外務省の海外安全情報、「レベル2」発出時に旅行会社のとるべき対応は? JATA改訂ガイドラインとおさえておきたいポイント

2015年9月1日に変更となった、外務省の「海外安全情報」。これに伴い、日本旅行業協会(JATA)はガイドラインを改訂した。この動きについて、ツーリズムEXPOジャパン2015では講師に外務省の領事局海外邦人安全課法人援護官の伯耆田修氏を迎え、「今の時代に求められる安心安全への取り組み」と題したセミナーを開催。JATA海外旅行推進部・担当副部長の村井秀彰氏は冒頭、「『なぜ変わったのか、何が変わったのか、これからどうなるか』の3つのポイントに注目してほしい」と述べ、セミナーをスタートさせた。

*編集部注:このセミナーは2015年9月25日のツーリズムEXPO(旅行業界・プレス日)に実施されたもの。海外情勢は、9月のセミナー当日以前の状況で語られており、11月に発生したパリの同時多発テロは含まれていない。


テロのターゲットが観光客にも、先進国でリスク高まる

外務省の伯耆田氏

外務省の伯耆田氏は在外公館業務について、「以前は犯罪が起きた場合に援助する役割が中心だったが、予防策に重きを置くようになっている」と、方向性の変化を説明する。

その理由は、イスラム過激派組織などによるテロ事件が、2014年6月のケニア東部沿岸部ホテルの襲撃事件を皮切りに、ホテルや商業・観光地などで発生し、ターゲットが観光客に移行していること。特に、2015年1、2月のシリア邦人殺害テロ事件に見られるように「今までは事件に巻き込まれることが多かったが、この数年は日本人も標的になっている」と指摘する。

さらに、パリ(2015年1月:連続テロ事件)やシドニー(2014年12月:人質立てこもり事件)など、先進国でもテロが発生するようになった。IS戦闘員にはフランス出身者1200人、英国600人、ロシア1700人などがいると言われており、今後も、「母国に戻っても活動する可能性が高い。どこでもテロが起こりうる」と、この1年でテロの性格が変わっていることを強調する。

また、海外での日本人援護件数を事件別(2013年)にみると、旅行者は「窃盗被害」とスリ、置き引きなどの「遺失・取得物」が約半数を占める。その手口は年々巧妙化しており、現行犯で取り押さえられることが難しい。

特にスリ、置き引きなどは5、6人のグループによる犯行となっており、一人が子供を転ばしたり、肩をたたいて振り向かせたり、時間を聞くなどして旅行者の注意を引いているうちに、別の仲間が財布を抜き、さらにほかのメンバーに渡して現場を立ち去る。被害者が気づいた時には犯行が終わっている。こうしたことから、「どう予防するか、被害を未然に防ぐことができるか」の体制に移行しているのだという。


情報発信・安否確認を強化、旅行会社への協力要請も

今回の外務省・渡航情報の変更も、この方向性を意識したもの。「渡航情報」の名称を「海外安全情報」と改め、カテゴリの表記(言い回し)を変更。「検討してください」「お勧めします」から「止めてください」に変えた。「従来は各自が判断するための“参考程度”としての表現だった。それをわかりやすい表現にすべきとし、より直接的な表現を使用した」と説明する。

さらに、新たに「感染症危険情報」で、「海外安全情報」と同様の4段階のカテゴリ分けを行なった。これについて伯耆田氏は、「ポイントはレベル1と2との区別」と説明。「レベル3以上は非常にレアケース。渡航を認めないことは外交や経済的な影響が大きいため、回避しようと動く」と運用の見通しを語った。

このほか、在外公館の情報発信や在留邦人への一斉メール通報システムに加えて、2014年7月には「在留届」の提出対象でない短期渡航者向けに「たびレジ」を開始。2015年3月にはSMSによる一斉通知・安否確認を開始した。緊急事案の発生時に関連情報を一斉配信し、受信側のメール返信によって安否確認をできるようにしたもので、現在は10か国1地域で展開。今年度の予算増加を要望しており、順次拡大していくという。

