国連世界観光機関(UNWTO)は、今後10年の世界の観光需要と傾向を分析した総合リポートを発表した。これは、UNWTOが示す新しい世界観光のバロメーターとなるもの。それによると、今後10年連続で世界の観光需要は成長すると予測されている。
2019年の国際観光客数はいずれの地域でも増加したが、イギリスのブレグジット、トーマス・クックの破綻、特定地域の社会的混乱、世界経済の成長鈍化などから、大きな伸びを示した2017年と2018年と比較すると、その成長率は緩やかなものとなった。この影響は先進国、特にヨーロッパとアジア太平洋で見られた。
UNWTOは2020年の国際観光客数について、前年比3%〜4%の成長率を予測。最新のUNWTO信頼指数(UNWTO Confidence Index)は慎重な見通しを示しているが、その中の回答者のうち47%が前年よりよくなると答え、前年と同じレベルとの回答も43%となった。今年は、東京オリンピック・パラリンピックなどの大規模スポーツ大会、ドバイEXPO2020などの文化イベントなどが、旅行市場に好影響を与えると期待されている。
UNWTOのズラブ・ポロリカシュヴィリ事務局長は、「不確実性と不安定性の現代において、観光は信頼できる経済分野であり続ける」とコメント。最近下方修正された世界経済の予測、国際貿易の緊張、社会不安、地政学的不確実性を背景に、「観光産業は世界経済を上回るペースで成長していく。単なる成長ではなく、よりよい方向に成長することが大切だ」と強調した。
UNWTOは「責任ある成長」の必要性を提唱しているが、UNWTOが定めた2030アジェンダと17の持続可能な開発目標(SDGs)を達成するには、10年しか残されていないとの認識を持っている。
2019年の地域別の国際観光客数を見てみると、最も成長率が高かったのは中東で、世界平均の倍となる8%。アジア太平洋の成長率は鈍化したものの、5%と引き続き世界平均を上回った。
ヨーロッパは、前年よりも低い4%となったものの、観光客数では引き続き世界トップで、昨年は7億4300万人を迎え入れた(全体の51%)。南北アメリカは2%止まり。カリブ海諸国は2017年ハリケーン被害から回復しているものの、南米は社会的政治的混乱から観光客数を減少させている。アフリカは4%。北アフリカは9%と高い成長率を残した一方で、サハラ砂漠以南は1.5%と地域によって差が大きくなった。
世界経済の鈍化にも関わらず、観光消費は成長。フランスでは、トップ10市場の観光消費が11%増と大きく増加し、ドル高の影響でアメリカも6%増となった。
一方で、ブラジル、サウジアラビアなどいくつかの新興国では、観光消費は低下。中国ではアウトバウンド旅行者は14%増となったものの、消費額は4%減となった。
ポロリカシュヴィリ事務局長は「国際観光で年間10億米ドル以上稼ぐ国の数は、1998年比で倍になった」と説明。「私たちが直面する課題は、できるだけ利益を共有すること。誰も取り残さないこと。2020年、UNWTOは地方開発年(Year of Tourism and Rural Development)と定めている。各地方コミュニティーでの前向きな変革をリードするとともに、雇用創出、地域活性化、文化保護を支援していく」と述べている。