AP通信が、コロナ禍にある南アフリカの観光産業の状況を報じている。コロナ感染拡大によるパンデミックをうけ、南アフリカでワイナリー・ツアー会社を営むライノ・ボルツ氏が2020年3月にビジネスを“多角化”した。
ボルツ氏は使わなくなったミニバスを売却し、牝牛を数頭、購入。子牛が生まれて売れる大きさに育ち、儲けが出るのは来年初めになるが、これは一種の保険だという。南アフリカ観光のベストシーズンが到来する11月には、観光客が多少は戻ってくると期待しているが、年末の休暇シーズンになっても外国人旅行者が戻らなければ、子牛を売って生活費を捻出するしかない。収入の8割は外国人客が占めていた――。
WTTC(世界旅行ツーリズム協会)によると、2020年、アフリカ地区のGDPは、コロナ禍による観光産業への打撃により530億~1200億ドル減と予測されている。ケニアでは、今年の観光収入は少なくとも前年比60%減、同様に南アフリカは75%減となる見込みだ。
南アでは、観光関連で120万人の雇用がすでに影響を受けている(同国観光ビジネスカウンシル調べ)。アフリカ随一の先進国である南アですら、この数字は雇用全体の1割近くにのぼる。さらにもっと増える可能性もあり、同カウンシルの最高経営責任者、チフィワ・チヴェンガ(Tshifhiwa Tshivhengwa)氏は「壊滅状態」だと話す。南アでは、国際線が乗り入れる空港を含め、すべての国境が封鎖されて6か月。観光の主役だったサファリは開店休業を強いられている。
過去40年近く、ボツワナ北部のオカバンゴ・デルタでサファリツアーを販売してきたデザート&デルタ社によると、顧客層は常に特定層に偏よっていた。その内容は、北米または西ヨーロッパからやってくる、定年退職後のお金と時間に余裕ある旅行者たちで、年齢は60歳以上。だがコロナ禍では、年齢などが高リスクとなるため、こうした客層は旅行の再開が一番遅いのではないかと心配している。サファリ人気に依存してきたアフリカ南部から東部で共有されている懸念だ。
コロナ危機を好機に、偏った客層から脱却を
一方、この危機が好機につながると考えているのは、ボツワナ、ナミビア、ザンビア、ジンバブエのサファリ観光協会で最高責任者を務めるジリアン・ブラックビアード氏だ。アフリカ南部でサファリ観光が完全復活するまで3年はかかると考えているが、長年の課題が一気に解決に向けて動き出すと見る。マーケットが欧米からの白人年配客という、限られた客層に偏重していることは、以前から問題視されていたが、同氏は今回の危機をきっかけに、地域全体で客層の多様化を目指すべきだと訴えている。例えばアフリカ域内からの旅行者向け商品の開発や、アジアの様々な年代層の旅行者、アメリカの黒人層などをもっと開拓するべきとの考えだ。
「とても長い間、アフリカ旅行のパンフレットは、年配の白人客のイメージで埋め尽くされてきたが、コロナ危機でようやく意識が変わった。マーケットをもっと多様化して、危機に負けない産業にするためには、どうしたらよいかを考えるようになった」。
アフリカでは、規模を問わず、あらゆる事業者が打撃を受けている。南アなど数カ国でカジノやハイエンド向けのリゾートを展開するサン・インターナショナルでは、従業員8500人の雇用について、報酬を減額しながらも継続してきた。だがホスピタリティ事業担当の最高執行責任者(COO)、グラハム・ウッド氏は現在、「かなり厳しいリストラ策を検討せざるをえない状況」と話す。
同社が運営する5つ星ホテルで、ケープタウンの海辺に建つテーブルベイ・ホテルは半年ほどクローズしている。周辺も同じく閉鎖中のホテルが多い。ウッド氏は、2020年末、海外旅行に行かれない南アフリカの人々が国内を旅行する特需を期待している。実際、8月には国内観光の需要が急増した。南ア政府が3月から実施していた観光目的での州をまたぐ移動規制をようやく緩和したからだ。しかし海外客については、今年のピークシーズンは「ビジネスにならないだろう」(同氏)。
ケープタウンに近い南アのワイン産地、ステレンボッシュ近くに拠点を置くボルツ氏は、地元客向けのビジネス開拓に取り組んでいるが、成果は「バケツの中の一滴」ほどで、「これでは事業を継続できない」と嘆く。
当面は、ハイキングとサイクリングを組み合わせたワイン試飲ツアーを催行し、海外客がいない状況を乗り切ろうとしている。次の観光シーズンまでには客足が戻るとの観測を信じているが、来年初めには結論が出るだろう。その頃には、地域環境やワインに詳しいツアーガイドたちを再び雇うことができるだろうか。ガイドたちは目下、洗濯屋や失業者向けの慈善事業、スープキッチンなどで働いている。観光業の今後について、ボルツ氏は「海外との国境がオープンしない限り、まともなビジネスは戻ってこない」と話した。