アフリカ南部で発見された新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」が、世界の観光産業にどれほどのインパクトを与えるのか。まだ現時点ではわからない。しかし、政府が実施する措置を見極める段階にはある。
グローバルで主要なホテルの経営陣が、2022年は記録的な年になるだろうと予測を立ててから数週間もしないうちに、観光産業を再び脅かす新型の変異種が現れてしまった。オミクロン株が検出されたことで、世界各国はアフリカ南部の国を中心に渡航制限を課した。
米国のジョー・バイデン大統領は、オミクロン株を「懸念の変異」と位置付ける一方で、パニックになるようなものではないと強調した。しかし、オミクロン株が、観光回復のスピードを遅らせるのは明らかだ。
オミクロン株が世界に与える影響を評価するのは早いが、政府の反応は、たとえそれが過剰反応だとしても、過去を思い出させるものになっている。あの時、多くのホテルが回復を諦め、それが世界の潮流になってしまった。
新変異種についての判断は時期尚早
調査会社バーンスタインのマネージング・ディレクターであるリチャード・クラーク氏は「政府の過剰反応と旅行業界への規制は、将来にわたって語り継がれる新型コロナウイルスの遺産として残るだろう。今回も、その一部だ」と話し、この新しい変異種について判断を下すのは早いと警告する。
彼は「コロナ前、政府がこうした特定の権限で、健康上の理由でフライトを止めたり、国境を閉鎖することができると分かっていた人は恐らくいないだろう」と続けた。
米国、イスラエル、英国などは、新たな旅行規制を、感染急増に備えるための時間稼ぎの措置として位置付けている。皮肉なことに、デルタ株については、渡航禁止を実施している多くの国の方が、一時的に国際旅行を停止している国よりも、感染者数は多い。
多くの国では、国境を再開した数週間後に再び制限をかけることになってしまった。米国では11月初旬から、南アフリカも含む33カ国からワクチン接種を完了した外国人旅行者の受け入れを再開した。米国のホテル業界は、この緩和は業績回復の重要な一歩になると期待していた。
旅行規制がもたらすものは?
旅行規制は、パンデミックに対する戦略として必要なものと見なされ、すぐにでも国境を封鎖すべしと政府に訴える人もいた。ブースター接種を含むワクチン接種が始まる前は、国境封鎖は政府が取れる数少ない手段のひとつだった。
そのなかで、観光事業者の中では、ここ数週間、感染防止のための規制の有効性やその行き過ぎた対応を批判する声も出てきた。中国が行った新規感染者に対する厳格すぎる対応は、一時は世界の見本とされたものの、経済的な困窮を進めることになった。
中国のホテル業界は一時、パンデミックからの回復で世界をリードしていたが、ここ数週間を見ると、長距離旅行者に頼りがちな欧州のホテルでさえ、中国のホテルの業績を上回るようになってきた。
ターゲットを絞った今回の旅行規制によって、それがどれほど続くか分からないが、ホテル業界や旅行業界の人たちは、ぐっすり眠ることができなくなるだろう。
クラーク氏は「私が心配しているのは、オミクロン株による旅行規制によって、旅行者の行動が再び変化し、その行動思想が長期的に続いてしまうことだ」と話す。政府が観光産業の回復力を阻害することに懸念を示すのはクラーク氏だけではない。
マリオット、ヒルトン、IHGの各CEOはニューヨークで今月初めに開催された会議で、2022年の業績予測について上方修正することを明かした。
一方、アジア太平洋で多くのホテルを展開するアコーCEOのセバスチャン・バジン氏は、それほど楽観的ではなかった。オミクロン株が発見される前、2022年の見通しについては「分からない」と答え、「ワクチン接種率と政府の考え方次第。それには全く納得いかないが」と続けた。
旅行規制とワクチン配分への議論が再燃
旅行規制の新しい波は、ワクチンの公平な分配の議論を再燃させた。Skiftのグローバル・ツーリズム・リポーターのレバイト・リリー・ギルマ氏によると、西側諸国が最初にワクチンを買い占めために、アフリカの大部分の国が取り残され、1回目の接種さえも終えていないところも多い。2回の接種を完了した割合は米国で62%、欧州で64%である一方、アフリカでは少なくとも1回の接種を完了した人はわずか10人にひとりだ。
公平なワクチンの分配は、経済的損失を拡大させる渡航禁止令よりも、将来の変異種出現を回避するための有効な手段のように思える。
南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は、南部アフリカに対する旅行制限を強く避難した。また、タイムズ紙によると、ジョー・ファーラ保健大臣は米国の保健福祉長官との会談で「あなたにできることは、大統領や政府に対して旅行規制が役に立たないことを伝えることだ。それは物事をさらに難しくするだけだと」と話したという。
※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:Hotel Industry Faces Omicron Variant With Concerns About Travel Bans
著者:キャメロン・スペランス氏