ニュージーランド航空日本支社長に、前フィンエアー日本支社長の永原範昭氏が2024年1月1日付で就任した。永原氏は1990年にニュージーランド航空に入社。2009年まで19年間にわたって幅広い業務に携わり、今回およそ14年ぶりにニュージーランド航空に復帰した。「航空会社だが、デスティネーションとしてのニュージーランドを売っていくのも我々の使命」と話す永原氏に、日本人旅行者増加に向けた取り組みを聞いた。
教育旅行はすでに2019年越え
2023年のニュージーランドへの日本人旅行者数は約5万2000人。コロナ5類移行後、急速に回復し、前年比ではおよそ4倍となった。ただ、コロナ前2019年の約9万8000人にはまだ遠い。それでも、永原氏は「アウトバウンド全体と比較すると、少し前を行っている感じはある。時間が経てば、いずれ戻ってくるだろう」と前向きだ。
そのなかで、短期留学、長期留学、高校の語学研修プログラムなど教育旅行が好調だという。「昨年の夏あたりから戻り始め、今ではすでに2019年レベルを超えている」と明かす。英語教育プログラムが充実している国では、団体向け座席のブロック販売を控える航空会社もあるが、「ニュージーランド航空にとって教育旅行は大きな柱の一つ」(永原氏)であることから、ブロック販売を継続していくという。
一方、レジャー旅行者はまだ2019年比で30%前後。 その理由として、永原氏は、「Go Toトラベル」などで日本人旅行者の国内への関心が高まったことと円安を挙げる。ただ、円安については、他の長距離デスティネーションと比べて競争力があると話す。1ニュージーランドドルは約98円(7月11日時点)。例えば、30ニュージーランドドルの価値は、他国の同じ価格と比較して日本人にとって「バリューフォーマネー」と自信を示した。
また、永原氏は「コロナ禍で止まった旅行会社の商品造成の復活が遅れているのも大きい」と指摘する。いわゆる売れ筋コースの商品が中心で、その数も大幅に減っているという。航空券を直販で購入し、ホテルをOTAで予約する個人旅行者も増えているが、ニュージーランドは大自然を満喫するアドベンチャー旅行が特徴のデスティネーションであることから、「旅行会社の協力は欠かせない」と話す。
「Wジャパン2.0」で早期の年間10万人へ
永原氏は、就任にあたり「Wジャパン2.0」という目標を掲げた。これは、以前の日本支社長が就任する際に東日本大震災で落ち込んだ日本人旅行者数を倍増させるために掲げた「Wジャパン」を引き継ぐものだ。「その当時と今は状況は似ている。コロナ禍で5万人まで落ち込んだ日本人旅行者をコロナ前の10万人程度まで戻していく」と決意を示した。
さらに、海外旅行市場におけるニュージーランドのシェアを現在の0.5%から以前の1%まで回復させる。「今のキャパシティでは年間10万人は難しいが、将来的には関空線の復便も視野に入れながら、大きな目標として追いかけていきたい」考えだ。
ニュージーランド航空は、今年10月29日から成田/オークランド線の供給量を増やす。新たに週3便をボーイング777-300で追加するほか、既存の週7便も同型機に大型化する。ニュージーランドからの訪日需要の高まりに加えて、日本発ではベストシーズンとなるニュージーランドへのレジャー客とともに、1月~3月に集中する教育旅行需要の拡大も見据える。
また、永原氏は、機材が大型化されることで、ビジネスクラスとプレミアムエコノミークラスの座席数も増えることから、「アッパークラスの売上が今年度の予算達成に向けて一番大事なところ。旅行会社にもその商品化をお願いしていきたい」と付け加えた。
需要喚起の打ち手を次々と、先住民観光にも期待
ニュージーランド航空では、日本発の需要喚起策を次々と打ち出している。ハネムーン・デスティネーションの復活を目指し、初めてのハネムーンだけでなく、バウリニューアルもターゲットに、無料往復航空券を抽選でプレゼントする「ハネムーンって、一度だけ?」キャンペーンを展開した。6月13日出発、6月17日帰国と日付が決まっていたものの、50組の募集に対して、1万7000件以上の応募があり、「予想を覆す反響」(永原氏)だったという。キャンセルもあったことから、最終的に47組94人がニュージーランドを訪れた。
また、インフルエンサーキャンペーンも実施。SNSやYouTubeで活躍しているインフルエンサーを募集し、一人一人と面談を行なったうえで、10人弱を7月から順次ニュージーランドに派遣。現地での活動や観光コンテンツを随時投稿しもらう。
さらに、ニュージーランド政府観光局が今年4月から開始した新しいキャンペーン「旅パ抜群ランド、ニュージーランド」でも共同プロモーションをおこなっている。
永原氏は、「コロナの期間は何も動けなかった。今年度になってようやく積極的な施策を打てるようになった。これからも、プロモーションを途切れないように継続していきたい」と力を込めた。
このほか、永原氏は、日本市場向けの新たな観光コンテンツとして、ニュージーランドの先住民「マオリ」の伝統文化に焦点を当てた「マオリ・ツーリズム」にも期待をかける。ニュージーランド国内でも、SDGsの観点からマオリの伝統文化が見直され、日常生活でもその価値を取り入れる動きが強まっているという。観光の文脈でも、マオリの自然に対する姿勢や考え方に触れるツアーが造成されていると明かす。永原氏は、「国の観光政策としてもマオリツーリズムを推進している。新たな学びの観光として、日本人にも受け入れられると思う」と期待をかけた。
一方で、ニュージーランド航空日本支社としては、日本発に加えて、ルートターゲットとしてニュージーランドから日本へのインバウンド需要の拡大にも力を入れていく。現在、ニュージーランドからの訪日客は年間約5万人。全人口の約100分の1にあたる。まだゴールデンルートや冬のスキー需要が中心だが、「ニュージーランド人は日本の文化に自国と近いものを感じている。旅行中も不快感を覚えることは全くない。円高に振れても、増加傾向は続くのではないか」と見通す。
革新的な航空機でニュージーランドへ
ニュージーランド航空は、さまざまなイノベーションを生み出す航空会社だ。「Hangar 22」と呼ばれる社内ラボが、先駆的な取り組みを打ち出している。今年からは、これまでよりも広いスペースで2人が座れ、完全密閉型でプライバシーが確保される新しいビジネスクラス「Business Premier Luxe (ビジネス・プレミア・ラックス)」をボーイング787-9に導入。さらに、エコノミークラスでは、コンパクトなベッドを備えた独立型の「Skynest (スカイネスト)」を世界で初めて導入した。
昨年末には、「Mission NextGen Aircraft」プログラムで同社初の次世代航空機として電動航空機「ALIA」の購入を発表した。2026年までに商業用デモ飛行の実現を目指す。
このほか、航空機からの二酸化炭素排出の削減にも積極的だ。今年6月には、中国のEcoCeresによって100%使用済み調理油から製造され、エクソン・モービルによって供給・混合された持続可能な航空燃料(SAF)を50万リットルを購入。これは、オークランドからウエリントン間をA320機で飛行する際の飛行回数165便分に相当するという。
革新的な航空機でニュージーランドへ。「ニュージーランドには大きなアイコンはないが、1度行くと、また行きたくなる国」と永原氏。ニュージーランド航空は今後も、航空会社として行くきっかけ作りにも力を入れていく。