トラベルボイストラベルボイス | 観光産業ニュース 読者数 No.1

福島県大熊町、復興に向けて民間ホテルや交流拠点が開業、新たな人流が生まれる現地を取材した

東日本大震災と、それに伴う福島第一原子力発電所の事故により甚大な被害を受けた福島県大熊町。それから14年。除染作業が進み、段階的に避難指示が解除され、2022年6月には街の中心地区の避難指示も解除された。そして、2025年3月15日、JR大野駅前地区に復興に向けた拠点として産業交流施設「CREVAおおくま」と商業施設「クマSUNテラス」がグランドオープンした。新たな街づくりは始まったばかり。そのなかで、観光が果たせる役割とは?現地を取材した。

「CREVAおおくま」と「クマSUNテラス」を交流の拠点に

大熊町では、現在も、避難指示解除区域、2020年代に解除が予定されている特定帰還居住区域、解除未定の帰還困難区域がある。さらに、福島第一原発に隣接する土地には放射線物質の中間貯蔵施設があり、国は2045年3月までに県外に搬出する計画だが、まだ具体的な目処は立っていない。

そのなかでも、大熊町は町の中心地だったJR常磐線大野駅西口一体を「大野駅西交流エリア」と名付け、復興の象徴となる拠点の整備を進めてきた。

3月にオープンした産業交流施設「CREVAおおくま」には、日本原子力研究開発機構(JAEA)、中間貯蔵・環境安全事業(JESCO)、東京電力など災害復興関連の企業のほか、スタートアップ企業も入居。コーワーキングスペースも備えられ、入居事業者の一時帰宅者なども利用しているという。

「CREVAおおくま」。「CREATE(創造する)」と「VALUE(価値)」を組み合わせた造語で、「町民みんなが誇りを持って真の価値を創造していく」という願いが込められている

「CREVAおおくま」の隣にオープンした商業施設「クマSUNテラス」には、コンビニ1店、物販1店、飲食店5店の計7店が入る。原発事故後、大野駅前に飲食店ができるのはこれが初めてとなる。震災前から町内で営業していた「ふたば文具店」も新装開店。クマをモチーフにしたオリジナルグッズも開発・販売している。

「クマSUNテラス」。名称は街のキャラクターのクマと「太陽が照らす」という意味を掛け合わせた

現在は臨時駐車場となっている「クマSUNテラス」とJR大野駅の間の敷地には、新たに商業施設と宿泊施設が建設される予定だという。このほか、近隣には県立病院が誘致され、大熊IC周辺には道の駅が設置される予定など、新たな街づくりが進められる計画だ。

両施設の指定管理者BGタイズCCC共同事業体統括責任者の田淵義浩氏は、「このエリアを大熊町の交流・復興の拠点にしていきたい」と意欲を示す。

新たな人流が創出、移住者も増加

「大野駅西交流エリア」から車で10分ほどの場所に、2025年1月に大熊町内の震災後初の民間ホテルとして「タイズヴェルデホテル」が開業した。大熊町役場の前、「大熊町交流ZONE」や温浴施設「ほっと大熊」にも近く、大熊町の復興と未来に向けた街づくりの中核として期待されている。

世界的に著名なガーデニングデザイナー石原和幸氏が設計を担当。施設は管理棟1棟、宿泊施設4棟に分かれ、シングル72室、ツイン10室の全82室。現在は一時帰宅者や復興関連事業者の利用が多いが、将来はビジネスや観光の旅行者も視野に入れる。Eバイクのレンタルサイクルのサービスも用意している。

夕食は付かず、シングルルームはシャワー設備のみ。「大熊町の施設を利用して、町と関わりを持ってもらいたい」(ホテル支配人)との思いから、館内サービスを限定した。

「タイズヴェルデホテル」。宿泊者と地域との交流の場を目指す

また、同じエリアには「学び舎ゆめの森」もある。0歳~15歳が学ぶ公立学校で、授業、教員、学習環境がシームレスにつながる「ごちゃまぜラーニング」を展開し、公教育の可能性を追求しているユニークな学校だ。1学年10人程度の少人数学級。その先進的な取り組みは全国から注目され、視察も多く訪れているという。

この学校への入学を目的に、大熊町へのファミリー層の移住も増えている。2025年2月末現在の大熊町の人口(住民基本台帳上)は9902人。東電社員を除く町内居住者は約900人、そのうち帰還者が約300人であるのに対して、新規転入者(震災後出生者を含む)は約600人。「学び舎ゆめの森」が移住定住で大きな存在になっており、新たな人流が生まれている。

正しいことを知ること、教育旅行の誘致に意欲

大熊町では、未来に向けて、日本酒「帰忘郷」や、いちごなどの大熊ベリーのブランド化に力を入れている。

大熊町生活支援課移住定住支援係長の髙橋亮氏は「何が観光になるか分からない。手探りでも前に進めていきたい」と話す。

また、田淵氏は「まずは、放射線について正しく理解することが大事。大熊町の事実を知ってほしい」と願う。ふくしま復興情報ポータルサイトの空間線量モニタリング結果によると、2025年4月7日の学び舎ゆめの森の放射線量は、0.11マイクロシーベルト/時。環境省によると、富士山頂の線量の0.10マイクロシーベルト/時とほぼ変わらない。東京/ニューヨーク間を航空機で往復すると、単位が上がり0.11~0.16ミリシーベルト被曝すると言われている。

福島県も、福島県内(避難指示区域を除く)の空間線量率は、現在では全国や世界の主要都市とほぼ同水準と安全性を強調している。

「CREVAおおくま」の日本原子力研究開発機構の「JAEA ANALYSIS LAB」では、放射線の分析や分析研究の現場を紹介している。また、中間貯蔵事業情報センターでは、中間貯蔵の展示のほか、施設の見学会を定期的に実施している。

田淵氏は、「今後は、防災学習に加えて、正しく放射線のことを知る機会となる教育旅行の誘致にも力を入れていきたい」と力を込めた。

トラベルジャーナリスト 山田友樹