世界のホテル事情(第4回)
こんにちは。
ホテルマーケティング・コンサルタントの大野惠子です。
「世界のホテル事情」をテーマに、皆様に様々な角度から世界のホテル動向などをお伝えしていますが、第4回のテーマは、ホテルにおけるCSR (Corporate Social Responsibility「持続可能な開発への企業責任」) への取り組みとその実情をお話しいたします。
▼訪日旅行者受入れのために世界の基準を知る重要性
日本国内におけるホテルのCSRへの取組と課題
日本国内のホテルのCSRへの取組は、ホテルチェーンとしてきちんと企業理念を掲げ、「企業コンプライアンス」「社会貢献」「環境対策」と「リスクマネージメント」の4つの指針に沿って 実践している事例が数社ありますが、欧米のように「持続可能な開発」への明確なコミットメントは見受けられません。環境保護と社会貢献活動のいずれかを強調しているようです。
また、昨今発覚した食品偽装化問題を受け、購買管理システムの透明性を宣言しているケースが目立ちます。しかしながら、今後のインバウンド・ツーリズムの成長戦略とホテルのグローバル・スタンダード化の課題において、日本のホテルは、グリーン・グローブのような、国際基準に準じたツーリズム認証登録を導入する必要があるのではないでしょうか。
その理由として、フランスなど欧米企業の事例と「グリーングローブ」についてご紹介します。゙
▼フランスの全ホテルはCSRが義務化
「持続可能な開発」フランス語ではDéveloppement durableは、右図に示すように、基本的な3つの要因である環境保護 (Ecologique)、社会 (Social)、経済 (Économique) の全てが関与するコア部分に相当します。
観光立国フランスにおけるホテルの格付けは、2009年7月の大幅な法改正後、さらなる見直しが行われ1星から5星とパラスの6段階になりました。新基準では、ホテルの全カテゴリーに共通してハンディーキャッパーと環境保護への理解が義務づけられています。基本事項は、以下の3点です。
- ハンディーキャッパーへの配慮
- 施設の正確な情報公開、
- 節水と節電、環境保護に向けた企業努力
さらに細部に渡るサービスやシステムの導入により、オプションの46ポイントが加算され、星のアップグレードが認められる仕組みとなっています。このような国策は、今後日本における宿泊業の格付け制度の施行に向けて大きく学ぶべき点でしょう。
▼ツーリズムのCSR認証「グリーン・グローブ」
世界90カ国356のメンバーに拡大、日本では2件
「グリーン・グローブ」とは、サステナブル(持続可能な)ディヴェロップメントへの貢献、国際的なツーリズム・ビジネスにおける世界水準機構 です。40項目に及ぶ審査基準と、第三者による年2回の厳しい監査には世界から高い評価があります。グリーン・グローブの国際的な基準と認証は下記の5点に基づいて設定されています。
- ツーリズムにおける世界的なサステナブル基準
- サステナブル・ツーリズム基準における世界的なパートナーシップ (STC Partnership)
- 米国サステナブル・ツーリズム認証組織に基づく標準化
- 1992年地球サミットにて採択された「アジェンダ21行動計画」の遵守
- ISO 9001 / 14001 / 19011 (国際標準化機構) に準ずる
ISO (国際標準化機構)は、スイス、ジュネーブに本部があり、電気分野を除く工業分野の国際規格の策定を行う非営利法人で、ロゴの使用やマーケティング目的への関与を一切禁じています。一方、グリーン・グローブは、メンバーに対して積極的にロゴ使用を推進し、CSRに貢献するグリーン企業イメージとして、マーケティングに有効性のあるアイコン構築に成功しています。
筆者が「グリーン・グローブ」を最初に認識した2010年には、ヨーロッパでわずか数軒のホテルが認証登録をしていました。しかしながら、2014年3月現在、世界90か国、356におよぶメンバーが名を連ねます。新規加入メンバーは、観光局と多数の国際会議施設、ゴルフコース、スパ、ツアーオペレーターなどが目立ちます。
以下に世界の導入件数を挙げてみます。
- ヨーロッパ:174軒(ドイツ72軒/フランス39軒/オランダ12軒/スイス11軒/オーストリア11軒/ポルトガル11軒/モナコ4軒/デンマーク4軒/スペイン3軒/イタリア3軒など)
- 北南米&カリブ地区:77軒
- 中近東:56軒
- 南アフリカ:2軒
- アジア地区:47件(タイ15軒/インド5軒、中国3軒、ベトナム3軒、マレーシア2軒、ミャンマー2軒、フィリピン1軒、日本2件)
*日本の2件はクラブメッド・カビラビーチとサホロ。
▼欧米企業との「契約」にはCSR参画が必須
CSR賛同の可否が、取引先の選択要因に
ここで、CSRが欧米企業にとって、どれだけ重要でかつ労力を費やす事項となっているか、契約を事例にご紹介しましょう。
欧米の大企業とグローバル企業は、ホテルや航空会社と年間コーポレート契約を締結します。限られた期間内に翌年のプロポーザルを提出するインビテーションを受け取るためには、事前に多大な営業努力を要します。その後のオフィシャル・プロセスでは、応募から審査までオンラインによるRFP ( Request for proposal ) が徹底されています。そのため、トラベル・テクノロジー企業は、インターナル、エクスターナル共に用途にあわせて利用できる様々なRFPと管理用プラットフォームの企画開発に努力しています。
GBTAグローバル・ビジネス・アソシエーション (Global Business Travel Association) は、世界的にビジネス・トラベルとミーティング・ビジネスにおいて最大規模のネットワーク21,000メンバーを有し、その活動は、アドボカシー、コンフェレンス、イベント、リサーチ、教育とツールの提供など影響力のある存在です。ビジネス・トラベルでは、RFP フォーム ( GBTA Hotel RFP Global Format) に定評があり、多くのサプライヤーと企業が導入しています。加えて、ミーティングビジネス・マネージメントにおいても、第1ステップとして、なるべく多くのサプライヤーに対してRFI ( Request for Information )によるアプローチを行い、施設とプロダクトサービスのスタンダードを精査した後、第2ステップでRFPを依頼する事が、ホテルなどの選択をより迅速に出来ると推奨しています。
これらの全フォームは、サプライヤーのCSRに関する質問事項が用意されています。背景として、取引先である企業はほぼ例外なくCSRに参画しており、CSR賛同の可否が取引先の選択要因となるからです。すでに、GBTA ノースアメリカでは、サステナビリティーへの企業努力とそのアクティビティーを簡単にチェックできるGBTA Sustainability ToolKitをメンバーに提供しています。
GBTA ヨーロッパは、ビジネス・トラベルとミーティング・ビジネスのみで約2,500のメンバーを有するネットワークで、英国とフランスに事務局を設置しています。バイヤーの構成分布は、グローバルが62%、自国およびヨーロッパ域内は38%。英国のITM ( Institute of Travel & Meetings ) をはじめ、オーストリア、デンマーク、フィンランド、スエーデン、フランス、ドイツ、スイス、オランダ、ノルウエー、スペイン、ポルトガル、英国とアイルランドの政府観光局と有力パートナー企業が支援しています。