観光業界の就職率をあげるには何が必要か? 大学の観光教育を考えるシンポジウムで教授陣が議論

近年、観光産業に関わる人材育成を重視する声が各方面から高まっている。日本全国の大学の観光学部・学科には約5000人が在籍しているが、観光業界の就職率は16.7%にとどまる。しかし、なかなか具体的な改善策が出ないのも実情だ。

どうすれば学生が進んで観光業界を目指し、観光業界が積極的に採用するようになるのか? 現状把握と打開策を探るため、2016年9月23日、ツーリズムEXPOジャパン2016会場でパネルディスカッション「産官学連携による新たなる観光教育の可能性」が開催された。

モデレーターは東洋大学国際地域学部で国際観光学科長を務める島川崇教授。パネリストとして観光庁観光産業課の森下晶美課長補佐、玉川大学観光学部の野村尚司教授、東洋大学国際観光学科・産学連携観光人材育成プロジェクトチームの永井恵一研究員の3名が登壇した。

「高度な人材育成プログラム」が必須 ―各大学の取り組み紹介

森下氏からは、観光業界での人材育成の現状と課題が報告された。冒頭に挙げた大学の観光学部・学科の卒業生に関するデータは、同氏から示されたものだ。

「観光産業を牽引するトップレベルの経営人材、地域の観光産業の現場を担う中核人材、それぞれを育成するプログラムが必要」。こう語る森下氏は、前者に対する具体策として、観光庁が支援する形で2018年度から、京都大学と一橋大学の2大学に「観光MBAコース」が新設される予定であることを明らかにした。

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続いて、野村氏からは玉川大学観光学部の取り組み紹介が行われた。同学部の学生は2年生と3年生の計2回、観光業界でのインターンシップ(職業体験)を行う。1度目は国内企業が中心で、2回目は海外も対象地となる。

「インターンシップは観光実務を知るだけでなく、自分の適性を把握するよい機会。企業との距離感が狭まり、就職先として人気の有名企業だけでなく、中堅や中小企業で就労する割合も高まる」と野村氏。「特に2年生で行うインターンシップは意義が大きい」として、早期の実施ほど進路選択に効果があり、短期間でも実施した方がいいと提案した。

永井氏からは、東洋大学が国際観光学科を昇格させる形で、2017年度に国際観光学部を創設することが報告された。「現在、同学科の卒業生の半数が観光業界に就職している。さらにその傾向を加速させ、産学連携の強化を目指したい」と学部創設の狙いが語られた。

新学部は5コースで構成され、最も産学連携の色が強いのが「観光プロフェッショナルコース」。3年生までの3年間、午前中は観光産業の企業インターンシップ、午後に授業というカリキュラムを組み、働きながら学ぶことで即戦力の育成を目指す。

観光政策を提言できる人材育成を目指す「観光政策コース」の設置に伴い、国際ネットワークの構築も進めている。今年8月から国連世界観光機関(UNWTO)のマドリッド本部に学生1名をインターンシップとして派遣していることも語られた。

写真左から、観光庁観光産業課 森下晶美課長補佐、玉川大学観光学部 野村尚司教授、東洋大学国際観光学科・産学連携観光人材育成プロジェクトチーム 永井恵一研究員

産官学のミスマッチ ―その解消が最大のカギに

森下氏は「観光産業に進む学生が少ない理由として、産官学のミスマッチがよく指摘されるが、具体的な中身について考えるべきでは」と問題提起を行った。「例えば、企業は求める人材や能力を具体的に示し、大学は学生の能力の『見える化』を目指すことはできないか。行政は両者の橋渡しについて検討が必要」と語った。

これに対し、「産官学のミスマッチは不可避という前提のもと、お互いができること、できないことを積極的に開示することが必要では」と述べたのが野村氏だ。同氏は「強みだけでなく弱みやマイナス面も明らかにし、透明性を担保しながら三者が議論することが大事では。それによって業界に対する信頼や学生の覚悟も生まれる」と語った。

島川氏は「政府、産業、大学が互いの欠点に言及するだけでは、ミスマッチはいつまでも解消されず、貴重な人材が観光以外の産業に流出する恐れがある」という懸念を示した。

そして、議論のまとめとして「自分以外のステークホルダーを責めるのは、裏を返せば自らの欠点を隠すためと言える。できることを行い、自分から変わっていくことがミスマッチを解消する最大の鍵となるのでは」としめくくった。

東洋大学国際地域学部国際観光学科長 島川崇教授(モデレーター)

取材・記事 井上理江

写真 鷲山淳

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