国際ゲイ&レズビアン旅行協会(IGLTA)は、ツーリズムEXPOジャパン2015に合わせて、「Understanding the LGBT Travel Market」をテーマとしたセミナーを開催した。近年新たな旅行セグメントとして注目を集めるLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスセクシャル)。講演を行ったIGLTAコミュニケーション・ディレクターのロアン・ハルデン氏は、「日本でもレズビアンカップルが公に認められるなど、変化が現れている」として、日本のLGBT旅行市場へ期待を込める。
世界のLGBT旅行市場は2000億ドル
IGLTA によると、世界のLGBT旅行者は約5600万人。その経済効果は、LGBT先進国のアメリカで約750億ドル〜1000億ドル、世界では2000億ドルと言われている。ハルデン氏はLGBT旅行者の特徴として、「頻繁に旅行に出かけ、消費額も相対的に多い。また、気に入ったところであれば何度も訪れるリピーターも多い」と説明した。
世界では「プライド」パレードなどさまざまなLGBT関連のイベントが行われており、そこに集うLGBT旅行者も多い。日本でも「東京レインボープライド」などが行われているほか、渋谷区が全国に先駆けて同性愛者を公認し、「パートナーシップ証明書」を発行する条例を可決するなど、LGBTの認知度は上がってきた。「日本の旅行業界でも、こうしたコミュニティーの存在に対する理解が進むのではないか」とハルデン氏は話す。
日本へのLGBTリピーターも増加 -コミュニティで大きなクチコミ効果
では、日本でのLGBT旅行の現状はどうなっているのだろうか。アジアでIGLTAのアンバサダーを務めているSKトラベルコンサルティング代表取締役社長の小泉伸太郎氏は、インバウンドLGBTについて「私が関わっているだけでも、毎年、欧米から3〜4組のカップルがリピートしている」と明かす。小泉氏は、ゲイバーなど日本のLGBTアクティビティーを紹介するほか、外国人受け入れについて日本のゲイバー側の相談にものっているという。「インバウンド商品開発では、地域とのかかわりあいが大切」と訴える。
また、小泉氏は毎年10月に行われる台北での大規模なLGBTパレードを例に出し、「LGBTというキーワードで、アジア内で双方向の交流につながっていく。これが欧米につながれば、さらにビジネスは拡大する」と未来を見据える。
同じく日本でIGLTAアンバサダーを務めるホテルグランヴィア京都営業推進室担当室長の池内志帆氏は、IGLTAメンバーについて説明。現在、世界80カ国で2000社以上がメンバーになっており、そのうち日本は17社にとどまっている。それでも3年前は4社だったことから、「確実に認知は上がっている」との認識だ。
ホテルグランヴィア京都は2006年に日本で最初にIGLTA会員になった。池内氏は「LGBTにとって京都は保守的なイメージが強く、訪問するうえで不安に思っている旅行者が多い」と説明。東京や大阪でもLGBTパレードが開催されていることなど、日本の現状を世界に発信していく必要性を強調する。また、「これまでは東京でストップオーバーして、そのままバリやバンコクに向かうLGBTが多かったが、最近では日本を楽しむLGBTも増えてきた」と市場の変化にも言及した。
さらに池内氏はLGBT市場の特長として、「ネットワークが強いため、ひとつつながるとその後の広がりが大きい」と話す。また、ハルデン氏も世界のLGBTコミュニティーでの口コミ効果の大きさに言及。小泉氏も双方向交流の可能性に触れるように、一般旅行者以上にフィードバックやレビューが需要取り込みのカギになりそうだ。
LGBT取り込みで必要な3つのキーワード -「本物」「かかわり」「知る」
ハルデン氏は、LGBT市場への取り組みについて3つのキーワードを挙げた。まず、「本物であること」。ハルデン氏は「たとえば、ゲイバーを多く用意する必要はない。自然のままの本物の観光素材を提供すること」と説明する。次に「かかわり合い」を挙げ、「LGBTの人たちと積極的にコミュニケーションを取って欲しい」と訴えた。3つ目は「知ること」。日本はLGBT婚が行われた世界で22番目の国になったことなどを例に挙げ、「LGBTの世界で何が起こっているのかに注目して欲しい」と強調した。
IGLTAは世界各地で年次総会を開催しているほか、ITBベルリンなど旅行関連のトレードショーにも出展するなど、市場拡大に積極的に取り組んでいる。「商品開発や情報収集でIGLTAを活用して欲しい」とハルデン氏。日本の旅行業界にメンバーシップへの参加を呼びかけた。
特化したプロダクトは必要なし -特定オプションがリピーター増に
LGBTは特定しにくいマーケットだ。ハラルフードやプレイヤールームなど特別なアレンジが必要なムスリム旅行者とは異なり、旅行形態は一般旅行者と変わりはない。たとえば、ホテルの予約でもあえてLGBTであると特定する必要は、旅行者側にもホテル側にもない。ツインよりもダブルを好むのであれば、それをリクエストするだけ。一般の旅行者と変わりはなく、文化や風習の違いと同じことといえるかもしれない。
この点について、ハルデン氏も「旅行会社は、LGBTに特化したプロダクトを造成する必要はない。ただ、オプションで彼らの好むアクティビティーを提供することが大切で、それがリピーターに繋がるだろう。また、ウェディングなど特別なイベントでは、クライアントの相談が必要になってくる」との見解を示す。日本の旅行業界にまず必要なことは、LGBTに特化したビジネスを展開するというよりも、彼らの存在を理解することなのだろう。
取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