みずほ総合研究所はこのほど、2020年のホテル客室数不足に関する新たな試算をおこなった。インバウンド需要、国際便やクルーズ船寄港回数などの要因に関する予測を踏まえ、複数シナリオを用いて宿泊需要を考察したもの。
※ここでは、日本人と外国人のそれぞれの宿泊需要について、「上振れ」「下振れ」「標準」の3パターンを設定。日本人と外国人の需給バランスについて3×3=9種類のシナリオを用意し、地域別に実際の不足数を試算した。一方、供給側については、2017年時点の客室数に2020年までの新規開設計画を反映した「標準シナリオ」と、既存施設の閉館なども加味した「下振れシナリオ」を設定。需要と供給それぞれの予測値を用いて客室不足数を算出している 。
それによると、2020年通年の全国の宿泊需要は、標準的なシナリオで対2017年比約4.0%増の約5億3000人。日本人と外国人が上振れるシナリオでは、約17%増の6億人に増加する見通しに。一方、客室の供給側は、標準シナリオで2017年より4600室増加。ビジネスホテルを中心に、リゾートホテルやシティホテルも増える予測となった。
東京は8月・11月・12月に客室不足の可能性
一方、レポートでは、2020年の英・ロンドン五輪開催時の推移を参考に、2020年の東京の状況を月別に検証。オリンピック開催中に英国人によるロンドン訪問が急増したため、本来ロンドン訪問を希望していた外国人が訪問を別の時期にシフトする「五輪によるクラウディングアウト効果」を加味して分析した。
その結果、1月~7月、9月~10月については、いずれのシナリオでも客室が不足することはないものの、五輪開催時期の8月には日本人が東京に集中して宿泊することで、最大1万3700室程度の不足が発生。また、五輪開催時期に混雑を避けて減少した外国人宿泊者が11月~12月にシフトするため、両月では客室が不足する可能性もみられた。
稼働率をみると、宿泊需要が上振れする場合(シナリオ2、4、5、6)では、稼働率は9割を超え、かなりひっ迫する見通し。
東京都内の市区町村別分析では、多くのシナリオで不足が発生するのは新宿区、文京区、渋谷区。文京区では他と比較してホテルの新規開業計画数が少なく、新宿区と渋谷区は外国人の需要が高いことが要因とされている。
外国人の需要次第でリゾート・シティタイプのホテル不足も
また、都道府県別分析によれば、2020年通年でみると東京都はどのシナリオでもホテル客室数は発生しない。ただし、外国人の宿泊需要増加にともない、九州や沖縄、大阪では不足するケースが発生。特に外国人旅行者数が上振れした場合は、外国人需要のシェアが大きい地域を中心にリゾート・シティタイプのホテルで不足する可能性が示唆された。
なお、今回の試算によれば、2020年の訪日外国人旅行者は4402万人。内訳は、中国の割合が全体の3割弱、韓国・台湾・シンガポールなどのNIEs諸国が約5割、ASEANと欧米豪はそれぞれ1割弱を占める結果となった。ただし、クルーズ船の寄港回数増加やLCCの新規就航・増便などにより、この数字は下振れする可能性もあるとしている。
併せて同レポートでは、2020年の東京五輪開催が訪日外国人数に大きな変動を及ぼす可能性は低いとみている一方で、五輪後の需要増や、米国など世界の景気減速による下振れリスクにも留意する必要があると考察している。