2014年7月7日に東京都内で行われた「楽天トラベルEXPO」。そこに登壇した同社代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、2014年の同社のECビジネスで「心あたたまるサービスをつくっていく」方針を語った。これは、モノだけでなくトラベル事業にも適用される考え方で、商品のStory(物語)や作り手の思い、背景などを伝えることが今後のECビジネスに重要との考えから。ここでは、そこで語られた方針やその背景、三木谷氏の“時代”の捉え方をレポートする。
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既存の法律や行政指導で止められないサービスが登場、
価値観の再定義が必要
何年も続いていたフォーマットが変わる
同社は1997年2月に創業。三木谷氏はインターネットが世界を変える、との思いから起業した当時を振り返り、現在の状況を「ここまでなるとは想像していなかった」と明かす。当時から2014年現在までをネット普及期(1995年~2000年頃)、ネット拡大期(2000年~2008年頃)、ソーシャル拡大期(2009年~2013年)と分類。2014年現在は、新たなステージに移行している時期で「すべてのものがインターネットにつながるという段階」にやってきたと説明した。
この新しいステージで、三木谷氏は「物事の定義が変わっていく」と指摘。医療、教育、もちろん観光の分野でも「何年も続いていたフォーマットが変わる」として旧来の価値観を再定義する必要性を訴えた。
例えば、旅行分野では、これまでの旅行業が取り扱ってこなかったC2Cの個人宅での宿泊マッチングサイト「airbnb」が192か国3万3000都市以上に広がり、GPSアプリでハイヤーやタクシーを配車する「uber」が登場している。さらに、こうしたサービスで利用者の信用をソーシャルメディアで図る時代にもなっており、三木谷氏は「再定義の流れが既存の法整備、役所の指導では止められない段階に来ている」との考えだ。
▼すべてのものがインターネットにつながる時代に求められるもの
すべてのものがインターネットにつながっていく時代とは、時計や映像、空調メーター、テレビなど、すべてのネットで操作できるようになる時代。各産業が技術開発をすすめており、三木谷氏は観光分野の例としてLCCの機内サービスをあげた。機内で提供されるエンターテイメントが旅客個人の好みに合わせたパーソナルなものに変化している流れだ。よりヒューマライゼ―ション化させたサービスが必要になって来る
三木谷氏は、こうした動きは旧来の産業のあり方自体を変えることを指摘。ネットの普及であらゆる再定義が必要になり、物事のコンセプトも変える必要性があると説く。
こうした時代を迎えている今、楽天は2014年の同社のECビジネスでは「心あたたまるサービスをつくっていく(三木谷氏)」。具体的には、商品のStory(物語)や作り手の思い、背景などを伝え、販売側の「顔」や「心」が伝わる情報発信だ。モノの販売ではない楽天トラベルにも適用される考え方で、三木谷氏は「宿泊施設が引き立つブランディングをしていく」と明言。欧米のOTAにない、ニッチなロングページを展開することを可能とし、宿泊施設独自のコンテンツを充実させることができるようにする計画だという。
また、楽天が提供する購入商品をユーザーの専用ページで紹介できるキュレーションサービス「ROOM」(ルーム)をトラベル事業にも近々運用開始することを紹介。「ROOM」は、楽天の商品購入者が自分専用のページでインターネットユーザーが購入したものを実際に利用している様子の画像や使用感などの文章を紹介できるようにしたもの。商品を選択する際に「Story(物語)」に共鳴する時代がやってくるだろうという考えに基づくもので、三木谷氏は「よりヒューマライゼ―ション化させたサービスが必要になって来る」として、今後もこうした開発を進めていく意気込みを表明した。
こうした取り組みとともに、三木谷氏は旅行業界を取巻く環境が好転していることも指摘。LCCの拡大や2020年の東京オリンピック開催が追い風となっており「旅行ビジネスの未来は明るい」と明言した。ただし、「ネットをうまく使うっていくこと」が条件だと注釈した。
(トラベルボイス編集部:山岡薫)