航空券のディストリビューションビジネスを展開するハーンエアーが、日本での取組みを強化する。来日した同社セールス&ディストリビューション担当副社長のキンバリー・ロング氏(写真右)が明らかにした。 *写真左はラルフ・メルスマン グローバル・アカウント・マネジメント・ディレクター。
ハーンエアーのビジネスは世界中の航空会社とIATA旅行代理店とを結ぶB2B。フランクフルトのハーン空港を拠点に小型機に定期便を運航しているが、ビジネスの主力となるのは主要GDSを介したHR-169プレート発券サービスだ。現在、300社を超える航空会社と鉄道会社と契約し、世界190カ国の9万5000社の旅行会社と取引を行っている。
OTAが存在感を高め、航空会社への直接予約も増え、旅行代理店へのゼロコミッションが当たり前になっている現在、デルタ航空やカンタス航空など航空業界でキャリアを積んできたロング氏は、「リアルな旅行会社の存在は依然として大きい」と話す。ドイツの旅行会社のなかには、コンサルタント料を取るところもあるという例を出しながら、「旅行会社には、お金になる(価値ある)仕事と有益な情報がある」との見解だ。
同社が提供するサービスで旅行会社にとって最大のメリットは、旅行会社と航空会社の航空券精算機関であるBSPジャパンに未加入の航空会社の発券ができること。通常、日本国内ではBSPジャパン未加入の航空会社の航空券発券はできない。新興エアラインや海外to海外という航空券では、BSPジャパン未加入の航空会社が少なくなく、旅行会社スタッフの「困ったときのハンエアー」としてその存在感を高めてきた。
ハーンエアー・ジャパン取締役営業本部長の山室英雄氏によると、昨年、このサービスを活用した日本市場での取引で急増したのはブラジルのGOL航空。これは、ブラジルでFIFAワールドカップが行われ、南米の航空需要が急増して発生した「特需」だったという。
このほか、日本で多く切られる航空券として、アラスカ航空、スペインのLCCプエリング航空、ジェットブルー、ヴァージン・オーストラリア、エーゲ航空などの名を挙げた。日本市場にとって、ニッチな航空会社ばかり。こうした航空券は、旅行者自身が手配するのが困難で、プロである旅行会社の「お金になる仕事と有益な情報(ロング氏)」といえるだろう。
一方、日本の航空会社ではJAL・ANAと契約。訪日外国人の増加にともない、海外での日本の地方路線の発券も増えているようだ。
同社グローバル・アカウント・マネージメント担当ディレクターのラルフ・マセルマン氏は「最近では北米で日本トランスオーシャン航空の那覇/石垣線の発券が増えている」と明かす。外国人の意外な路線での発券状況は、隠れた需要ともとれ、「航空会社にとってマーケティングデータとしても利用できる(山室氏)」とアピールする。
また、ロング氏が「ハーンエアーの強みのひとつ」としてアピールするのが無料でチケットに補償保険を付保する「Securtix」だ。これは、パートナーである航空会社や鉄道会社が破産し、そのサービスを受けられなくなった場合、払い戻しを保証するもの。破産前に旅行を開始し、現地で足止めされた旅客に対して、チケットの未使用区間の払い戻しを行うほか、元のチケットと新規購入したチケットの差額について合計125ユーロまで払い戻す。
さらに、食事代やホテル宿泊代(最大75ユーロまで)、現地交通費など追加で発生した費用(最大50ユーロまで)を補償。山室氏は、2012年3月に経営難からIATAからの発券停止を受けたインド・キングフィッシャー航空の例を挙げ、この補償のメリットを強調した。
「航空会社にとっても、旅行会社にとっても、ハンエアーを利用することで生じるリスクはなにもない」とロング氏。しかし、日本の旅行会社での認知度はまだ限定的で、「日本市場でのビジネスは拡大しているものの、まだシェアは低い」との認識だ。マセルマン氏は「システムを一度利用してもらえれば、そのメリットはすぐに分かってもらえるはず」と自信を示す。今後は、日本語ホームページの強化や旅行会社向けのセミナーやトレーニングを通じて、認知度の向上に努めていく考えだ。
このほか、ハーンエアーは航空会社向けのGDS販売のアウトソーシングビジネスにも力を入れている。これは、GDSとの契約がない航空会社がハンエアーのH1コードを通じて航空券を流通させることができるシステム。これを利用すれば、すべてのGDSへの接続が可能になり、「eアライアンス」パートナーとして自社便をハーンエアーのHR-169チケットで発券できる。また、発券だけでなく、予約、決済、スケジュールや運賃のファイリング、インベントリー管理などを包括的に請け負う。
ハーンエアーは、日本のLCCや新興航空会社とのeアライアンス・パートナー契約にも乗り出している。ロング氏は、「世界の旅行会社は日本のLCCの参加を待っている」と話し、今後売り込みに力を入れてく考えを明らかにした。