訪日外国人、2030年目標は黄信号、2240万人を予測 -旅行動向シンポジウム

変化する訪日旅行市場、誘客競争激化で急がれる「変化」

公益財団法人日本交通公社(JTBF)は2013年12月19日に開催した第23回旅行動向シンポジウムで、2015年の訪日外客数は1140万人、2030年には2440万人との見通しを発表した。主任研究員の相澤美穂子氏はこれまでの訪日旅行市場の推移とアジア地域の成長予測データを紹介しながら、今後を展望。さらに、「インバウンドの奪い合いが起こっている」と指摘し、日本の存在感を高めて外客を獲得していくためのポイントも語った。

▼10年で倍増した訪日外国人

震災後の変化、アジア域内の誘致合戦で警鐘

JTBF主任研究員の相澤美穂子氏

訪日外客数は、ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)がスタートした2003年の年間521万人から、今年の1000万人達成で、10年で倍増したことになる。これは、東アジアの経済成長と日本のビザ施策が訪日市場を牽引してきたものだ。しかし、相澤氏は東日本大震災後、東アジア(中国・韓国)が停滞し、東南アジアが急成長したという変化を示す。

通常の観光危機ではショートホールから回復するが、東日本大震災では中国・韓国の動きが悪く、全体の回復の遅れにつながった。しかも、その後の関係悪化で、両国はまだ完全に戻っていない。一方の東南アジアは成長著しい経済と日本政府の航空およびビザ緩和策により、好調に推移。その結果、2012年の訪日外客数に占める中国・韓国のシェアは19%に低下した。

さらに相澤氏は、アジア域内でのインバウンド誘致合戦がおこっていることを説明。韓国や台湾ではビザ緩和策を積極化しており、特に韓国は2012年に日本をわずかに上回るまでに成長した。相澤氏は、旅行先としての日本の存在感の低下に警鐘を鳴らした。根拠として示された数値は以下のとおり。


<震災後の東アジアと東南アジア動向>

  • 訪日外客数に占める中国・韓国の割合は2010年の28%から12年は19%に縮小
  • 2013年の東南アジアの成長:タイ103%増、マレーシア53%増、インドネシア72%増など(2010年比)
  • ASEANのGDP成長率は6.2%。世界平均は3.2%、先進国は1.5%

<韓国 vs 日本のインバウンド>

  • 2010年:日本は617万1000人、韓国は449万8000人
  • 2012年:日本は631万6000人、韓国は632万6000人
  • 特に中国人客で明暗。日本は12年に142万5000人(10年比0.8%増)、韓国は260万8000人(同60.1%増)

▼個人旅行化で急がれるニーズへの対応

今後は「大都市+地方」がカギに

旅行内容も震災を境に変化している。それは、個人旅行(FIT)化とリピーターの増加だ。特に中国では2013年10月の旅遊法施行の影響でツアー価格が上昇し、FITへのシフトが起こっているという。

FITとリピーターのニーズが高まっているのが、「地方への訪問」。リピーター率の高い台湾人客への調査で、訪日回数と地方への訪問率は比例し、訪問意欲も高まる結果となった。相澤氏は日本の存在感を高めるためにも「南北に広く、四季の豊かな魅力のアピールと、地方の観光資源の活用が不可欠」と訴え、「『大都市+地方』の訴求が、分散化と地方を売り込む第一歩になる」と提言した。

その好事例として、びゅうトラベルサービスが台湾の旅行会社6社と提携販売した、ガーラ湯沢スキー場でのスキー・雪遊び商品を紹介。「東京+雪遊び」をコンセプトにしたもので、これまで百数十人だった台湾人客が昨シーズンは4000人を超えた。相澤氏は「ショッピングのできる東京に雪遊びを加え、東京の新しい観光スタイルとして販売したのが成功要因」とポイントを示した。

<FIT化とリピーター増加による変化>

  • 個別手配率(2012年と2010年比較):シンガポール82%(20ポイント増)、中国59%(7ポイント増)、タイ74%(5ポイント増)など(観光庁調査)
  • パッケージ利用の多い台湾も、個別手配率が2012年に51%と半数以上に(観光庁調査)
  • 台湾人客への調査:FITやフリープランで日本への再訪を希望する76.1%が地方への訪問を希望。そのうちの6割が地方訪問の経験あり(JTBF調査)


▼2030年の訪日外国人は2240万人と予測、目標3000万人は厳しい

主要市場はアジア、シェアも拡大

日本交通公社では2030年の訪日外客数を2440万人(2400万人~2500万人)と発表した。これは、世界観光機関(UNWTO)の国際観光旅行市場の見通しや航空旅客と運賃の予測、各国の経済成長等の各種予測データを踏まえたもの。2030年まではUNWTOが予測するアジア太平洋地域の成長率を上回る推移で増加するが、政府目標である3000万人には届かない見通しで、「このギャップをいかに埋めていくかが今後の課題」だとする。

主要市場は、依然としてアジアとなる。中国、東南アジア、南西アジアでは2020年までに上位中間層や高所得層人口が増加するとの予測があり、「これまでの傾向で上位中間層が拡大すると海外旅行者数の増加に寄与する」と説明する。

また、早ければ2030年までにマレーシア、中国、タイが先進国入りするという推測データに加え、現在「下位中間所得国」や「低所得国」のアジア諸国が、今後の経済発展で海外旅行が活発化する「上位中間所得国」に向かう状況によっては、さらなる伸びが期待できると説明。これらを踏まえ、2020年の訪日客(1600万人の予測)に占めるアジアのシェアは2012年の74%から78%に拡大するとの見通しを示した。

一方での経済発展に伴い、アジア各国も受け地としての活動が活発化していくことから、誘致競争の激化を予想。相澤氏は「今までは大都市に集中していたが、今後は地方でどれだけ受け入れられるかがカギになる」と述べ、地方への誘致の重要性を強調した。


<国際旅行を取り巻く市場予測>

  • 2030年の世界の国際旅行者数は18億人。アジア太平洋地域が30%。東アジアが最大の受入地に(UNWTO予測)
  • アジア太平洋地域の航空旅客:2032年までは年平均で6.4%増、シェア37%に拡大(日本航空機開発協会予測)
  • 2020年の高所得層、上位中間層:中国5億人、ASEAN 1億6200万人、南西アジア3億1100万人(商通白書2013)
  • 新興アジアの高所得国入り推定年数:マレーシア2020年、中国2026年、タイ2031年(OECD)
  • 新興アジアの下位中間所得国:インドネシア(2003年)、インド、モンゴル(2007年)、フィリピン、ベトナム(2009年)、ラオス(2011年)※( )はランクアップした年(世界銀行)

<訪日外客数のJTBF予測>

  • 訪日外客数:2015年は1140万人、2020年は1600万人、2025年は1980万人、2030年は2440万人
  • 2020年の訪日客の地域別シェア:東アジア70%、東南アジア8%、欧州3%、北米8%、その他10%

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