観光財源セミナーを取材した、宿泊税の定率制と定額制の違いは? 「定率制」導入の倶知安町の事例など

地域での観光振興は、単年度会計を基本とする行政の補助金などで賄われることが多い。しかし、長期的な取り組みが求められる観光振興で活用するためには制約も多い。行政の負担も課題視される中、新たな観光振興の財源を得る手段に関心が高まっている。

先ごろ、日本交通公社(JTBF)が開催した「観光財源セミナー」には、地方自治体を中心に18団体が参加した。宿泊税を中心に、観光振興の財源をどのように導入し、活用すべきかが多角的に論じられたセミナーの様子をレポートする。

使途拡大を防ぐために、条例と観光計画で明文化を

2017年、JTBF内に「観光財源研究会」 が設置され、宿泊税導入や入湯税の超過課税に関する技術的、法的な問題について整理が進められてきた。今回のセミナーは昨年に続いて開催されたもので、参加自治体のいくつかでは、観光財源の導入や検討が進んでいる。

セミナーでは、冒頭でJTBF上席主任研究員の菅野正洋氏が登壇し、基本編として「観光振興財源の導入と使途決定のガバナンス」について講演した。地方税法の規定によって、法定外税である宿泊税の導入に際しては、必ず「徴収条例」の制定が必要だが、菅野氏は「“観光のため”というと対象が広く、拡大解釈により何にでも使えてしまう恐れがある。導入当時の首長や行政の担当者などが変わっても枠組みが存続するために、あらかじめ財源の使途を明文化することが必要」と話した。

そのためには、徴収条例に加え、誰がどのように使うべきかを規定した「使途条例」の2段構えが望ましく、「宿泊税などを導入する場合は財源と観光計画の連動が求められる」として、観光計画を使途条例の中に位置付けることを推奨した。これに近い具体事例として、2020年に宿泊税を導入した福岡市を紹介。観光振興条例に宿泊税の使途として記載された5つの施策をもとに、具体的なアクションプランを策定した「福岡市観光・MICE推進プログラム」が挙げられた。

加えて、「財源を誰が使うか」という点は、DMOを規定することで観光計画とDMOの関係が法定化され、位置づけと事業の推進力が高まるとした。得た財源は複数年度にわたって長期的に活用できるよう、基金化すること、財源が正しく使われているかをチェックする役割として、自主的なモニタリングを実施することが推奨され「計画策定やモニタリングは行政と事業者、市民を含めた官民協働の体制が望ましい」と菅野氏は語った。

JTBF上席主任研究員の菅野正洋氏

「定率制」を導入した倶知安町、税収アップの背景は?

観光財源の具体的な使途のヒントについてのプレゼンには、「定率2%」の宿泊税を導入している倶知安町のDMO倶知安観光協会事務局長の鈴木紀彦氏が登壇。宿泊税の現状について語った。

倶知安町が宿泊税を導入したのは2019年11月から。初年度の2019年は約1億8000万円の税収を得た。コロナ禍の2020年は約5000万円、2021年は約6000万円と大きく落ち込んだが、コロナ禍からの回復がみられた2022年は約2億4000万円とコロナ前を大きく上回り、2023年は約4億4000万円と前年の2倍近くに増加している。

鈴木氏は定率制を導入した理由として、倶知安町の宿泊施設の多くが人数単位ではなく客室単位で単価を設定しているため、人数単位では捕捉が難しいことを挙げた。昨年度の宿泊税の増加については「コロナ禍でも開発が止まらず、宿泊施設のキャパシティが増えた状況はあった。しかし、定額ではこれほど伸びなかっただろう」と鈴木氏は断言した。増加の理由として、レベニューマネジメントの改善などにより宿泊単価が上がったことを挙げた。

宿泊税の使途用途は倶知安町役場のホームページや市報で公開され、倶知安観光協会に対する倶知安町からの補助金は宿泊税の徴収開始に伴って増額されている。宿泊税は長期的な観光振興に活用できるよう基金への積立や、人件費のベースアップや新規採用などにも活用されており、鈴木氏は「DMOに必要なのは財源と人材であり、これらを一体で考えるべき」との考えを示した。

倶知安観光協会事務局長の鈴木紀彦氏

宿泊事業者の合意が重要、成長の実感が得られる「定率制」

最後にJTBF理事の山田雄一氏が総括をおこない、「宿泊税導入の成否を左右する一番のカギは、特別徴収義務者となる地元の宿泊事業者の合意が得られるかどうか」だと指摘。「総務省もその点を重視するので、議会を通っただけでは不十分。合意を得るには危機感の共有も大事だが、新たな観光財源を使って、どんな戦略で地域を興していくかという夢を共有することが大事」であると話した。

その上で山田氏が強調したのが、定率制の宿泊税を導入するメリットだ。「定額制で初年度に1億円が入った場合、翌年に1億1000万円にするには宿泊客を10%増やす必要があるが、現実的にはかなり難しい。一方、定率制なら宿泊単価が10%上がればいいので、税収を10%増やすのは、より容易になる」と述べた。

そして、「宿泊税導入のカギとなる宿泊事業者の合意を得るにも、必要なのは観光振興によって成長し、財源が増えたという成長実感。こうした実感が得やすいのは定率制と言える」と締めくくった。

JTBF理事の山田雄一氏

JTBFでは、2024年3月には同研究会の活動をもとに、観光振興財源の種類や具体的な導入プロセスなどを網羅した「観光財源ガイドブック」を出版。同5月発行の機関紙「観光文化」261号でも、観光振興財源について特集している。

取材・記事 井上理江

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