バケーションレンタルサービス「バカーサ(Vacasa)」で仕事をするようになって間もなく1年になるが、私はその間の自分のがんばりを褒めてあげたいと思う。この1年の間に、我が社のポートフォリオは70%近く増加した。
10年前であれば、事業の安定性を維持しつつこのような速度で成長することは不可能だっただろう。しかし今日、事業が高度に成長するためのシステムを維持することは、業界リーダーを目指すすべてのプロパティマネージャーにとって当たり前のことになった。
昨年は学ぶべきことが多く、事業の成長計画を上回るような伸びを達成しながらも、さらに改善と効率化を進める余地も残った。
読者の役に立つかもしれない(ぜひ、そうしてもらいたいと希望する)情報を共有するために、高度成長を遂げている業界内でスケールアップするために最も有効な、運営上の優先事項を以下に挙げておこう。
1. どんな場合も「一貫性を保つ」ことを習慣化する
スタッフのトレーニングからアメニティのタオルに至るまで、組織の運営システムは国内外において一貫した経験をもたらさなくてはいけない。
新しい市場が毎月創出されるような高度成長の真っただ中にいる業界で動くとき、一貫性を保つことはなかなか難しい。全てに当てはまる「万能の解決法」を生み出したいという誘惑に負けず、その代わりに一貫性を習慣として確立するべきだ。
成功した運営システムは素晴らしい人材によって支えられるものであり、市場をまたいだスケールアップを目指す場合、一貫性を習慣として守ることは最優先事項の1つでなければならない。
我が社では、新任の地域リーダーをトレーニングのためにポートランドの本部へ招聘している。中央の本部で受講するカリキュラムを設けることによって、各地域で確実に一貫性を保てるようにする。さらに重要なのは、本部への出張は各スタッフにとって、より大きなチームと会う機会になるということだ。
自分が担当する地域よりはるかに大きな組織の一部であると認識することは、地域リーダーを力づける。また、本部訪問で学習した知識を各チームに持ち帰り浸透させることにも役立つ。
さらに深く考えてみてほしい。
一貫性を習慣とすることは、1週間のトレーニングだけで築かれるものではない。双方向のオープンなコミュニケーションを必要とする。我が社では「バカンファレンス(Vaconference)」という複数日にわたるタウンホール・ミーティングを毎年開催し、本部と地域のサポートチームが一堂に会してネットワークを作り、式典を行い、会社が次に向かう方向を垣間見るのだ。
2. 柔軟なシステムを構築する
皮肉だが、複数の市場にまたがる営業システムを成功させるために一貫性を保つには、多様性を受け入れることが必要だ。
たとえば、わが社は厳しい各部署の達成基準を定めたスタンダード・ユニット・ガイドライン(SUAs)を設けているが、達成する方法は各地域リーダーの自由に任せた方が良いということがわかった。キーウェストの物件とバーモントの物件には、それぞれ異なった管理方法が必要だ。世界各地の業者は、それぞれ信頼性と品質の点において異なるからだ。
最終的な結果は、トレーニングとSUAsに重点を置いたものになるが、地域独特のニーズに適応することができるように、システムには十分な柔軟性を持たせておくほうがいい。そのための最良の方法は、地域リーダーを信頼して権限を与え、彼らの市場において一貫性を成し遂げる方法について決定させることだろう。
また、一貫性のための多様性は、基準達成のみに限られていることではない。必ず定期的にSUAsをチェックし、変革を恐れずに必要に応じてチームを再トレーニングするべきだ。
「安定したい」という衝動とも戦わなくてはならない。宿泊客と物件所有者からのフィードバックに基づいてSUAsを絶え間なく発展させていかなければならない。それは、現場から有意義なデータを取り込む能力を持つシステムを構築する必要があることを意味する。
3. 「オペレーショナル・エクセレンス」を正確に評価する
バカーサにおいて、私が最も重要だと考えているのは「顧客満足」だ。顧客満足度を向上するために我々は様々な手段を用いるが、私が気に入っている方法の一つに「ネット・プロモーター・スコア(NPS)」がある。より一貫した包括的なフィードバックを得るために、物件所有者と宿泊客の両方から、2つのNPSフローをシステムに取り入れてみてほしい。
