注目高まる「ウーバー」にビジネス実態を聞いてきた、旅行業取得の理由からライドシェア実証実験まで

日本では、個人宅をシェアするいわゆる“民泊”で話題を集めているシェアリングエコノミー。世界ではすでに潮流となっている「ライドシェア」の概念で、日本でも注目されているのが交通サービス版の「ウーバー(Uber)」だ。

しかし、そのビジネスの実態と本質はいまだ広く理解が進んでいない。新しいビジネスモデルだけに、世界での動きと日本での展開が混同されていることも多い。では、実際のところウーバーとは何者なのか。そして、そのビジネスが目指すものは――?

ウーバーが交通にもたらす変革や日本でのビジネス展開をウーバー・ジャパン執行役員社長の橋正巳氏(写真)に聞いてきた。今回と次回の2回に分けて紹介する。


シンプルな発想でスタートしたプラットフォーム

ウーバーは2010年6月にトラビス・カラニック氏とギャレット・キャンプ氏によって米サンフランシスコで立ち上げられた。ビジネスの発想は単純。バリのイベントの後にタクシーがなかなか捕まらないという実際のシーンで、ふたりのポケットにあるスマートフォンで車が来てくれたらどんなに便利なことかと発想した二人の軽い会話に始まる。

プラットフォームはシンプルだ。運送を提供できる人とどこかに行きたい人の需給をマッチングさせること。まず試験的に友人など100名限定でやってみると、スマートフォンひとつであっと言う間に車が迎えに来るマジック的な要素が便利でクールだとウケ、その評判は口コミであっという間に広がった。

そして、この革新的なアイデアは投資家の関心を集め、多額の資金調達にも成功。設立から5年あまりで、63カ国340都市までにサービスを拡大させた。日本で正式にサービスが開始されたのは2014年3月からだ。

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ウーバーの仕組みとは? ―日本では旅行業も取得

現在、ウーバー・ジャパンが日本で提供しているのは、タクシーやハイヤーを配車するサービス。複数のタクシー会社やハイヤー会社と提携し、その供給と乗り手の需要をプラットフォームでマッチングさせる。日本では、C to Cに介在する本来的なシェアリングエコノミーではなく、B to Cビジネスの代理店的な役割でビジネスを展開している。

「現行法の枠組みの中ではオンデマンドでAからBまで運ぶのはいわゆるプチ旅行の扱い。旅行代理店でいうと、航空会社との提携で席を確保して商品を造成し、消費者に提供する立ち位置に近い」と髙橋氏は説明する。

このため、ウーバー・ジャパンは、第2種旅行業の登録をしているという。ハイヤーの場合は出庫から帰庫まで、タクシーの場合は迎車から目的地到着までをウーバーが契約し、利用者に提供するため、いわゆる手配旅行に当たる。「これは日本特有の事情。この手続きには本社でも驚きがあった」と髙橋氏は明かす。


スマホを使った簡潔さと迅速・透明なフィードバックが急成長のカギに

IMG_0671ウーバーのサービスが爆発的に伸びた理由のひとつがスマートフォンで簡単に利用できる点だ。利用者がアプリを開いた配車をオーダーすると、一番近い場所にいる空車のドライバーが応答し、マッチングが成立する。

その時点で利用者は車輌情報や過去の履歴や評価を含めたドライバー情報を知ることができ、一方ドライバーは利用者を乗せる前に目的地を把握することができるため、ピックアップした後はすぐに発車する。

支払いは、利用者があらかじめ登録しておいたクレジットカードから引き落し。到着後、車から降りるとすぐに領収書がeメールに届く。そこには詳細な乗車履歴も記載されているので、遠回りなど理不尽な請求が発生した場合でもウーバーが対応する態勢が整っている。

このサービスの特長は、ドライバーも利用者も双方向で乗車を評価する点。これは、airbnbでも取り入れている仕組みで、シェアリングエコノミー型サービスではカギとなるポイントだ。

