昨年、「JATA旅博」と「旅フェア日本」が統合し、新たな旅の祭典として踏み出した「ツーリズムEXPOジャパン」。初年を“ホップ”、今年を“ステップ”の年と位置付け、規模の拡大とともに、内容の充実化を図っている。社会的なインバウンドの注目の高まりを受け、拡大と多様化が進む観光産業の縮図を体感する機会にもなりそうだ。ツーリズムEXPOジャパンの今年のポイントを、同推進室営業企画部長の福島和彦氏に聞いた。
BtoBは業界の枠を拡大、インバウンドで異業種の問い合わせも増加
今年の来場者数は、昨年の15.4万人を1万人以上も上回る17万人を見込む。この実現に向け、推進室ではさまざまな企画や施策を打ち、出展者数は昨年の1129から1145企業・団体に増加した。観光局や自治体、運輸、ホテルなどの旅行関連業者や団体だけではなく、異業種の企業・団体が旅行に照準を向けて出展する例も増えているという。
その一つが、インバウンドの推進を目的とする団体「ジャパン・ショッピング・ツーリズム協会(JSTO)」。今年はインバウンドの商談会である「VISIT JAPANトラベル&MICEマート」とは別に、ツーリズムEXPOジャパンにも「インバウンド・エキスポ in ツーリズムEXPOジャパン」として出展し、30コマの規模で訪日旅行中の買い物に関わるモノ作りからソリューション、マーケティング、アプリ開発の企業・団体などが参加する。
“爆買”で注目されるショッピングは、上昇気流に乗るインバウンドのなかでも熱いテーマであるだけに、「彼らの集客力、独自の目線によるプロモーションの効果で、今までとは異なる来場者が増える」(福島氏)と期待する。
また、今年は業界日のセミナーの呼称を「ツーリズム・プロフェッショナル・セミナー」とし、旅行会社だけでなく、旅行関連産業が参加できる内容に拡充。マイナンバー制度や苦情、安心安全のセミナーから、デスティネーション紹介、さらには「まちづくりエコのミュージアムの創り方」のように、「地域創生」「地域づくり」などがキーワードに入るセミナーも増えた。これらを、営業や企画担当者のほか店頭販売、手配担当者などの実務担当者から管理職まで、ツーリズムに関わる従事者のクラスターを意識して構成した。
こうした取り組みで、「業界日の枠が広がっている。今年は今までの業種とは異なる来場者が増える」(福島氏)と予想。これまで、業界日の入場は旅行業界関係者を対象にしていたが、メーカーや小売、卸など、インバウンドに興味を持つ異業種企業からの問い合わせが増えているという。「参加する価値があるか」「自分たちの商品サービスに繋がるビジネスがあるか」といった観点で関心を持っていることから、推進室では一つ一つにコミュニケーションをとって対応し、合致する場合は業界日の登録案内をしているという。
BtoCで新施策、保育士資格スタッフのいる託児所も
一方、消費者向けにも新しい取り組みを行なっている。その一つが、会場内への託児所の設置だ。運営はベビー用品・コンビ社の子会社で託児やベビーケアシステムなどのサービスを行なうコンビウィズ社に委託。有資格のスタッフが常駐し、既定の2時間の枠内で10名程度を予約制で預かる。また、ベビーカーの預かりサービスも行なう。これは昨年、子供の連れの来場者数が増加したことから設置を決めたことだが、コンビウィズ側は同社の育児環境事業(公衆トイレなどのベビーキープやベッドの設置など)が自治体関係者や集客施設など出展者に対するアピールになると期待しているという。今後はこうした事例を踏まえ、幅広いコラボレーションによる新しい展開が期待できそうだ。
また、OTAを含め、オンラインを基盤とする旅行サービスが増えているなか、今年はトリップアドバイザーが主催者企画として参加したことにも注目したい。蓄積した投稿写真を活用し、「世界の名所で写真を撮ろう」というイベントブースを一般日限定で実施する。
ただし、この分野の出展は、昨年と同程度の規模にとどまった。福島氏は、「市場拡大の意味では出展してもらうのがベスト。見て学ぶことが大切だと思うし、消費者目線ではここにすべての旅行素材が集まっているのが求められている」と、来年以降の出展に期待する。
プロモーションにもひと工夫、検索広告キーワードに出展者コンテンツを追加
17万人を集めるため、プロモーションにも力を入れる。主に消費者対策を念頭に、ヤフーやグーグルのディスプレイネットワークなど、特にデジタル広告分野の予算を拡大した。キーワードは「レンジが広いと効果が浅くなる」(福島氏)ことから、「旅」「世界」「イベント」などに加えて、出展者のコンテンツも追加。会場での登場予定が期待できるような「ハワイのキャンペーンキャラクター」や「K-POPのスター」、「北海道新幹線」などを入れて、より深い興味のある人にも働きかけていく。
また、若年層などの新規客の獲得も重視し、キュレーションメディア「アンテナ」などの新興メディアへの出稿や、ラジオ出演によるPRも予定する。さらに在日外国人の来場も期待し、今年から英文のチラシも作成。大使館などへの配布を開始した。在日外国人の目線で、会場で見聞きした日本各地の良さを発信してもらい、インバウンドのVFR市場の拡大につなげる考えだ。このほか、既存の交通広告、旅メディアを通した広告展開も継続する。
イベントの価値、「相乗効果」生むために
インタビューを通し、福島氏が最も強調していたのは、ツーリズムEXPOジャパンの「価値」だ。「そもそもツーリズムEXPOジャパンは、出展者のプロモーションフィールドであり、業界に対する商談の場。その先に消費者へのメッセージ発信がある。温度感はそれぞれ異なるが、関わった人にこのイベントがどう作用するかが最も重要なこと」(福島氏)と語る。その価値を上げる方法として福島氏は、海外旅行と国内旅行の展示会が統合したツーリズムEXPOジャパンと、同時併催のVISIT JAPANトラベル&MICEマート、国際観光フォーラム、さらにはジャパンナイトなど周辺イベントとの融合を強調。
「例えば海外からの出展者の場合、国内セラーとの商談を最大の目的としつつ、一般日には消費者にもメッセージを発信するとともに、国内ブースなどで日本の文化や素材に触れられる。それを国に伝えてもらうことでツーウェイツーリズムが生まれる可能性がある」と説明。「一つ一つのイベントの役割を理解していただき、すべてが相関の関係になるように持っていくことが重要だと考えている」という。
すでに昨年の例では、VISIT JAPANトラベル&MICEマートの訪日バイヤーが、商談だけではわかりにくい地域素材やプロモーションを現場で見るために国内ブースを訪れる例もあり、双方向の交流が図られているという。こうした意識を参加者が持つことで、イベントで得られる効果は大きく変わりそうだ。
今年は来年の「ジャンプ」の年に向け、ツーリズムEXPOジャパンのグランドデザインづくりに一区切りを打つ年になる。旅行業界と旅行を取り巻く産業変化を捉え、その方向性を感じるためにも、積極的な参加をしてみたい。
昨年の振り返り記事>>>
聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫
記事:山田紀子