修学旅行に「探究的な学習」が求められる理由とは? 背景にある大学入試改革、中学・高校の取り組みに温度差も【コラム】

みなさんこんにちは。日本修学旅行協会の竹内秀一です。

最近、旅行会社や修学旅行の受入地に「探究的な学習」ができるようなプログラムはないか、という学校からの問い合わせが多くあると聞いています。

「探究的な学習」は、2018年3月に告示された現行の高等学校学習指導要領で、これまでの「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」にかわり、「古典探究」や「理数探究」といった「〇〇探究」という名称の科目が6つも新設されたことから俄然注目されるようになりました。今回のコラムでは、「探究的な学習」と修学旅行とのかかわりについて、私見を述べてみたいと思います。

「探究」が学習指導要領に登場したのはいつか?

学習指導要領は、国が告示する、学校が主な教育活動を編成する際の基準となるもので、およそ10年ごとに改訂されてきました。

「探究」という文言は、1998年に告示された中学校学習指導要領の総則に「学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て…」として早くも登場しています。翌年に告示された高等学校学習指導要領の総則にも同様の内容が記されています。2009年に告示された高等学校学習指導要領では、「総合的な学習の時間」が国語や数学などの「教科」と並ぶ位置づけとなり、その「第1目標」と「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」に「探究的な学習」という文言が明確に現れてきます。

こうした段階を経て、現行の高等学校学習指導要領となるわけですが、「探究活動」や「探究的な学習」が突然始まったものでないことがおわかりいただけたことと思います。

大学入試改革と「探究的な学習」

それではなぜ、いまになって「探究的な学習」がクローズアップされているのか。その背景には「高大接続改革」、つまり高校教育と大学教育および大学入試の三者を一体的に改革し、「学力の3要素」、すなわち1)知識・技能、2)思考力、判断力、表現力、3)主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度、を確実に育成・評価するという国の取り組みがあると考えています。

これまで、高校、とりわけ普通科高校の授業は、大学入試を意識して知識・技能を優先する、いわゆる「知識伝達型」の授業が主流となっていました。しかし、これでは変化の激しい予測困難な時代を生き抜いていく力(=「生きる力」)を育むことはできないとして、現行の学習指導要領では、とくに「思考力、判断力、表現力」と「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」をしっかりと身につけさせることを強調するようになりました。「探究的な学習」とは、まさにそのための学習だといえるのです。

大学入試は、すでに2021年度から一般選抜・学校推薦型選抜・総合型選抜の3つの選抜方法が導入されています。文部科学省の調査によると、2023年度の総合型選抜による入学者数は国公私立大学全体で14.8%、この割合は2021年度以来毎年度増加しています。AO入試に代わって導入された総合型選抜では、これまで以上に受験生の学力を求めるようになりましたが、同時に自己申告書をはじめとする書類や面接・小論文、プレゼンテーション、グループディスカッション、そして「自分はこの大学で学びたい」という意欲を重視し、受験生の資質・能力や適性を多面的に評価して合否を判定しています。

キャリア・パスポートと「総合的な探究の時間」

この総合型選抜や学校推薦型選抜で大きな役割を果たすようになったのが、2020年度から小学校・中学校・高校に導入されたキャリア・パスポートです。これは、小学校から高校までのキャリア形成に関わる自己の活動を振り返り、自分自身の変容や成長を自己評価できるように蓄積していく記録で、小学校から高校まで引き継がれていきます。そして、それは学校推薦における調査書や総合型選抜における自己申告書(活動報告書、入学希望理由書、学修計画書等)や面接などに活用されることになるのです。

キャリア・パスポートは自治体によって形式はさまざまですが、文部科学省が示している高校生用のサンプルには「総合的な探究の時間について」というシートがあります。つまり、高校生のキャリアにおいて「総合的な探究の時間」でどのような活動をしてきたのか、ということが重視されているわけです。

普通科高校のなかには、「総合的な学習の時間」にあまり積極的に取り組んでこなかった学校もありましたが、大学入試やキャリア・パスポートと「総合的な探究の時間」とがリンクすることになれば、これに取り組む姿勢が変わってくるのは当然のことと思われます。

「探究的な学習」がクローズアップされるようになった背景

「探究的な学習」と修学旅行

それでは、「探究的な学習」とは、どのような学習なのでしょうか。

まず、学校が自校の教育目標や地域の実態、生徒の特性などを踏まえて探究課題を設定し、生徒はそれを前提に「実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析し、まとめ・表現する」という探究の過程を繰り返すことによって「よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力」を身につけていく学習であるとされています。そして探究の過程では、「自然体験や就業体験活動、ボランティア活動などの社会体験、ものづくり、生産活動などの体験活動(中略)などの学習活動を積極的に取り入れること」(高等学校学習指導要領 第4章 総合的な探究の時間 第3の2「6」)とあるように、体験活動を通して学ぶことが求められています。