髙橋氏は「個人と個人をつなぐサービスは概念としては新しくない。評判でつながる地域の共有やオンラインオークションもそうだろう。それが、テクノロジーの進歩で可視化され、データ化されたのが現在のシェアリングエコノミーのサービス」と説明し、「透明性の高いマッチングを行うことで、安心安全が担保される」と強調する。


ウーバーが生み出すものとは? -運行の効率性や評価によるモチベーション

国を問わずどこでも高品質のサービスが提供される

ウーバー・ジャパンが現在提供しているサービスは主に3つ。黒塗りハイヤーでラクジュアリーな移動が体験できる「UberBLACK」、プレミアムなタクシーで移動する「UberTAXILUX」、手軽にタクシーを利用する「UberTAXI」。

利用者に安く便利に、TPOに合わせて選べるサービスを提供する一方で、ドライバーやパートナー企業にとってもこの仕組はメリットが大きいようだ。

当たり前だが、タクシーやハイヤーは空車では利益を生み出さない。「ウーバーを利用することで、空いている車やドライバーを有効活用することができるため、乗車率や実車率を上げるとともに、新たな需要を創出する機会にもなっている」と高橋氏。さらに、利用者からの評価がドライバーのモチベーション向上や事業者の教育にもつながっているようだ。

ちなみに、東京のドライバーの平均評価は5点満点で4.55。これは世界でも低いほうだという。実際のサービスは世界で最高レベルだが、日本人利用者は完璧を求める傾向が強いため、求める満足度も高くなるようだ。車内の臭い、アクセルの踏み方、ブレーキのかけ方など細かい点での評価は、「まず海外では見られない」(髙橋氏)。


日本では前進しつつあるライドシェア -福岡の実証実験でみえたもの

ウーバーの基本コンセプトであるライドシェアでは、近頃、日本国内で動きがあったところだ。2015年10月20日に首相官邸で行われた国家戦略特別区域諮問会議で、訪日外国人観光客の利便性向上を目的とする規制緩和策として、安倍首相がマイカー利用の有料乗合い”ライドシェア”を「過疎地での観光客の交通手段として、自家用自動車の活用を拡大する」と言及。規制緩和に向けた本格的な検討が開始されることとなった。

ウーバー・ジャパンによると、訪日外国人のウーバーを介したタクシー利用は増加を続けており、現時点で東京のユーザーのうち約3割は外国人。2015年9月の単月では、東京でUberを利用した人は63カ国から構成されていたという。実際に規制緩和が行われるようになれば、需要も高いといえるだろう。

ウーバー・ジャパンは、今年2月に福岡市で登録した個人のドライバーと利用者をマッチングさせるライドシェアの実証試験を実施している。しかし、「道路運送法」に抵触する可能性があるとして行政指導が入った。

この取り組みは、「産学連携機構九州」と連携で福岡市の交通状況のデータ収集とライドシェアに対する反応を把握するために行われたもの。実証試験のため利用料は無料だが、ドライバーにはデータ提供料として対価が支払われたことが、いわゆる「白タク」として判断された。

国の規制改革会議の議論のなかで、国土交通省はマイカーを用いた旅客運送について、ドライバーの運行管理、車輌の整備・点検、事故発生時の補償の問題など輸送の安全確保の観点から適切ではないとの立場を取っている。海外での業務停止命令の例も影響している。

福岡市での野心的な実証は頓挫したが、この取り組みに参加したドライバー、利用者の評価は高かったという。無料ということもあったが、その平均点は4.85。ドライバーからは「自分の好きな時間にできる」「普段行かない所に行けた」などの反応があり、利用者からは「地元の人との会話が楽しかった」といった意見も多かったという。髙橋氏は「キーワードとなるのは体験だろう。個人が工夫するC to Cでは、これまでにないおもてなしが生まれる。それが醍醐味」と話し、シェアリングエコノミーの未来に期待を示した。

次回の記事では、髙橋氏に聞いた日本でのシェアリングエコノミー普及、訪日旅行での活用について紹介する。

聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫


記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹

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