日本と国連の連携で「観光レジリエンス(回復力)サミット」初開催、「仙台声明」を採択、自然災害や危機発生時の影響防止・最小化に向けて

アジア太平洋地域の「観光レジリエンスサミット」が2024年11月10日に仙台市で初めて開催され、閣僚級会合で共同声明として「仙台声明」が採択された。

このサミットは、日本がUNツーリズム(国連世界観光機関/UNWTO)と連携して実現したもの。観光のレジリエンスは、自然災害や各種の危機発生時の混乱や逆境に、コミュニティや地域が耐え、適応し、回復する能力。UNツーリズムでは、その力を向上させるためには、観光地や観光事業者が次の危機が起きる前に積極的な戦略と対策をおこなう必要があるとしている。

サミットには、日本を含めマレーシア、フィジー、パプアニューギニア、ラオス、韓国、東ティモール、パラオ、フィリピンの9カ国、UNツーリズム、国連防災機関(UNDRR)、太平洋アジア観光協会(PATA)、日本観光振興協会、日本旅行業協会(JATA)、日本政府観光局(JNTO)の7機関が参加した。

会合の冒頭ではUNツーリズムのゾリッサ・ウロセビッチ氏が、世界各地で危機が多発している中、観光レジリエンスは重要性が増していると明言。その重要性のあらわれとして、今年2月に国連総会が2027年を「持続可能なレジリエンス国際年」とすることを採択したことを紹介した。

また、地域にとって「観光レジリエンスへの取り組みは、未来への投資」になるとの考えを示し、その対応や取り組みで、今後はAIやデータ活用が重要になると指摘。AIやデータ活用で、コミュニティの取り組み状況を明確化していくことができると話した。

また、アジア太平洋部ハリー・ファン氏は、今回の会議が仙台でおこなわれることの意義を強調。東日本大震災からの観光の復興が実践された仙台の取り組みは、世界が学ぶべきであるとの考えを示した。

UNツーリズム、ゾリッサ・ウロセビッチ氏

大臣級会合では、自然災害やコロナ禍を経て、各国が観光分野の脆弱性を再認識したことを共有。世界の観光の規模が拡大し、経済・社会における観光の影響は増大すると予測されるなか、世界がSDGsに向けて取り組むうえで「観光レジリエンス」の重要性を再認識した。

また、各国からの知見や経験、取り組みを共有。日本からは、各地域における観光危機管理の推進、東日本大震災からの復興の取り組みとして整備された「みちのく潮風トレイル」を活用した広域的な観光ルートの促進や、伝承館と連携しながら進める商品開発を国と後押ししていることなどが説明された。

斉藤鉄夫国土交通大臣「仙台声明」を採択、今後の観光レジリエンスの指針に

サミットで採択された「仙台声明」では、今後の観光レジリエンスへの取り組みの方向性と、その枠組みを危機前と危機後に整理。観光にかかわる多様な関係者との連携、協力のもとに取り組みを進めていくべきであることを確認した。

危機前の取り組みでは、危機や自然災害による影響の予防と最小化を推進。具体的には、各地域の地理的状況や観光産業の特性を踏まえたリスク把握や評価をおこない、関係者の役割の明確化と連携体制を構築する。

また、アプリなどを通じたリスクの事前周知、発生時の迅速かつ正確な情報収集と発信をおこなうとともに、風評被害対策を進めていく。さらに、訓練などを通じて個人や組織の対応力を向上させる。

危機が発生した後の取り組みについては、影響の吸収と回復過程の適応・変革に努めていく。危機や自然災害からの教訓を観光戦略に活かし、観光関連事業の継続・再開に向けて官民連携を強めるほか、観光需要の回復期には、各地域の将来像に沿った新たな観光商品の開発を進めていく。

閣僚級会合の終了後、斉藤鉄夫国土交通大臣は会見で「持続可能な観光を実現するうえで、観光レジリエンスの向上は、今や世界共通の課題」との認識を示したうえで、「観光分野における復興や回復に関する経験や知見は、それぞれの国で蓄積されている。しかし、広域的な共有までには至っていない」と指摘し、サミット開催の意義を説明した。

さらに、自然災害が多い日本が世界でリーダーシップをとっていける分野であることを強調。「日本が観光レジリエンスの先進地となるべく具体的な取り組みを進めていき、第2回以降のサミットでは参加国を増やしていくとともに、世界に有意義な取り組みであることを知らせていく」と意欲を示した。

「仙台宣言」について説明する斉藤国交大臣(右)と郡仙台市長

仙台市、サミットを契機に観光危機管理マニュアル作成

サミットが開催された仙台市は、東日本大震災からの復興に取り組んでおり、2015年には第3回国連防災世界会議が開催され、「仙台防災枠組2015-2030」が採択された。

仙台市の郡和子市長は、「仙台市としては、『仙台声明』を踏まえて、アジア太平洋の各国と連携しながら、より一層観光レジリエンスの向上に取り組み、その重要性を国内外に発信していく」と発言。また、サミット開催を契機として、新たに観光危機管理マニュアルを作成したことを明らかにした。そのうえで、「観光事業者などの理解を得ながら、訓練やセミナーなどを開催し、観光客の安心安全に取り組んでいく」と付け加えた。

サミット初日には、各国閣僚の歓迎レセプションを仙台近郊の秋保温泉の老舗旅館で開催。また、市内では観光事業者向けへの事前のワークショップや市民向けの講座などをおこない、サミットの成功に向けて観光レジリエンスの機運醸成、理解促進の活動をおこなった。

歓迎レセプションや二国間会談は秋保温泉の老舗旅館「佐勘」でおこなわれた

仙台駅周辺には、開催を周知する看板がかけられた

閣僚級会合の終了後におこなわれた仙台市内のエクスカーションでは、実際に東日本大震災の遺構を訪れた(震災遺構 仙台市立荒浜小学校)

エクスカーションの様子。震災遺構 仙台市立荒浜小学校の教室でジオラマを前にガイドが震災当時の様子を説明

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