しかしながら、学習指導要領にあげられているような体験活動を、学校内だけでおこなうことはとても難しい。一方、修学旅行では、以前からこのような体験活動がおこなわれてきました。

学校行事の一つである修学旅行は、特別活動に属しています。したがって、「総合的な学習の時間」は特別活動とは異なる教育活動ですから、修学旅行の事前学習や事後学習は「総合的な学習の時間」に行うことができない、というのが大原則でした。ところが、「総合的な探究の時間」に関する学習指導要領解説では、「修学旅行と関連を図る場合は(中略)一連の学習活動が探究となっていることが必要である」とされていて、一定の条件はあるものの「総合的な探究の時間」と修学旅行との関連づけができることになっています。

「探究的な学習」における学習活動

学校が望む修学旅行の「探究学習」プログラムとは

そこで学校は、修学旅行での体験活動に「探究的な学習」の要素を加えることで、「総合的な探究の時間」で必要とされている条件を満たそうとするわけです。学校が、受入地(施設)に「探究的な学習」ができるプログラムを求める理由はここにあると考えています。そのため、修学旅行の受入地(施設)が探究型の体験プログラムをつくっていく際には、そこでの体験活動が学習指導要領にいう「探究」活動であるための条件を踏まえる必要があるわけです。

一方、学校は、これまで感想文を書いたり旅行先でお世話になった方々にお礼の手紙を書いたりして済ませることが多かった事後学習を、「探究的な学習」にふさわしい充実したものにしていかなければなりません。たとえば、修学旅行で学んだことをグループごとに話し合い、その内容をまとめて発表し、それについてクラス全体で議論する。つまり「整理・分析」、「まとめ・表現」をしっかりとおこない、その成果を次の探究につなげていくことが大切になってくるのです。ですから、学校に戻ってからおこなわれる事後学習への受入地(施設)からのサポート、たとえば、生徒たちのディスカッションや発表会にオンラインで参加する、といったことがあれば、学校としてはとてもありがたいのです。

また、「探究的な学習」での「整理・分析」・「まとめ・表現」の一部を、ワークショップやディスカッションなどとして現地学習の中で行うことも望ましいプログラムです。第1回コラムで紹介した長崎市をはじめ、いくつかの受入地(施設)ではすでにこのようなプログラムが運用されていて、多くの学校が旅程に取り入れています。

高校が求めるこれからの修学旅行のあり方

「探究的な学習」への取り組みの温度差

ただし、「探究的な学習」への取り組みは、学校によってかなりの温度差があります。

また、高等学校学習指導要領総則の第2款3(2)のウ(ウ)に、工業高校や商業高校などの職業学科においては、特例として「課題研究等の履修により、総合的な探究の時間の履修と同様の成果が期待できる場合においては、課題研究等の履修をもって総合的な探究の時間の履修の一部又は全部に替えることができる」とあります。

したがって、ほとんどの職業学科の生徒は「課題研究」(多くの場合、3学年に3~4単位の必履修科目として置かれています)を履修していて、「総合的な探究の時間」は履修していないという現実もあります。

つまり、すべての高校が修学旅行のプログラムに「探究的な学習」の機会を求めているわけではない、ということも踏まえておいてよいかと思います。

それでも、いま、多くの学校では「探究的な学習」が積極的に進められています。修学旅行での体験活動を「探究的な学習」につなげたいと考える学校も、その取り組みの度合いにかかわらず確実に増えています。そのため、修学旅行の受入地(施設)に求められる体験活動のプログラムは、今後、一層多様化していくことが予想されます。

したがって、「探究学習」を意識した体験プログラムは、学校の求めに応じて柔軟にアレンジできるものであることが望ましい。また、期待される学習効果を学校が得るためには、受入地(施設)との事前のすり合わせをこれまで以上に綿密に行うことが大切であると考えています。時間と手間はかかりますが、学校は旅行会社任せにすることなく、ダイレクトに受入地(施設)と連絡をとってプランを練ってほしい。そして、受入地(施設)にも、学校と連携してその教育活動の大切な部分を担っていただくとともに、生徒たちがその地のファンとなり、リピーターとなっていくような取り組みが求められていると思います。

竹内秀一(たけうち しゅういち)

竹内秀一(たけうち しゅういち)

(公財)日本修学旅行協会理事長。東京教育大学文学部史学科(日本史専攻)卒業。神奈川県立、東京都立の高等学校教諭(いずれも日本史担当)、都立高等学校副校長を経て都立高等学校長。東京都歴史教育研究会会長、全国歴史教育研究協議会副会長。昨年度まで順天堂大学国際教養学部の非常勤講師として教職課程担当。

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