2021年を迎え、2種類のワクチンが世界に普及したとしても、世界の観光産業は厄介な課題を抱えたままだ。それでも、旅行業界は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制しつつ、停止と再開を繰り返しながら、観光の復活に向けて前に進まなければならない。
各国の観光局は予算と従業員を削減しているし、旅行者が旅行に対する自信を取り戻す前に倒産してしまう恐れのある観光事業者は多い。一方で、ワクチンに対して懐疑的な見方も出ている。マスク着用に予防効果はないと思われていたときと同じように。
それでも、世界観光機関(UNWTO)は、「観光の再開にとって、そしてそれを頼りにしている何百万人という人たちにとって、ワクチンの大規模接種は待ちきれないこと」と言っている。実は、そこに世界観光の最大の課題がある。感染拡大を抑制しながら、停止と再開を繰り返すなかで、観光業界はどのように観光客を迎え入れればいいのだろうか。
停止と再開のなかで、観光復活への模索が続く
「私たちは異常な時代にいる。BC時代とAV時代の間、つまり、Before CovidとAfter Vaccineの間、私たちはちょうどその中間にいる」。ディスカバー・プエルトリコCEOのブラッド・ディーン氏はそう話す。
中間にいるからこそ、一度感染の抑え込みに成功した国でも、感染者が増加傾向の国からの旅行者受け入れを再開したことで、再度ロックダウンをせざるを得ない状況に陥っている。
カリブ海に浮かぶグレナダ島では、島国特有の厳格な入国規制を実施し、感染による死者もゼロながら、昨年12月にオールインクルーシブのリゾートで感染者を出した。グレナダのクラリス・モデステ-カーウェン観光大臣は、取材に対して「2021年に入っても、2020年に学んだ教訓や観光復活に向けた取り組みは何も変わらない。大切なことは、業界がマスクの着用とソーシャル・ディスタンスの確保を徹底することだ」と語った。
そして、「感染者の確認後、感染対策をさらに強化した。そして再度、私たちは学んだ。新型コロナウイルスは、そう簡単に克服できない」と続けた。
パートナーシップと透明性が引き続き重要に
海外旅行が本格的に復活するまで、各国はイノベーションを続けるとともに、他の地域との協力を強化することが必要になってくる。もちろん、地元の保健当局、政府、研究機関との連携も重要だ。
世界の観光地域が加盟する組織「デスティネーション・インターナショナル(DI)」のCEOダン・ウェルシュ氏は「観光地は、少なくとも地元の人たちをそれぞれのコミュニティに呼び戻すことができるかどうか模索している」と話す。
また、透明性も重要なカギになる。観光にとって悪いイメージを隠そうとする時代はもう終わっている。
デイスカバー・プエルトリコのディーン氏は「透明性は今や、その地域の特性を出すものだ。私たちは消費者の旅行に対する自信について話すが、実際には信頼ということだろう。私たちが消費者の信頼を勝ち得れば、彼らの旅行に対する自信も高まるだろう」と話す。
変わりやすい旅行者の心理
感染のピークアウトに合わせて、旅行者の心理も変化する。観光地域は、それに合わせて機敏で即応的な対応が求められる。マーケティング担当者は、旅行者の視点を定期的に見定め、旅行者に関連する価値を提供していく必要がある。
旅行者は、今年旅行をするなら、どのような旅行を快適だと思っているのだろうか。
スキフトが昨年12月に実施した調査では、2021年最初の旅行は自宅から100マイル(約160km)以上の目的地に飛行機で行くと答えた米国人はたった16%。11月の調査から4ポイント減少した。一方、海外旅行と答えたのは12%。27%が車による国内旅行と答えた。海外旅行への意欲の低さは3月以降変わっていない。
また、エクスペディア・グループが11カ国1万1000人に実施した調査でも、大部分が海外旅行は2021年4月以降と回答。北米、ヨーロッパ、中東、アフリカでは第3四半期以降の答えが多かった。
デスティネーション・インターナショナルのウェルシュ氏は「人々は、旅行をしなければならないとは思っていない。自分と自分の家族にとって最善のときに、旅行に出かけるつもりなのだろう」と話す。
「どこかで希望を持たなければならない」
ニュージーランドやシンガポールなどは、戦略的かつ段階的に隣国との国境を開放している。
シンガポール政府観光局アメリカ地域大陸ディレクターのレイチェル・ロー氏は「シンガポールは、リスクに応じて、より多くの国や地域との取り決めを段階的に実行に移し、インバウンド旅行者の受け入れを調整している」と話す。
しかし、こうした国が、ワクチンの大規模接種の前に、国境を多くの国に広げながら、同時に感染を抑制できるかどうか、まだ誰にも分からない。
旅行業界が2021年に、感染を抑制しながら緩やかな回復に向けて準備を進めようとしている中、楽観的な見方も出ている。とりわけ、政権が交代する米国では、観光や気候変動に対して積極的になると見られる。
また、多くの国が、感染者数が抑えられ、旅行者の自信が戻れば、自然と旅行需要は高まると見ている。グレナダのモデステ-カーウェン観光大臣は「感染者がゼロになったとき、何千人もの観光客が訪れてくれた。だから、どこかで希望を持たなければならない」と話した。
※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:The Biggest Challenge to Tourism’s Recovery in 2021
著者: リバウィット・リリー・ギルマ(Lebawit Lily Girma)、Skift