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2014年2月1日〜2日(日)東京ビッグサイトで行われたイベント「タビカレ学園祭」。観光J活コラム第2回は、その修了式プレゼンコンテストで 第1位だった北海道の「酪農エリアを歩こう!『北根室ランチウェイ』」を紹介する。美しい田園や酪農地帯が広がるものの、突出した観光資源がない北根室だが、自然を生かしたある体験が満場一致の第1位を獲得した。
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「タビカレ学園祭」とは、観光庁の主催により、過去1年間行われた「エリアの新たな観光資源の商品化に向けてのアドバイスやPR・モニターツアーの実施」の集大成として、魅力的な観光商品づくりに取り込んで来た78地域がブースを出展した展示会。その特別カリキュラムがメディア、旅行会社、学生・社会人からなる審査員に対する46地域の修了プレゼンコンテストだった。
史跡や自然や食など観光要素そのものをアピールする地域がほとんどだったが、北根室ランチウェイが訴えたのは、「体験と達成感」。そして、一から創造されたものであること、他では得難いものとなっていたことが共感を呼んだ。その内容と創造の過程を追ってみよう。
▼観光定番の国立公園に囲われた北根室/中標津
「歩くこと」を観光の目的に、ヒントは英国のフットバス
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中標津町は、これら国立公園に隣接する町で、入植からおよそ1世紀、北海道における牛乳生産量2割以上を生産する大酪農地帯だ。小高い丘となっている開陽台からは、その美しい酪農景観が見渡せ、温泉は2年後に開基100年となる養老牛をはじめ市街地でも楽しめる。
こうした美しい田園があるというものの、広大な北海道では、車やバスで移動して国立公園の観光地を巡るというのが定番スタイルだった。しかし、なんとか豊かな自然を歩くことを楽しみ、それ自体を旅の目的にしてもらいたいとの思いを持っていたのが、ロングトレイル“北根室ランチウェイ”の代表である佐伯雅視氏である。
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佐伯氏がそのヒントを得たのは、イギリスの田園地帯で見たフットパスだ。フットパスは、法規上で通行権が認められている道で、農地など私有地内を通っていることもあり、英国では全土に広がる。佐伯氏は、今から9年前に視察で訪れた英国で、こうした自然の中のフットパスを人々が歩いて楽しんでいる姿に影響を受けて、北根室にも同様の歩く道を作ることを思いついたという。帰国後、中標津町役場職員2人や仲間4人に歩く道「北根室ランチウェイ」を中標津につくろうと呼びかけたのがその始まりだった。
その当時、北海道ではフットパスルートが次々と産まれていたが、佐伯氏の発案は「広大な風景が広がる中標津のダイナミズムを訪れる人に伝えるにはロングトレイルこそ相応しい」と、 中標津空港から道東(北海道の東側)の3空港を歩いて繋ぐ壮大なゴールを持っており、当初はその発想に町役場の2人も驚いたという。
道なき場所には、道を作るところからはじめ少しずつ延長していったというロングトレイルのルート上には、佐伯氏の発想を元にデザイン・施工した道しるべのサインが設けられている。酪農現場を歩く人と牛を分けるための道は“マンパス”と呼ばれており、イメージカラーのえんじ色がグリーンの中によく映えて見やすい。森の中から広い牧場に入った時に自然と視界に入ってくるようにするなど、設置位置も非常に工夫されている。
▼広がりつつある“歩く楽しみ”、得難い体験こそ観光要素
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今までの、定番観光地をバスや車で短時間で回ってしまうのではなく、時間をかけて72km近い距離を自分の足で歩いて回る楽しみ。この得難い体験こそを観光要素とする試みは、観光庁事業で実施したモニターツアー参加者からのアンケートで高い満足度を得た。また、タビカレ学園祭の修了プレゼンで1位をとったことでも、そのアピール力の高さを裏付けていると言えよう。
【観光J活コラムとは】
地方の観光政策に耳を傾け、エリア観光を掘り起こし、アジアからだけではない訪日旅行のアピールを図るなど、“観光で日本を元気にする活動(アクション)を探る”題して“観光J活コラム”。
- 文/小野アムスデン道子
- インタビュー協力/株式会社TAISHI 菅野 剛