旅行・観光でこれから変わりそうな法律・制度を整理してみた - 民泊から通訳案内士まで【コラム】

こんにちは、弁護士の谷口です。

今回のコラムでは、観光立国の推進に向けて政府が検討している、旅行・観光関連の法制度の見直しの状況を概観したいと思います。

この数年、観光に関する諸制度について大きな見直しはありませんでしたが、これから数年間で、民泊サービスに関する新制度を筆頭に、旅行・観光関連の法制度は大きく変わっていくこととなりそうです。また、これらの制度見直しは、後述する観光ビジョンの「10の改革」のうちの1つに過ぎません。残りの「9の改革」についても観光庁が中心となって進めていくことになり、これからの観光行政、目が離せないものとなりそうです。

では、順を追って法制度の動きをみてみましょう。


「明日の日本を支える観光ビジョン」と「観光ビジョン実現プログラム2016」の策定

2016年3月、安倍総理が議長を務めた「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」が、「明日の日本を支える観光ビジョン」をとりまとめました。この観光ビジョンは、観光を基幹産業へと成長させ、日本が観光先進国となることを目指し、従来の目標を大きく引き上げる新たな目標(以下参照)を掲げるとともに、この目標の実現に向けて、

  • 視点1 観光資源の魅力を極め、地方創生の礎に
  • 視点2 観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が国の基幹産業に
  • 視点3 すべての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に

という3つの視点から、「10の改革」事項を提示するものです。

そして本年5月には、この観光ビジョンの確実な実現を図るための行動計画として、観光立国推進閣僚会議により、「観光ビジョン実現プログラム2016」が策定されました。


【観光ビジョンの目標値】

 

2020年目標値

2030年目標値

訪日外国人旅行者数4000万人(従来目標2000万人)6000万人(従来目標3000万人)
訪日外国人旅行消費額8兆円(2015年は3.5兆円)15兆円
地方部(三大都市圏以外)での外国人延べ宿泊者数7000万人泊1億3000万人泊
外国人リピーター数2400万人3600万人
日本人国内旅行消費額21兆円22兆円

 

観光関係の規制・制度の総合的な見直し

観光ビジョン及び実現プログラム(以下「観光ビジョン等」といいます。)では、「10の改革」の1つとして「古い規制を見直し、生産性を大切にする観光産業へ」が掲げられ、その内容として、通訳案内士、ランドオペレーター、宿泊業、旅行業、観光地再生・活性化ファンド(仮称)について、以下の観点から制度見直しを行うとしています(2017年中)。

なお、民泊サービスに関するルール整備については独立の項目が立てられ、その中で、観光庁及び厚生労働省が開催している「民泊サービスのあり方に関する検討会」での検討を進め、本年6月中を目処に最終とりまとめを行い、必要な法整備に取り組むこととされています。

【見直し事項一覧】

通訳案内士一定の品質確保を前提に、「業務独占規制」等、通訳ガイド制度を見直す。
ランドオペレーター問題のある事業者を適切に指導・監督できる制度を検討。
宿泊業◇生産性向上の観点  ◇多様な宿泊サービス提供の観点
旅行業着地型旅行商品の企画・提供をしやすい制度の整備。
観光地再生・活性化ファンド(仮称)観光地を面的に整備する投資ノウハウ等に関する機能を安定的、継続的に提供できる体制の整備を検討する。
民泊サービス「民泊サービスのあり方に関する検討会」での検討を進め、本年6月中を目処に最終とりまとめを行い、必要な法整備に取り組む。

規制改革実施計画の策定

また、6月2日には、内閣府規制改革会議による答申を踏まえて策定された規制改革実施計画が閣議決定されました。閣議決定とは、全閣僚が合意して政府の方針を決定する手続であり、行政における最上位の意思決定手続であり、極めて重要な意味を持ちます。

この規制改革実施計画でも、観光ビジョン等と同様、通訳案内士制度の見直しや訪日旅行商品を企画・手配するランドオペレーターに関する制度の導入について取り上げられています。

これらの見直し事項について、観光ビジョン等では、2017年中に見直しというスケジュールが設定されていましたが、規制改革実施計画では、2016年度中(2017年3月末日まで)に法案提出とされ、より具体的なスケジュールが示されました。

また、民泊サービスに関しても、規制改革実施計画では、2016年度中(2017年3月末日まで)に法案提出とされており、具体的なスケジュールが示されました。なお、同計画における民泊サービスに関する記載内容は、基本的には観光庁と厚生労働省による「民泊サービスのあり方に関する検討会」の検討内容と同様ですが、規制改革会議の答申を受けて、新制度について既存の旅館業法とは別の法制度とすることや、180日以下の範囲内で年間の営業日数の上限を設定すること等が記載されました。

閣議決定のレベルでこのような事項が記載されたことは、今後、制度を詰めていくに当たり非常に重要な意味を持つものと思われます。民泊サービスの検討状況の詳細は、前回のコラムで整理していますのでこちらもどうぞ。

 

観光行政のこれから

観光ビジョン等や規制改革実施計画によれば、2016年度中(2017年3月末日まで)に通訳案内士、ランドオペレーター、民泊サービスに関する法案が提出されることになります。2017年3月末日までに法案提出ということは、遅くとも来年1月に開会する通常国会に法案を提出することが必要で、そのためには、年内に法案の検討を終えなければなりません。また、旅行業等の他の項目についても2017年中に制度の見直しを行うこととされています。

これから急ピッチで検討が進められることになりますが、行政の検討状況については、その都度、本コラムでも取り上げようと思います。また、読者のみなさんから、観光に関わる法律での疑問点などがあれば、トラベルボイス編集部宛( contact@travelvoice.jp)にお寄せください。今後のコラム執筆で、テーマを設定する参考にさせていただきます。







谷口和寛(たにぐち かずひろ)

谷口和寛(たにぐち かずひろ)

弁護士法人御堂筋法律事務所 東京事務所所属弁護士。2014年5月から2016年4月まで任期付公務員として観光庁観光産業課の課長補佐として勤務。旅行業、宿泊業、民泊など観光産業の法務を担当し、「民泊サービスのあり方に関する検討会」の事務局、「イベント民泊ガイドライン」、「OTAガイドライン」、「障害者差別解消法ガイドライン(旅行業パートのみ)」、「受注型BtoB約款」の企画・立案を担当。2010年3月東京大学法科大学院卒業、2011年12月弁護士登録。

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