タイ第2の都市チェンマイは、ロングステイと呼ばれる長期滞在を楽しむ日本人にとって人気の町だ。チェンマイが選ばれる理由はどこにあるのだろうか。その魅力について、現地に滞在する日本人に聞いてみた。
1296年にランナー王朝初代メンラーイ王によってピン川のほとりに建設されたチェンマイ。堀と城壁に囲まれた旧市街には古都らしい風情が残る一方、流行の先端を走るショップ、カフェ、レストラン、ブティックホテルなども建ち並ぶ。そんな新旧が交差するチェンマイは、世界中の観光客を惹きつけている。
物価、医療、気候など年金族には最適のチェンマイ
海外ロングステイをサポートするNPO南国暮らしの会に所属する宮原正宇さんと寺田和義さん・光江さん夫妻が今年チェンマイを訪れたのは2018年1月11日。今回は3月上旬まで滞在するという。
「乾季の12月〜2月がハイシーズン。南国暮らしの会の会員だけでも150人ほどが来ています」と話す宮原さんは、チェンマイでのロングステイを始めて今年で11年目。寺田ご夫妻は2003年に初めて訪れた。
南国暮らしの会では現在、海外9支部あるが、会員数はチェンマイが一番多いという。宮原さんは、「やはり、年金族なので、一番の決め手は物価の安さ。いかに年金で暮らしていけるかを考えました。ハワイもいいけど、年金では無理ですね」とチェンマイを選んだ最大の理由を話す。「医療施設の充実もシニアとっては重要なことですね」と光江さん。チェンマイには大規模な病院も多く、日本語通訳が常駐しているところも多いという。
「特に病院は日本語が通じないと不安ですよね。たとえば、『胃がキリキリ痛い』『しくしく痛い』といった症状を伝えるには日本語でないと難しいですよ」。軽い病気であれば、海外旅行傷害保険でカバーでき、病院が直接保険会社に請求してくれる点も大きいと宮原さん続ける。
光江さんは女性ならではの視点から、「今住んでいるのはサービスアパートメントですが、週2回、掃除とリネンなどの交換をしてくれる。女性にとってとてもはありがたいです」と、チェンマイの住環境のよさもメリットとして挙げた。
チェンマイでロングステイを考えている人は、まずホテルに滞在して現地暮らしを体験したあと、本格的な長期滞在用にコンドミニアムやサービスアパートメントを借りるケースが多いという。
最低でも1ヶ月、長期では3ヶ月滞在するのが一般的。ノービザでタイに滞在できるのは29泊30日以内。3ヶ月滞在する場合は、在京タイ大使館で60日以内の観光ビザを取得し、現地でさらに30日の延長ビザを取得する。または、ノービザ期間あるいは60日観光ビザが切れる前に、一度第三国に出国し、再びタイに戻ることでも滞在を伸ばすことが可能だ。宮原さんと寺田ご夫妻は、今回のロングステイでも、ベトナムへ周遊旅行に出かけることになっている。
チェンマイを含めたタイ北部で、駐在なども含め「根をおろして」滞在している日本人数は現在のところ、チェンマイ日本人会の会員277人、チェンマイ・ロングステイライフの会(CLL)で163人、チェンライ日本人会の会員63人。一方、数ヶ月単位での滞在となる「渡り鳥的なロングステイ」の南国暮らしの会は140〜150人。「入会していただければ、はじめてのロングステイでも、いろいろなお手伝いをしています」と宮原さんは強調する。
観光旅行でも役立つチェンマイ・ロングステイの知恵
チェンマイでのロングステイが10年以上になるベテランの3人に現地暮らしの知恵もいくつか聞いてみた。それは、「長期滞在だけでなく、一般の旅行でも役立つこと」(光江さん)だ。
門という意味の「プラトゥー」というタイ語を覚えておくと便利
「旧市街には5つの門があり、それが目印になる。ソンテウ(乗合バス)やトゥクトゥク(三輪タクシー)でどこかに行きたい時、あるいは迷った時などに便利」(光江さん)
ソンテウをうまく利用すること
「長期滞在者は車を持っている人が少ないので、日常の足としてソンテウが頼り」(宮原さん)
「ソンテウには行先によって7色あり、赤が市内を走る。料金は約20バーツ(2018年2月現在、約70円)。数人集まれば、チャーターして近郊に行くことも可能」(光江さん)
「トゥクトゥクも便利だが、観光客は現地人よりも何倍もの料金をふっかけられる」(和義さん)日本人向け現地フリーペーパー「ちゃ〜お」は現地情報の宝庫
