農林中央金庫(JAバンク)とABCクッキングスタジオ、リクルートライフスタイル、農協観光の4社は、「食」と「農」を基盤とした地方創生への取り組みで包括パートナーシップ協定を締結した。農山漁村でのグリーンツーリズムで訪日旅行と国内旅行を呼び込み、交流人口の増加による地域活性化と日本食の魅力発信による農産漁業品の海外輸出を推進するのが目的。
グリーンツーリズムの実績の長い農協観光と、「じゃらんnet」等の販売体制や「地方創生プログラム」を有するリクルート、国内外の教室展開と多数の会員を有するABCクッキングスタジオがそれぞれのノウハウを生かし、農林中央金庫が全体的なサポートを行なう。農林中央金庫が観光分野でこのような取り組みを行なうのは、今回が初めてだという。
農林中央金庫・常務理事の山田秀顕氏によると、グリーンツーリズムに対しては政府が2020年度までに体験者数1300万人とする目標を掲げており、2014年度には1027万人と順調に増加。都市住民の農山漁村への関心も高まっていることも、各種調査で判明している。また、インバウンドの訪問先は一部地域に集中しているが、訪日外国人への消費動向調査では「次回にしたいこと」の希望で「自然体験ツアー・農漁村体験」が約3倍に増加しているとし、「ニーズがある」と強調した。
具体的な取り組みとしては、農協観光は地域に根差した農業・農村生活体験プログラムの企画を担当。従来、教育旅行が主流だったグリーンツーリズムで、国内FITや訪日客向けのパッケージツアーを造成する。特にインバウンドでは2016年度から首都圏と近畿圏で主要国際空港を起点とする広域の周遊型モデル地域を選定。3か年で7か所程度まで順次拡大していく。あわせて3泊4日程度のモニターツアーも企画する。
この際、プログラムにはJA直売所の「ファーマーズ・マーケット」や、リクルートの「遊び体験予約」の現地体験、調理体験としてABCクッキングスタジオの教室などを組み込む。また、受入整備のため、人材育成を目的とした研修会も開催する予定だ。代表取締役社長の藤本隆明氏によると、同社が取り扱った訪日旅行でも、次回は地方での農村体験を希望する旅行者が多いという。
リクルートライフスタイルは、地方自治体や観光協会、各地で動きが強まっているDMOの準備室、宿泊施設や観光施設などの地域事業者などに対し、じゃらんnetによる誘客提案やホットペッパーグルメ、ポンパレモールなどのリクルートの経済圏との連動、位置情報調査やマーケティング調査等の各種観光調査を活用し、地域における観光消費の創出を図っていく。
すでに三重県・伊勢市や宮城県・気仙沼市などで「地方創生プログラム」を展開しているが、今回の連携では参画各社の協力を得ながら農家や生産者とも連携し、農家民宿や体験プランなども作成する考え。執行役員の宮本賢一郎氏は「グリーンツーリズムの展開で、広域の周遊プランを生み出すことにもチャレンジしたい」と、じゃらんとして新たな取り組みへの意欲も語った。
異業種連携で「実体験による感動のプロセス」が実現
ABCクッキングスタジオは、国内135店舗・延べ101万人の会員と海外16店舗・3.5万人の会員をプラットフォームとして活用。日本食材を美味しく味わうためのレシピを開発し、食材や文化の価値を発信していく。また、各地の教室でグリーンツーリズムのプログラムとして調理体験や試食会などを開催するほか、日本好きが多く、発信力のある海外会員を訪日ツアーのモニターとして招聘する。
しかし、代表取締役社長の櫻井稚子氏が最も強調していたのは、今回の連携によって実現する「体験」や「感動」の重要性。「食材や調理法の情報だけでは魅力を伝えきれない。自分の手で触れて味わい、感動までして真のファン化に繋がる」と述べ、「今回の連携で新しいレッスンの形を見出せる」と期待を示す。
特に、「この感動のプロセスでは人の介在が最も大切」とし、生産者や、訪問先での講師となる地域の生活者との人的交流が起こったときに、新しい体験や情報の深みが増すという。櫻井氏は「一連のプログラムを通じて日本食のファンが増えれば、帰国後に自宅でレシピを再現する。日本食材の定期購入に繋がれば海外輸出を後押しするきっかけになる」とも述べ、ツーリズムと食材の輸出推進との関わりも説明した。
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