NPSとは、あるサービスを「友人に推薦したいか否か」という意向を測る指標だ。簡単に参加できるので、通常は回答率が高い。NPSメールが自動送信される運営システムを構築することで、とても有益かつリアルタイムの実績データを得ることができる。
さらに深い考察のためには、肯定的・否定的それぞれの評価を与えた顧客に対して個別のNPSフローを作成し、引き続き異なった質問をするとよい。こういったより詳細な質問は、システムのどこが機能しているか、どこが不充分かを突き止めるのに役に立つ。また、チームの士気を上げるためにも大きく作用する。
バカーサを例に挙げれば、過去1年間にわたって、物件所有者のNPSの数値が81%上昇した。それは、どこを拠点にしているかに関わらず、我が社の全チームにとって喜ばしい具体的な成功だったといえる。
4. 構造的効果を優先する - 全てに適用する「万能薬」はない
成長する業界の環境において組織の構造を形作る際に、1つの方法が全てに適用することはほとんどない。各業界で最大限の効果を発揮するには、「オーダーメイド」が可能な活動的な組織を築くのがいいだろう。たとえば、密集したエリアの50物件に対応するスタッフの数は、移動に3時間かかる地域に散らばる50物件より少なくて済む、ということだ。
柔軟性を欠いてすべての市場に対して同一の枠組みを押しつけてはいけない。地域の現場リーダーとともに、地域ごとの微妙な違いや長所に対応できる組織を築くこと。また、組織だけでなくチームに対しても柔軟であることが重要だ。
新しい市場に参入する際は「ゼネラリスト」の人数を増やす傾向に対して、事業が確立した後は、物件所有者との交渉、メンテナンス管理などに集中するために「スペシャリスト」を増やすことが賢明だろう。また、高成長の段階に入る前に、必ず事業効率を改善するためのテクノロジーに投資をするべきだ。
ハウスキーパーが掃除中に事務所のコンピュータに何度もアクセスしているようでは、
事業の急速な成長は望めない。チケット発券やロギング時間の管理から清掃状況のリアルタイム記録受信まで、マネージャーもハウスキーパーも全てスマホで対応できるようでなければならない。
5. パートナーと協力網を構築する
人事チームとの良い協力関係は、企業の一貫性を保つ上できわめて重要だ。一部のマネージャー(特に若いマネージャー)は、人事との関係が最先端の事業にとって障害になるものと考えてしまう。最良の人材を雇うためには時間が掛かるが、最終的には利益をもたらす。的確に利用することで、人事チームは最高のパートナーに成り得るということだ。
わが社の地域ディレクターを例にとれば、その地域の従業員の雇用と管理に特化した人事チームをビジネス・パートナーとしている。これらのチームには、例えばハウスキーパー、現場マネージャーなどに特化した専門のリクルーターもいる。地域ディレクターは、パートナーである人事チームに、求人募集から面談、採用決定まですべてを任せている。
もう一つ、顧客サービスのチームとパートナー関係を築くことも不可欠だ。バカーサでは、各地域のディレクターは、専用の顧客サービス・エージェントと組んでおり、彼らは地元市場やそこで働いている組織に関する専門知識を持っている。
エージェントは、債権の発行から物件の価格評価、新人研修までのすべてをサポートする。適所でパートナーの協力を得ることによって、現場スタッフは管理業務に時間を割かずに物件に集中することができる。
テクノロジーの進歩の恩恵によって、数年前には克服しがたい運営上の難問と思えたことが実行できるだけでなく、当り前のことになっている。我々の業界が発展し続ける中、読者のみなさんが一貫して顧客に最高の経験をもたらし、事業をスケールアップするために、我が社の事業運営ノウハウが参考になれば幸いだ。
※編集部注:この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。
※オリジナル記事:How to scale in high-growth online travel
著者:ボブ・ミルン(Bob Milne) Vacasa 最高執行責任者(COO)