東洋大学国際地域学部・准教授の矢ヶ崎です。
2015年1~7月で1106万人の訪日外客を達成し、このままリスクイベントがなければ、年間で1900万人程度になるのではないかとの見通しです。
日本のインバウンド観光がここまでに成長した背景には、国内外の民間事業者の経営努力もありますが、それを支える訪日プロモーション事業や受入環境整備、そして訪日旅行のアクセスを確実にするための航空路線と座席供給量の拡充や外航クルーズの振興等を担当する行政の力も大きいのです。
しかしながら、行政は縁の下の力持ちのような役割でもありますので役所の名称は聞いたことがあっても、その実態は世の中にあまり知られていないのかもしれません。
2003年に訪日旅行促進事業(ビジットジャパン事業)が開始されてインバウンド観光が国策となって以来、多くの官公庁が観光振興に取り組んでいますが、今回は観光行政の司令塔として設置された観光庁についてみていきましょう。
観光庁は "ビジョン" を持つ組織 -「役所らしくない役所になるべき」などの期待
観光庁は、省庁再編(2001年1月)後はじめて設置された「庁」です。「従来の枠にとらわれない、いわゆる役所らしくない役所になるべき」などの期待が寄せられています。
新組織にふさわしい、新しい意識と組織文化を創造していくとの決意から、理念と行動憲章から成る「観光庁ビジョン」を策定、携帯用のカードに記して職員に配布されています。観光庁職員の合言葉は「開かれた観光庁」。「住んでよし、訪れてよしの国づくり」に取り組んでいます。みなさんも、観光庁職員に会う機会がありましたら、ビジョン・カードを携帯しているか聞いてみてください。
観光庁のはじまりは? -訪日1000万人、海外旅行2000万人など5つの目標で発足
観光庁は、2008年10月1日に発足しました。国の組織は法律の裏付けがあってできます。2006年12月に観光分野の憲法とも言うべき観光立国推進基本法が成立しました。この基本法は、当時では珍しく数値目標のある計画に基づいて5年間でPDCAサイクルをまわして改善していくことを規定したものです。
翌2007年6月に第1期の観光立国推進基本計画が閣議決定されました。第1期の目標は5つ。「インバウンド1000万人、アウトバウンド2000万人、旅行消費額30兆円、国内観光宿泊旅行一人あたり4泊、国際会議開催件数5割増」と数え歌のように覚えたものです。
もっとも、リーマンショックや東日本大震災、日本人の国内外旅行の実施率の低下等の影響で達成できたのは5つ目だけでしたが。基本法の精神、基本計画を通じて実体化していくための組織として2008年10月に観光庁が発足しました。
どんな組織なのか? -6課3参事官体制、それぞれのユニットで課題に取り組み
観光庁は国土交通省の外局です。外局というのは、国土交通省の中にある航空局、鉄道局、道路局等のような内局に対する言葉で、「庁」あるいは「委員会」の形態をとります。独立性や専門性が高い所掌事務を行います。
国土交通省には、観光庁のほかに海上保安庁や気象庁といった「庁」の外局があります。「庁」ですから、その組織のトップは「長官」で6課3参事官の体制のもと、以下の組織体制で観光行政に取り組んでいます。
課のトップは課長ですので民間と同じですが、参事官という言葉はあまり馴染みがないかもしれません。役所の組織は設置根拠法令に基づいており、観光庁も例外ではありません。課はこの法令に基づいて固定的に所掌事務を扱うユニットで、参事官はどちらかというとプロジェクトチームのように時機を得た課題に取り組む機動的なユニットであると考えていただいてもよいと思います。
観光庁において課長と参事官は同等ですが、観光産業振興を担当する観光産業課長はずっと同じ仕事を担当して行政の継続性を担保するのに対して、参事官は数年で担当の仕事が変わることがあります。
地方運輸局に「観光部」設置、独立した部署で地方の相談窓口に
2015年7月1日から、全国9つの地方運輸局に「観光部」が設置されました。
それまでは「企画観光部」でしたが、観光が独立した部署になりました。観光立国推進によって地方創生を実現させるため「2000万人の外国人旅行者を受け入れるための環境整備の促進」「広域観光周遊ルートの形成・発信」「観光旅行消費の一層の拡大に向けた免税店の増加と観光関連産業の拡大」等の業務を担当します。地域の方々にとっては、まず、最寄りの地方運輸局の観光部が相談窓口になります。
今回は、観光庁の成り立ちと特徴を概観していただきました。「開かれた観光庁」を目指す観光庁は、職員が若く、活気があって、いつも忙しい雰囲気です。何かわからないことやほしい情報の問い合わせ、あるいは相談事など、気軽にコンタクトしてみてください。観光分野においては、行政と民間の距離は思った以上に近いのです。
次回のコラムでは、観光庁の予算と人事の動きや、民間企業が新事業を提案すべきタイミングなどについて解説します。