日本海外ツアーオペレーター協会(OTOA)は2021年6月11日、第30回通常総会を受けた記者会見を開催し、新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延で消失した海外旅行市場復活への見通しと需要回復に向けた課題について言及した。
OTOAとは、日本人旅行者の海外旅行先の手配サービスや現地オペレーションを専門に行う旅行会社が集まる組織。会長の大畑貴彦氏は「この1年間、会員の売上は完全にゼロ。大半の会員が、経営維持・事業存続に翻弄され、雇用調整助成金や社内留保で何とか生き延びている」と厳しい現状を吐露。一方で、今年に入り日本を含めた世界各地でワクチン接種が加速度的に進んでいることから、「世界的にワクチン接種率70%が旅行制限解除の目安。ようやく一筋の光明が見え始め、日本でも遅くとも年明けには動き出すのではないか」との期待感を示した。
ただし、日本人のワクチン接種が進んだ場合も、「日本人、旅行業界にとって、帰国後の14日の隔離が大きな壁になる」と指摘。日本旅行業界(JATA)/アウトバウンド促進協議会(JOTC)とも連携しながら国・政府に訴えていく考えを明らかにするとともに、ワクチン接種者が円滑に移動できるよう各国で導入が進んでいる「ワクチンパスポート」についても、「国際基準に沿って導入しないと、この国は良くてこの国は駄目という状況が起こりかねない」と懸念を示した。
コロナ後の担い手不足が深刻化
一年以上にわたる海外旅行の消失により、アフターコロナの担い手不足も深刻化している。大畑氏によると、世界各地で有能なガイドやドライバー、ホテルスタッフが一斉に職を失った結果、日本語能力を活かして異業種に転職する人が続出しているという。また、日本の旅行会社でも、コロナ禍で海外旅行の知見に優れる社員が他部署への異動や出向を余儀なくされている。
こうした課題に対し、大畑氏は「観光業界全体の復活には、GoToトラベル事業などで一時的に国内旅行だけを促進するのではなく、国内旅行、海外旅行、訪日旅行が進むべき道を一つにまとめ、行動を起こすことが不可欠。人材の問題も含め、マイルストーンを設定し、進むべき工程の中で、重要となるポイント、プロセスを考えるべきだ」と訴えた。
旅行会社からの手配代金の後払いは「もう通用しない」
記者会見では、旅行会社とツアーオペレーターとの事業者間取引の適正化にも言及。OTOAは長年、旅行会社からの手配代金の支払い早期化を訴えてきたが、コロナ禍で世界各地のホテルやレストランから以前にも増して前払いを求められるケースが増えているという。
OTOA副会長の荒金孝光氏は、「カナダをはじめ、欧米はすでに海外旅行が部分的に進んでおり、ホテルが取れなくなっているケースも少なくない。中国人の旅行需要も日本より早く動くと想定され、日本だけが後払いはもはや通用しない」と指摘。経営が厳しいOTOA会員各社が、事業を継続するためにも「旅行会社には手配契約内容を正しく理解し、履行してもらいたい」と要望した。
なお、2021年3月末時点のOTOA正会員数は前年度末比18社減の111社。厳しい経営環境下でわずか18社の減少にとどまったのは、特例措置として新年度から年会費を半額にしたことが大きいという。大畑氏は、「OTOAでは可能な限り会員の経営維持・事業存続を支援する一方、国際交流の再開後を見すえ、安全情報をはじめとする最新の現地情報の発信を強化するともに、観光関係者と協働で需要喚起、メディアも活用したムーブメントの創出に取り組みたい」と意欲を示した。