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AI活用ツーリズム時代に起きることは? パッケージツアーやOTAの終焉など、5つのテーマで未来の姿を考えた【外電コラム】

AI(人工知能)やAGI(汎用人工知能)の普及に伴い、2030年以降のツーリズムはどのように変わっていくのだろうか。その将来像に関わるテーマが、次第に明らかになってきた。

これから予想される、次の5つのテーマについて、まだ不確実な“既知の未知”も含めてツーリズムの未来を考えてみたい。

  1. ウェブブラウザの終焉(旅行eコマースにおいて)
  2. パッケージツアーの終焉
  3. ツアーガイドの終焉
  4. ツアーバスの終焉
  5. 現行のOTA(予約テック、ツアー事業の産業構造を含む)の終焉

2024年現在、我々が手にしているAI技術は、こうした産業構造の変化を起こすのに充分なレベルに達しており、基本的に、これ以上の技術進化は不要という段階まで来ている。とはいえ、チャットGPTなどの大規模言語モデル(LLM)はあくまでベースとなるテクノロジーであり、AIの可能性を存分に活かす起業家が現れるまで、もう少し、猶予はありそうだ。

どのぐらいの時間が残されているのかは、既存のAIや間もなく完成予定の新機能を使い、現行の価格コストやスピードで新商品やサービスを作るのに、あと何年、あるいは何カ月かかるのかによる。

しかし、AIができることはどんどん増えて、稼働スピードも高速化するだろう。前述した5つのテーマが現実となるタイミングは、今の想定より早まることはあっても、遅くなることはないと思う。以下に項目ごとに詳述する。

1. 旅行eコマースにおけるウェブブラウザの終焉

予測

将来、消費者の代理人であるAIエージェントが、サプライヤーの代理人であるAIエージェントと会話し、商品を選び、価格を交渉し、最終的に予約や購入を決めるようになるだろう。この間、双方ともに人間がウェブブラウザを使う場面はない。

AIエージェント間でのやりとりで、人間にも読めるウェブサイトを使うことはあり得るが、少なくともAIエージェントたちにとって、人間用ウェブサイトは無用だ。

エビデンス1

ジェレミア・オウヤン氏の投稿(Xより引用)

※出典:https://x.com/jowyang/status/1798729850792059152

エビデンス2

論文「AnyTool: Self-Reflective, Hierarchical Agents for Large-Scale API Calls(多数のAPIを使って要求に応える、自己反省型・階層型 エージェントツール”AnyTool”)」

※出典:コーネル大学コンピューターサイエンス専攻学生の研究事例

このツールは、AIエージェントという概念を具現化した初期の優れた事例だ。世界最大級の開発者用APIマーケットプレイス「Rapid API」に公開されている1万6000以上のAPIの中から、ユーザーの問題解決に役立つものを選び出して使う。

具体的に想定される動き

私が実際にAutoura社のAIプラットフォーム用に書いたコードはこうだ。

まず、オープンAIに対し「ある地域の、その時点での天気が知りたい場合、このツールを使う」と指示。次に、このリクエストをAIから受信し、天気情報を返信するコードのエンドポイントを作る。これにより、AIがライブデータ(日付、価格、在庫数など)にアクセスできるようになり、ハルシネーション(AIによる誤った情報生成)防止になる。AIは、質問の内容やその時々のタイミングに応じて、最適なツールを選び出す。

当社ではこれまでにAIツールを14本ほど開発したが、多いところでは100ぐらい保有しているAIプラットフォームもある。

著者が実際に作成したコード

前述のAnyToolに関する論文は、一般公開されている第三者のAPIを呼び出すというモデルを説明している点でとても興味深い。

具体的な例を考えてみよう。

旅行サプライヤーのウェブサイトが1000あり、すべてのテキストや各種機能を読み取るためには、5種類のAIツールが必要だとする。その場合、AIエージェントは各ウェブサイトから、最適なデータやサービスを呼び出すことができる。つまり、各サイトが、それぞれ5つのツールを用意する必要はない。

あるサプライヤーのサイトでは、縦長サイズの動画で観光地を紹介しており、別のサイトには軍隊の武勇伝が、また別のサイトにはパリの観光情報がある。これをもとに、AIエージェントが作り出すのは、パリ旅行の縦長サイズ動画とエッフェル塔の営業時間、チケット情報といった具合だ。必要に応じて、AIエージェントがサプライヤーのサイトに適したツールを呼び出し、これを組み合わせて消費者に届ける。

こうした手法により、AI時代にふさわしい、分散型の産業構造を実現できる。面白くなってきた。このアイデアに出資したい方もいるのではないだろうか?

既知の未知

2. パッケージツアーの終焉

予測

AIによる旅行プランニングは、各人向けにパーソナライズされたオンデマンドの体験作りを普及させるだろう。事前に旅程が決まっているツアーと旅客をマッチングする流通に代わり、申し込んだ顧客の好みや選択をもとに、その人のための旅行商品を組み立てるようになる。

エビデンス

グーグル、トリップアドバイザー、他にも数多くのOTAやスタートアップが旅行プランニング・ツール作りに取り組んでいる。圧倒的な支持を得ているソリューションはまだないが、いずれ誰かが突破口を開くだろう。旅程が決まったら、次はAIによるエクスペリエンス設計だ。

既知の未知

3. ツアーガイドの終焉

予測

AIツアーガイドは、一般向けツアーの催行に適しており、観光目的ではないレジャーにも大きな影響力がある。ただし、AI化が100%進むことはない。人間のツアーガイドの方がふさわしい場もあるので、人間のガイドが消えるというシナリオは描いていない。

前述した「パッケージツアーの終焉」とも関連するが、複数の個人がシェアするパッケージツアーから、個人向けにパーソナライズされたツアーへの転換が進むためには、AIツアーガイドの実用化により、一般向け商品でも採算がとれる形になることが欠かせない。

デビデンス

私がAIツアーガイド開発に着手してから4年になる。非常に困難な道のりで、ようやく初の一般向け商品化が見えてきたところだが、いずれ当社か、他の誰かが実現することは間違いない。AIツアーガイドの時代は確実にやってくる。

既知の未知

4. ツアーバスの終焉

予測

ロボタクシーや個人所有の自動運転車(1日ハイヤーも可能)がツアーバスに取って代わるだろう。

エビデンス

ウェイモ(アルファベット/グーグル系)は1週当たり5万回のツアーを走行可能。百度(バイドゥー)のアプロは同83万9000回(2023年第4四半期の発表)。

自動運転車両はすでに実用化され、事業規模は拡大している。

既知の未知

5. OTA>予約テック>ツアー事業構造の終焉

予測

私は、新しく3つの層で構成された産業構造になると予測している。

エビデンス

このエビデンスは、まだ見当たらない。

しかし最も重要な問題は、既存のOTA(旅行テックやツアー事業を含む)のビジネスモデルでは、自動運転車両やAIツアーガイドをうまく活用できないという懸念だ。私がそう考える理由は4つある。

私が抱いている大きな疑問

この他にも、色々な疑問を感じているので、以下に挙げてみた。

異論も含め、興味をお持ちの方とはぜひ意見交換をしてみたい。

※編集部注:この記事は、英デジタル観光・旅行分野のニュースメディア「DestinationCTO」から届いた英文記事を、同社との正規提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

※オリジナル記事:5 big themes for the AI tourism era after 2030

著者:アレックス・ベインブリッジ(DestinationCTO 創設者/Autoura CEO)