「月に2回発行。詳細な地図も付いているし、旅行者にも役立つ情報が載っている。ホテルや日本料理屋で手に入ります」(光江さん)
信号を渡る時は注意が必要
「タイでは、前方の信号が赤でも左折はOKなので、横断歩道を歩くときには注意が必要」(和義さん)
料理を注文するときに便利な言葉
「タイは辛い料理が多いので、日本人は『辛くしないで』という意味の『マイペッ』という簡単なフレーズを覚えておくと便利」(和義さん)
野良犬に気をつけること
「タイでは飼い犬でも放し飼い。野良犬は徒党を組んで、囲んでくる。日本人は、かわいいから近寄っていくが、犬猫は狂犬病接種などもしてないから、絶対に触ってはダメ。なぜか外国人が狙われやすい。だから、避けるコツは、近寄ってきたらタイ人と一緒に歩くこと。そうすれば絶対に襲われない」(光江さん)
見所多いチェンマイ、「数日で全部回るのは無理ですよ」
今回のロングステイでは、最近人気が高まっているアドベンチャーランド「グランドキャニオン」、近郊のランパーン、女性に人気の森のレストラン「Khaomao Khaofang Restaurant」、温泉、ゴルフなどを楽しむ予定だという3人。「ご家族や友人がチェンマイを訪れたら」という想定で、市内の見どころも教えてもらった。
「まずは旧市街のお寺巡りでしょうね」と光江さん。そのなかでも一番有名なのは「ワット・プラシン」。ランナー王朝第5代パーユー王によって1345年に建立されたチェンマイで最も格式の高い寺院だ。
お堂の壁には色鮮やかな壁画が施され、SNS映えする寺院でもある。「ワット・チェディルアン」もぜひ立ち寄りたい寺院のひとつ。チェディとは仏塔、ルアンとは大きなという意味。創建当時の仏塔の高さは約80メートルもあったと言われている。
旧市街以外でも、瞑想できる寺院として人気のある「ワット・ウモーン」、標高1,080メートルのステープ山に立つ「ワット・プラタート・ドイ・ステープ」と見どころは多い。
また、光江さんは、「チェンマイなら、ちょっと贅沢な時間も過ごすことができる」と話し、お気に入りの場所としてピン川沿いにあるカフェレストラン「ナカラ・ジャルダン」を教えてくれた。「そこでランチやケーキを食べるのが楽しみ」だという。
宿泊するにも、食事をするにも非日常を楽しめる個性的なホテルもいくつか紹介してくれた。旧市街の中にあるブティックホテル「タマリンド」は、竹林に覆われたエントランスが「SNS映えする」と人気。ピン川沿いに立つ高級リゾート「アナンタラ」は、併設のカフェでのんびりするだけでも訪れる価値のある場所だ。
このほか、テレサ・テンが亡くなった「インペリアル・メーピン・ホテル・チェンマイ」やシティホテルながらガーデンファームを持ち、ヘルスツーリズムに力を入れている「チェンマイ・プラザ・ホテル」なども日本人旅行者の間では有名だ。
市場巡りもチェンマイ観光の楽しみのひとつ。最も観光客を集めるのが、午後6時頃になると、チャンクラン通り沿いに次々と屋台が開く「ナイトバザール」。地元アーティストの工芸品や山岳少数民族のテキスタイルなどさまざまな屋台が並び、路地を入ると手頃な値段で食べられるシーフードやタイ料理の屋台なども多い。
また、毎週日曜日には旧市街でサンデーマーケット、毎週土曜日にはチェンマイ門の西側でサタデーマーケットも開かれる。このほか、「チェンマイの庶民の生活を垣間見るならワローロット市場」(光江さん)。地元の生活感が漂う中にいると、歩いているだけでもロングステイしている気分になってくる。
「最近は、ピン川の東側もずいぶんとオシャレになってきました。夜は特に雰囲気がいいです」(宮原さん)と教えてもらったので、ワローロット市場から歩道橋を渡って、ぶらぶらと歩いてみた。タイシルクの隠れた名店「ヴィラ・チニ」をはじめ、こだわりが強そうなアートギャラリー、欧米人に好まれそうなデザインホテル、長い夜も退屈しなさそうなバー&レストランなど並び、落ち着いた大人の雰囲気が漂う。
川辺に下りてみた。夕焼けがピン川を染める。川を挟んだ西側の喧騒はここまでは届かない。地元の若者たちが静かに釣り糸を垂らし、ベンチに座ったカップルは川に反射する夕日で赤く滲んだ雲をじっと見つめている。そこにはチェンマイの飾らない「暮らし」の一場面があった。
取材協力:タイ国政府観光庁
取材・記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