日は10室キャンセルが出る」「海外OTAからの予約が多いからいつもより多めにキャンセルが出る」と分かれば、それに応じた販売をすることで販売停止の頻度を減らせるのではないでしょうか。

また、そもそも減少しないようにすることはできないのでしょうか。

これも完全には難しいのでしょうが、今よりも少しでも減少する数を減らすことができれば状況は改善できるはずです。そのためには「キャンセル規定の見直し」と「キャンセル料を徴収する仕組み作り」が必要になってきます。

現在のキャンセル規定の主流は「2日前から」ですので、これを14日前からに前倒しできれば、3日程度前の直前キャンセルを減らせそうです。キャンセル規定も今の時代には合わなくなっています。


少しでも悪い方向に行くことを防ぎませんか

もちろん、これまで示した手法で予約管理を今より改善したとしても、「客室数不足」という大きな傾向は変えられないでしょう。

でも。

少しでもその流れを遅らせることが、宿泊業界にプラスなのではないでしょうか。



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