中国最大オンライン旅行会社の日本トップが語る、「訪日旅行の人気、その3つの理由」

梁穎希(レオ・リャン)氏

中国最大オンライン旅行会社(OTA)の日本法人・シートリップ・ジャパンは、訪日中国人市場の拡大にあわせて、日本でのビジネスを拡大させている。その立ち上げから日本市場を見てきた同社社長の梁穎希(レオ・リャン)氏は、訪日旅行者数の「2000万人という目標は低すぎる」と指摘する。

年間1億人もの中国人が海外旅行を楽しむようになった時代、中国からみた観光デスティネーションとしての日本の力はどれほどなのか? 梁氏に、いろいろ聞いてみた。


訪日中国人旅行者の拡大は続くのか?

中国人の人気海外旅行先は、タイと韓国が長年にわたってトップ2を占めてきた。韓国へは年間500万人以上、ピーク時には700万人を超えていたという。そんな中、訪日旅行のブームが始まり、2013年後半からは拡大の一途。2014年は240万人、2015年は500万人近くにまで急増した。こうした拡大はいつまで続くのだろうか?

梁氏は、今後も安定的に訪日中国人旅行者は増加していくと見込んでいる。だたし、2015年は中東呼吸器症候群(MERS)の影響で、韓国への需要が日本に流れた側面がある。そうしたことから、「2016年はその反動によってあまり大きな伸びにはならないのではないか」と予測している。

参考>>> 【図解】訪日外国人旅行者数、2015年までの10年間推移を比較してみた ―中国・韓国・台湾・香港の部

では、なぜ中国人旅行者は日本を目指すのか?

梁氏は、「日本は選択しやすいデスティネーション」として、その理由を3つ提示した。ひとつ目は、日中間の航空路線の拡大だ。LCCも含め、主要都市間だけでなく、地方への路線も拡大してことが、中国人にとって日本はさらに身近な存在になったという。

2つ目が多様な観光資源。「日本は、北海道から沖縄まで南北に長く、自然、文化、歴史的な多様性に溢れている。アニメ、ファッション、食などの素材も多彩。こういう国は観光でも人気」と話す。

日本では中国人の「爆買い」に注目が集まるが、それは旅の中の一風景に過ぎず、ほかの国からの訪日客と同様にさまざまな現地体験を楽しみにしている。

梁氏が3つ目に挙げたのは、日本政府の観光立国に向けた取り組み。中国市場に向けたプロモーションで日本の露出も増え、観光国としての日本の認識も高まったと評価する。

「Ctrip」日本語サイト

訪日外国人数4000~5000万人の潜在力、鍵は中国

大幅に増加したとはいえ、中国という巨大旅行市場に占める日本のシェアは、まだまだ低い。

梁氏は、「中国には先進国水準の富裕層が約3000万人、中間層が約1億人いる」と話す。途上国水準の中間層は4~6億人と推計されているといい、経済力だけを見ると、日本に来ることができる潜在需要は約4億人にのぼるという。2015年の訪日中国人500万人のうち、レジャー目的は約400万人と見られており、潜在需要の1%ほどにしか過ぎない。

香港とマカオを含む中国人海外旅行者は、毎年3000万人ペースで増加しており、2015年は約1億900万人に達した。実数で見ても、日本を訪れている中国人はまだ全体の4%強ほどだ。

梁氏は、日本が掲げる訪日外国人数2000万人あるいは3000万人の目標は「低すぎる」と語る。2014年、パリには8600万人、ロンドンには3500万人の外国人が訪れた。東京一都市だけを見ても、世界主要都市に負けない観光的な魅力を持っているのにもかかわらず、訪問者数でははるかに後塵を拝している。

そのうえで、梁氏は「日本は2020年までに4000万から5000万を受け入れるポテンシャルはある」と主張。受け入れ問題は別として、「この数字に達するためには、半数が中国人になる必要がある」との見方を示す。


中国人にとって日本は、日本人にとってのハワイに?

「日本を訪れた中国人の99.9%が日本を好きになる」と梁氏。最近の市場傾向として、シートリップの利用者でもリピーターが増えているという。さらに個人旅行化が進むと同時に、アニメ、食などしっかりした目的を持った観光客が増えてきている。「たとえば、車好きの私の友人は、東京モーターショーのために来日した」と例を挙げる。今後さらにリピーターが増えれば、「中国人にとって日本は、日本人にとってのハワイのような存在になるのではないか」と期待も大きい。

旅行先については、「今後ゴールデンルートから地方へ伸びていくのは間違いない」と見る。梁氏によると、1980年代初頭から日本への旅行者が増えた台湾では、地方への旅行者拡散に15年ほどかかったという。しかし、中国マーケットの場合はもっと早く、5年くらいで地方旅行が当たり前になるとみている。

「モバイルで簡単に情報収集が可能で、予約もできるようになっているなか、FIT化がさらに進めば、その傾向は強まるだろう」との見立てだ。

梁穎希(レオ・リャン)氏

地方のプロモーションに苦言、広域連携を提案

順風満帆に見える訪日中国人市場だが、梁氏は今後を見据え課題も指摘。日本政府観光局(JNTO)の活動を評価しつつも、地方のプロモーションに首を傾げる。「これまでの国内PRの延長線上で海外向けに発信をしている。日本のスタイルを持ちながら、相手に合わせる必要がある」と話す。

例えば、九州の観光を中国市場向けにプロモーションする場合。"九州" を売り込むことは効果的でないという。「わたしの友人は家族旅行で福岡に行ったことがあるが、驚くべきことにそこが九州だとは知らなかった」と実例を出し、「その理由を考えて欲しい」と訴える。

日本人は、誰でも九州という土地をよく知っているが、中国人や外国人にとっては漠然としすぎているようだ。

「日本人がラスベガスに行ったときに、ネバダ州に行ったとは言わない。上海や北京は知っているが、それがどこの省にあるかを知っている日本人少ない」ことと同じ。そのうえで、梁氏は「九州という概念は外国人にとっては広すぎる。まず代表的な町に焦点を当ててPRすべき」と提案する。

また、地方の観光行政にも疑問を呈し、「狭い地域に自治体によっていくつも観光振興策があり、提案をしても、なかなかひとつにまとまらないのが残念」と訴える。観光地域づくりを実現するための調整機能であるDMO (Destination Management Organization)の欠如は、日本全国の課題。それは、地域の「稼ぐ力」を養うためだけではなく、その前段となる外国人旅行者誘致でも必要になってくる。

今回の記事はここまで。訪日市場の拡大には、中国人旅行者の安定的な増加は欠かせない。逆に言うと、中国がくしゃみをすれば、日本が風邪をひきかねない。それだけに、中国最大のOTAシートリップは、訪日市場でカギを握る存在になると言えるかもしれない。

次回の記事は、梁氏に聞いたシートリップの日本での事業展開についてを紹介する。

聞き手 トラベルボイス編集部 山岡薫

記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹


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