Airbnb(エアビーアンドビー)がメディア向けに開催した「Airbnbユーザーコミュニティーが日本に与える経済波及効果調査発表会」。そこでは、Airbnbアジア太平洋公共政策ディレクターのマイク・オーギール氏が「Airbnbは、観光、地域、個人それぞれに大きな経済効果を生み出している」と自信をみせた。
訪日旅行者が急増し、宿泊施設の不足が指摘されるなか、いわゆる「民泊」の注目が高まっている。Airbnbが試算した日本への経済波及効果はどれくらいになるのだろうか?その内容をまとめてみた。
日本は「世界一早いスピードで成長している」
現在のAirbnbのリスティング(物件)は世界190カ国3万4000都市で200万件以上。ユーザー数は延べ6000万人に達し、2015年夏だけでみるとその数は1700万人、過去5年で353倍に増えたという。そのうち2014年7月〜2015年6月の1年間で日本の物件に滞在したゲストは前年比529%増の52万5,000人。比較の実数がまだ少ないため、倍数は大きくなっているが、Airbnb Japan代表取締役の田邉泰之氏は「世界一のスピードで成長している」と自信を示す。訪日旅行者数の急増に合わせて、Airbnbも成長している形だ。
また、日本のリスティングも確実に増えており、現在のところ2万1000件。前年比で373%の増加となっているという。
一方、日本在住でAirbnbを利用した人数は約9万6000人。そのうち、海外旅行は66%、国内旅行は34%だった。
ゲストが日本に落とした直接消費は866億円に
Airbnbでは、こうした年間データをもとに直接・間接・誘発効果を含め、日本でホスト収入と旅行者の消費がもたらした経済波及効果は総額2219.9億円にのぼると試算。そのうち、日本在住ホストのホスティング収入は88億円、日本にゲストが落とした直接消費は866億円になるとした。オーギール氏は「Airbnbは人と人を結びつける。それによって生み出される経済効果は大きい」と話す。また、訪日外国人ゲスト1人滞在1回あたりの消費総額は16万9600円。滞在1回の平均宿泊日数は3.8日。オーギール氏は「Airbnbに泊まるゲストは平均より長く泊まり、消費も多い。また、ローカル体験を求めるリピーターも多い」と話し、観光産業にもたらす経済効果を強調した。
ゲストの旅行先では東京が最も多く全体の47%、次いで大阪23%、京都15%となり、訪日外国人の旅行傾向と合致するが、ローカル体験を打ち出し、地方への経済波及効果をうたうAirbnbの思惑とは少し離れている様子だ。調査によると、観光ルートから外れた町や村を訪れることに関心が高い傾向があるというが、それを実際の送客に結びつけるところに課題が見えてくる。
一方、全体の雇用波及効果は2万1800人。ホスト側への波及効果として、Airbnbでは毎月約10泊受け入れると、年間平均95万7000円の副収入があるとしている。その使い道は、家賃・住宅ローン、生活費、小遣い、貯金、旅行などさまざまだが、収入を得る個人事業主として納税の義務が発生するケースも考えられる。その定義と仕組みについては、国の議論が待たれるところだ。
日本のAirbnb、最大マーケットは中国
オーギール氏は日本人ホスト5030人の属性についても説明。世帯年収別で最も多いのは年収737万円以上で全体の40%、次いで504万円から737万円で15%。244万円未満でも12%を占め、幅広い所得層にホストが広がっている。
ホストの職種で最も多いのはアート、デザイン、クリエイティブ関係で16%。ITが12%、レジャーや観光接客業が11%と続く。
ホストの平均年齢は37歳だが、対2014年7月比で最も伸び率が高かったのは60歳以上だという。
一方、Airbnbを利用する訪日旅行者の属性については、平均年齢が35歳で男女半々。オーギール氏は「いわゆるバッグパッカーのような年代のゲストは多くない」と補足する。目的では86%が休暇・レジャーと圧倒的。職種ではアート、デザイン、クリエイティブ関係と教育・医療サービスがそれぞれ14%、ITが12%となっている。
また、日本のAirbnbを利用するゲストの54%がアジアからで、そのうち最も多いのが中国の19%。次いでシンガポールが8%、韓国が7%となり、訪日市場全体の傾向を表した結果となっている。
日本全体の直接効果は、ニューヨークと同レベル
同発表会では、早稲田大学ビジネススクール・ディレクターの根来龍之教授も登壇。「余っている資産と事業をマッチングさせるシェアリングエコノミーは、マクロ的に経済性を向上させる効果がある」と話す。
根来教授は、Airbnbから提供されたデータをもとに、経済効果の中身を分析。それによると、日本全国の経済波及効果は2219.9億円にのぼり、そのうち地域内に誘発された生産および雇用の効果となる直接効果は1007.5億円、直接効果にともなう原材料などの投入によって、地域内の各産業に発生した効果となる間接一次効果は651.5億円、個人消費の増加が誘発する各産業への効果となる間接二次効果は560.9億円と算出した。
このうち、直接効果についてはニューヨークの直接効果9.15億米ドルとほぼ同じになることから、「まだ日本は一都市並みの水準。今後、さらに拡大する伸び代はある」とした。
そのうえで、宿泊施設が不足している日本では、訪日市場での民泊による経済効果は大きく、Airbnbのホスト収入とゲストの消費は年1,000億円程度、その二次的波及効果もほぼ同程度見込まれると予測した。
需給ギャップで真水効果
根来教授は「C2Cの個人間取引の重要なポイントは、今ある資産や能力を活用すること。新たな投資をする必要がないため、生産性が向上し、国民所得が増える」と説明する。
さらに、宿泊施設の供給が足りていれば、Airbnbの需要が増えても、既存の宿泊施設の需要が減り、全体の経済効果は相殺されてしまうが、「需給ギャップがある場合、真水の増加効果がある」とした。
ただ、直接的雇用誘発効果については、過大に算出されている可能性があると指摘。その理由として、「シェアリングエコノミーのビジネスモデルでは、使われていない個人の資産や能力の活用であって、新たな雇用を創出する機会には必ずしもなっていない」点を挙げた。
また、リスティングの低価格設定については、「価格を下げても、リピート、宿泊日数の長期化、観光消費が伸びることで、経済効果も上がる」とし、「それが実際に起こっている」と付け加えた。
記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