ポケモンGOは観光のブレークスルーになるか ―開発会社の兄弟ゲーム「イングレス」の事例で考えた

いよいよ日本でのサービスが始まった「ポケモンGO」。アメリカやオーストラリアなど、先行している国々では社会現象となり、人の行動を変えている。旅の基本である移動を生み出すポケモンGOは観光に何をもたらすか。観光産業が注目すべきポイントとは?

ポケモンGOと同様の拡張現実(AR)と位置情報を活用したオンラインゲームとして、世界1500万以上のダウンロードを誇る「Ingress(イングレス)」の実績を踏まえ、考えてみた。

ポケモンGOとイングレスは、Google(グーグル)のスタートアップから始まり、独立したNiantic(ナイアンティック)が開発・運営するゲーム。根本のコンセプトはほぼ同じ。アプリのマップを使って現実の世界を移動し、ポケモンGOは位置情報で映し出される「ポケモン」を、イングレスは「ポータル」と呼ぶ実在する場所の位置情報の取得を競う。

イングレスのマップ

イングレスの場合、プレイヤーが2つのチームのどちらかに所属し、チーム同士の陣取り合戦になっているのもポイント。オンラインに留まらず、現実世界でのイベントも各国で開催しており、仲間と一緒に楽しながらチーム成績を競う、ゲームやチームの一体感を強める要素にもなっている。

7月16日にお台場で開催された公式イベント「AEGIS NOVA(イージスノヴァ)」には、過去最多の1万人以上が参加。そのうち1割が海外からの参加者だ。この集客力に観光分野でのコラボレーションが進んでおり、先ごろにはウィラートラベルがイングレスの世界観やゲームが体感できるバス「NL-PRIME」の運行を開始している。


人の移動を生む構想が観光の概念にマッチ

IMG_7442 - コピーナイアンティックアジア統括本部長の川島優志氏は、「AEGIS NOVA」で公開された「NL-PRIME」のイベントで、同社が重視していることを2点あげた。テクノロジーを活用し、(1)人を外の世界に連れ出すこと、(2)人と人同士を繋げることだ。

イングレスの場合、「我々は“隠された宝”と呼んでいるが、地域にある“光をあてるべき場所”(ポータル)をゲームの力で注目させ、足を運んでもらう」のが目的。イベントなどのリアルの場で初対面のプレイヤー同士が知り合うきっかけとなるよう、自己紹介カードなどの仕掛けも用意している。「交流して仲間となることで、次は互いの居住地域や国に行く移動が起きる」からだ。横須賀市や岩手県など、イングレスを観光振興に活用する地方自治体が少なくないのは、こうした考えが地域の魅力発掘や観光客誘致に合致するからだろう。

では、ポケモンGOと観光とのコラボの可能性はどうだろうか。イベントで川島氏に聞いてみると、「ナイアンティックが重視する2つのコンセプトは(ポケモンGOでも)変わらない」と答えた。

イングレスのプレイヤー数を国別でみると、米国が最大で日本は2番目。その他、ドイツ、英国などのヨーロッパや台湾、香港などアジア圏も多く、幅広い。ただし、性年齢別では男性と18~44歳がそれぞれ8割。一方、ポケモンGOでは、イングレス以上に幅広い対象がいるのは確実で、観光面での活用に拍車がかかりそうだ。

同時に、観光分野におけるナイアンティックの存在感も強まってくる。観光誘客に関して川島氏は、「人に来てもらうには、まずは自ら(誘客側)が行かなければ」とし、連携する自治体にアドバイスも行なう。自治体同士の交流も始まり、効果が出始めているという。人を集めて移動需要を生み出したノウハウは、もはやゲーム・エンターテイメント会社に留まらず、観光産業が欲するところとなっている。

観光のブレークスルーになるか

ポケモンGOがイングレスと違うのは、熱烈なファン層に子どもがいること。ポケモンを集めるために家族旅行や遠出をする機会が増え、行き先は国内のみならず海外も対象に加わる。こうした需要を見据え、イングレスでも地方でのイベントに絡めた高速バス割引や特別宿泊プランが設定されたが、ポケモンGOではさらに多様な関連商品が販売されるだろう。これはインバウンドでも同様だ。

また、ポケモン探しに両親や祖父母が同伴したり、一緒に参加することで、幅広い年齢層の人、特にシニア層が新しいテクノロジーに触れる機会となる。世間一般の人がARやVR(バーチャルリアリティ)を日常のものとして感じられるようになれば、テクノロジーを活用した観光の新サービス・商品の開発が、今まで以上に取り組まれるようになる。ポケモンGOが新たな観光を開くきっかけになるかもしれない。

さらに、観光領域に異業種企業の参入や新たな概念のサービス誕生も加速しそうだ。先日、観光ニュースメディア「トヌーズ(tnooz)」では「ポケモンサファリ」(「ポケモンGO」のプレイヤーを自分の車に乗せてハンティングに連れ出す有料サービス)が紹介されている。ゲームの持つエンターテイメント性と相まったユニークなアイディアから、新たな観光サービス生まれるかもしれない。

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取材:山田紀子(旅行ジャーナリスト)

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