以上を踏まえ、旅行会社にも被害を未然に防ぐための協力を要請。旅行者に対し、海外安全ホームページや在外公館のホームページの確認、「たびレジ」の登録、海外旅行保険の加入、渡航先の主要な犯罪手口などの周知を呼びかけている。外務省では旅行会社が配布できるような、海外旅行のトラブル回避マニュアル「海外安全虎の巻」や情報閲覧を促すチラシを作成している。


旅行会社が押さえておくべきポイントとは

JATAの村井氏

続いてJATAの村井氏が、危険情報の表現の変更で旅行会社がとらえておくべきポイントと、JATAの改訂ガイドライン(企画旅行の実施における外務省海外安全情報への対応と考え方)について説明。

まず、危険情報の変更については表現ぶりのみであり、カテゴリ分けは従来通りであることを強調。その上で、海外安全情報ホームページで、危険情報について説明するページ「危険情報とは?」のリンクが分かりやすい表示に改善されたことを説明した。

さらにこのページ内には、新たに「危険情報の発出対策と安全対策」として、発出対象に対する考え方が示されるようになった。「旅行会社が安全を講じている企画旅行と、機関や企業による派遣事業との間でも渡航すべきか否かの判断が異なることが想定される」ことも示しており、これは旅行会社の要望として働きかけて実現したことだという。

加えて、「危険情報が出ても自動的に旅行会社の企画旅行が中止になることはない」ことも見出しに打ち出し、その考え方を明示。文章の最後には、「旅行業界では観光庁の指導の下で旅行安全マネジメントを推進しており、JATAでは海外旅行の安心安全な実施のためのガイドラインを策定している」ことも記載されており、村井氏は「JATA会員の旅行会社が安心安全を念頭に旅行を企画していることを示唆するもの」として、海外安全情報のホームページにこの記述がされる重要性を強調した。


レベル2にしっかり対応するために

一方、改訂ガイドラインについては変更・追加した部分として、次の4つのポイントをあげた。


  1. 危険情報の発出有無にかかわらず、外務省海外安全情報のURLを記載した書面を交付し、旅行契約者にはたびレジ登録の案内をする
  2. 旅行契約者には安全確保の一環として、現地における緊急連絡先を明示する
  3. レベル2における安全対策とその説明(対応例)
  4. 手配旅行における取扱いの考え方の明示

このうち、3.では、旅行を実施する場合、契約前の時点で実施に至る十分な安全確保の対応を講じている旨を、情報収集や日程調整などの対応例などで説明するよう規定。4.では、レベル4は手配しない、レベル3は業務渡航などやむを得ない場合に限定するという点に以前からの変更はないものの、新たに「手配旅行とはいえ、退避勧告が出ている地域の取り扱いを受けるべきではないというのがJATAの考え方」との説明を加えた。

村井氏は、改訂ガイドラインについても大きな変更点はないと説明した上で、「変更点は安心安全の取り組みを強める観点で行なった。なぜ変わったのかに注目し、接客するスタッフの意識を高め、行動に根付かせてほしい」と、考え方に対する理解と共有を促した。

特に危険情報のレベル2の表現が強まったことに対し、お客様から「止めてくださいとなっているのになぜ実施するのか」など、発言力が強まることが予想されると言及。その時の対応には考え方への理解が重要になるとする。

なお、セミナーではこのほか、JATAが推進する旅行安全マネジメントも危機の予防のために行なうものであることを説明。海外旅行の環境が変化し、不安定な状態にあるなか、安心・安全への揺るぎない取り組みが信頼、マーケットの支持を得るポイントであると強調し、経営トップから現場までの全社を挙げた取り組みを強めることを促した。

取材:山田紀子(旅行業界記者)


みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…