
いま、インバウンドの観光関連で注目を集めているのがオーバーツーリズム対策だ。観光庁でオーバーツーリズム対策を担当しているのが観光庁の参事官室(外客受入)である。
「(観光庁は、自治体や民間事業者にとって)敷居の低い組織、どんどん相談に来てもらい、一緒に考えながらよい観光地域づくりを進めていきたい」と訴える参事官(外客受入)の濱本健司氏に、その役割から課題、目指す未来まで聞いてきた。
地域の実情に応じた「効く」取り組みを
観光庁における参事官(外客受入)の役割は何かと問うと、「外客受入室の組織名は、英語で“Visitors experience Improvement”と表現されており、訪日外国人旅行者がストレスフリーで、全国各地を訪れて有意義な体験をできるための受入環境整備を各地で進めていくことが我々の任務だと理解している。観光客を迎える地域にとっても、インバウンドをはじめとする観光客が歓迎される存在になるよう、実情に応じた施策を進めていくことが必要」と力を込める。
外客受入参事官室のスタッフはおよそ20名で、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進」を含む受入環境の整備に加え、外客安全対策室が担当する「インバウンド安全・安心対策推進」の2分野が大きな柱となっている。受入環境整備については、Wi-Fi整備や多言語表記の充実といった基礎的な対策の積み上げはだいぶ進んできたが、求められる対策は進化している。
「たとえば『飲食店での多言語対応』ひとつとっても、リピーター層が増えるとともに、メニュー表記が英語などの有無だけでなく、この郷土料理の由来は何か?といった、地域ごとの文化をより深く知りたいといった声が聞かれるようになってきている。また、地方部への誘客を図る上で、二次交通の整備や、アクセス手段を経路検索アプリや訪日客がよく利用する情報サイトでわかりやすく伝えることがより強く求められている」と話す。
地域を訪れて一緒に考える
コロナ禍明けにインバウンド需要が急速に回復したことに伴い、多くの地域で課題となっているオーバーツーリズム。一昨年秋に関係閣僚会議で取りまとめられた政策パッケージでは、観光客の受け入れと住民の生活の質の確保を両立しつつ、持続可能な観光地域づくりを実現するために地域自身があるべき姿を描き、具体策を講じることが有効であり、こうした取り組みを総合的に支援するとの方針が示された。
この方針に基づき、外客受入参事官室では、令和5年度補正予算事業で、公募により採択された26の先駆モデル地域をはじめとする、地域ごとの特性・誘客戦略・課題に応じた対策を支援してきた。「対策パッケージには、受入環境の増強・需要の管理・分散・平準化・地域住民と連携した取組みなど様々なメニューが盛り込まれているが、どのメニューをどのような形で活用することが役立つかは、まさに地域の実情に応じて決まってくるもの。その意味で、当室スタッフの間でも、機会を捉えて地域に実際に足を運び、自分の目で見て関係者に話をうかがうことで学べることが大いにあるとの認識が浸透している」(濱本氏)。
観光危機管理計画の策定が重要に
また、近年、災害が激甚、頻発化するなか、訪日客が旅行中に災害に遭うケースも十分に想定される。外客安全対策室では、地域における観光危機管理計画の策定、観光施設などの避難所、多言語対応機能の強化、医療機関の訪日外国人患者受け入れ機能の強化への支援を進めている。
「地震や台風に慣れていない訪日客も多いほか、土地勘がないことから、どう行動してよいかわからなくなってしまうケースも想定される。観光庁では、緊急地震速報や気象警報などをプッシュ通知で提供する災害時情報提供アプリ“Safety tips”を訪日客に利用してもらうよう周知を進めている。地域レベルでは、自治体・DMOや観光施設、宿泊・交通事業者といった関係者で、災害発生時にどういった形・手順で観光客対応を行うかをぜひ事前に検討していただきたい」と呼びかける濱本氏。災害発生時の連絡体制や一時的な滞在場所の確保といった対応について計画・マニュアルを策定する地域も増えているという。
2024年11月には、仙台で「観光レジリエンスサミット」が開催された。同時開催されたシンポジウムでは、2011年の東日本大震災発生時に多くの帰宅困難者が出た経験を踏まえ、観光客対応も見据え、市内中心部のオフィスビルや商業施設も含めた一時的な滞在場所を確保することとした開催地仙台市の取組み事例が紹介された。
濱本氏は、このような地域における取り組みの推進について「万一、災害が発生した場合でも、安全・安心が確保される環境づくりを進めることは、中長期的にもデスティネーションとしての評価を高めることにもつながる」とする。地域の観光施設や公共施設において、災害用トイレや非常用電源、災害情報を表示できるサイネージなどを整備しておくことが緊急時対応に役に立つと指摘する。
濱本氏は最後に、「観光は地域の活性化を担う有力な産業の一つ。訪日客に日本各地に足を伸ばしてもらえるよう、各地域の取組みを部署横断でサポートする。意欲的な取り組みを進めるため、気軽に相談に来ていただきたい」と笑顔をみせた。